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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
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4.努力を続けろ

本文の前に用語解説を……


美浦トレセン

美浦トレーニングセンターの略。関東美浦村にある、競走馬を育成するための施設。関西には栗東トレーニングセンターという、もう1つのトレセンもある。


追い運動

育成したい馬を追いかけながら走らせる調教の1つ

「天高く馬肥(うまこ)ゆる秋」も過ぎ、暦上では冬の11月になった。基本的にはナイトと一緒に、何事もなく平和な放牧生活を送っていた。ちょうど葉が枯れ地面に落ちる頃、おっちゃんに呼ばれた。


「これからお前には追い運動を始める。澤井が馬に乗ってお前を追うから、それに追いつかれるな。調教はあのトレーニングコースで行う。それじゃ」


おっちゃんが指さした先には古ぼけたみすぼらしいコースがあった。本当に金ないんだな……とりあえず、俺は荒れたコースに向かった。


















「オラオラオラァ! お前捕まったら馬肉にして食っちまうぞ!」


「ひぃ〜! 助けて〜!」


追い運動は最初からハードだった。本物の馬は想像以上に速くて、追いつかれないように必死だった。だけど、他の子に比べて俺はより一層キツい気がする。シンジ産駒だから?お気に入りだから?いや、多分俺のニートで腐りきった根性をどうにかしようと思ってるんだろうな。なら、俺もそれに答えてやるぜ!


「お前もう終いか? シンジかなんだか知らんが早く馬肉を食わせろ!」


「まだまだ! 俺はこんなんじゃ止まらねぇぜ!」


俺はやるぜ! 勝って賞金取って、俺を育ててくれてる澤井厩務員、俺に期待をよせ、もう一度熱くさせてくれたおっちゃんを助けるんだ!



「この天性のスピード、やはり只者じゃないな。だが、シンジっぽくない。芦毛でこの走り、どっかで見たかな?いや気のせいか?だが、シンジらしさがほんとに無い。完全に独立している。こいつの適切な戦法は、一体なんなんだ?」


「俺は負けねぇ!ウォォォ!」


それから、俺はとにかく頑張った。雨の日も、風の日も、澤井がいない日も、頑張った。全て、気持ちだけで頑張っていた。パケットは、あんまり真面目にやっていなかった。周りの取り巻き、その他大勢もだ。だが、俺とナイトは違う。人よりも多く練習し、より質のいい努力を続けた。


普通の馬なら大変な馴致(じゅんち) (競走馬になるための準備。人やクラを乗せたり、ムチや手網をつけたりして、人が乗れるようにする)も、俺は要らなかった。人とのコミュニケーションは、こういう時にありがたみを感じる。これのお陰で、ほかの馬よりたくさんの時間練習ができた。少し違和感はあったけどね。


1歳の夏頃になると、騎乗(きじょう)運動 (騎手が上に乗って行うトレーニングのこと)も始まった。騎手とも会話を通して親しくなり、毎日のように練習した。時には騎手に呆れられるほど頑張った。騎手がいない時も頑張った。


ずっと、練習、練習、練習の日々だった。だが、月とは流れていくもので、一心不乱で頑張っていたら、もう2月にになっていた。この頃になると、おっちゃんは忙しくなることが増えた。売れた馬のことについて、馬主と話したり、色んな偉い人に頭を下げたり、色々だった。そして、今まで話をしなかったおっちゃんに、久々に話しかけられた。


「お前ももうそろそろ2歳だな。4月には、トレセンに行ってもらうことにした。美浦(みほ)トレセンだ。関東にある、競走馬を育成するための施設だな。知ってるだろ?」


おっちゃんの声は悲しみと嬉しさが混じったような声だった。子の旅立ちを嬉しみつつも、親の元から離れるのを悲しむ。卒業式の一角かよ、ここは。だが、卒業という言葉はあっているな。多くの時間を過ごしたこの場所を離れるというのだから。俺もこの場所を気に入っていた。だが、いつか離れなければ行けないことは知っていた。おっちゃんにも朝会えない。澤井とも競争できない。悪ぃ……やっぱつれぇわ。けど、おっちゃんを心配はさせられない。俺はおっちゃんを見ず、頷いた。


「調教師はもう決まっている。俺の親友だ。きっと気に入ると思うぞ」


ああ、そうだな。ここで俺の牧場での物語は終わる。けど、これから美浦トレセンでの新たな物語が始まるんだ。過去の話の終わりには、次の話が待っている。忘れていたよ。ありがとな。おっちゃん。


「あ、そうだ。おっちゃん、ちょっとやりたいことがあったんだ」


おっちゃんはキョトンとした。その間抜けズラに、挑発的な声でこう言った。


「少し、ケジメをつけてやらんといけねぇガキがいるんでね」

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