3.絆結
用語解説
鹿毛
その名の通り鹿の毛のような色をした馬の事
「さてと、慎二。お前の心は35のおっさんだ。だが、体はまだ産まれたばかりの赤ちゃんにすぎん。とりあえず母さんと一緒にいなさい。また少ししたら、放牧させてやる。そこで色んな馬とコミュニティを築け」
「おっちゃんにおっさん言われるのは腹立つが、まぁわかったぜ」
そこからは早かった。起きては母乳貰って寝て、起きては母乳貰って寝てを繰り返したら10日たっていた。そして、放牧の日も過ぎ、離乳の日になった。俺は自由に歓喜し、どんな馬がいるのかと期待しながら群れに入った。
「よう、新入り。俺の名前はスーパーパケットだ。お前より年上だな。ここ一帯を占めている。よろしくな」
いかにも柄悪そうな鹿毛の馬が話してきた。普段ならあまり関わりたくないんだが……豪に入れば郷に従えだ。少しばかり会釈をする。
「私は青空慎二です。よろしくお願いします」
これで問題ないはずだ。俺はここを去ろうとした。しかし、パケットがそれを拒むように俺の進行方向に立った。避けようとしたが、それに合わせて行く手を塞ぐ。完全に悪意のある行為だな。少し苛立ってパケットに言った。
「すんません。私ここ通りたいので少しいいすか」
「お前さぁ」
「話し方が気に入らねぇ」
「は?」
声をあげる前に蹴りが飛んできた。体が後ろに吹っ飛ばされる。流石にサラブレッドの蹴りは痛い。体がヒリヒリする。顔をあげられないよう、取り巻きが頭を足で抑える。屈辱的だが、しょうがない。いつか、レースで見返す日が必ずはずだからな。
「お前、シンジの子供なんだってな」
パケットは半笑いで言った。シンジをバカにするなんて到底許せない行為だが、ここを切り抜けるには、多少の恥は捨てなきゃいけない。
「俺の父ちゃんはあの重賞5勝の名馬、キングディオミスなんだぜ。シンジみたいな一発屋とは違うのさ」
確かにシンジは日本ダービー後、勝てずに引退した。しかし父をネタにしてくるとはな。競馬では血統が大事だから、結構メジャーなのか。馬の世界はわかんないことだらけだぜ。
「確かにキングさんには敵いません。私は端っこで草食ってますんで、どうか見逃して貰えませんか」
とても嘘っぽい営業スマイルで相手した。まぁこんなガキにはこれで十分だろう。
「あ、まだいたんだ。どっか行きなさい」
「へへへ、失礼します」
そそくさと群れを後にする。取り巻きが笑いながらこっちを見ているが、これも新入りの定めだろう。今に見てろよ。
「あ、あのう」
俺のところに何やらひ弱そうな競走馬がやってきた。体は俺と同じかそれ以下。あまり目立たない、そんな印象を受けた。
「どうした。お前、名前は」
「僕はナイトオルフェンズ。君と同い年くらいかな。さっき、大丈夫だった?」
俺は安堵した。ようやく話がまともにできそうなやつにあえて良かった。こいつとはいい友になれそうだ。
「ああ問題ない。心配してくれてありがとう。名前は……言わなくともいいよな。これからよろしくな」
先程とは違う、素の俺を見せた。さぁ、どう来るか。
「あ、良かった〜。僕も最近離乳したんだけど、君と同じ目にあったんだ。なるべくそんな馬を減らしたくて、声をかけようと思ったんだけど……足が竦んで」
こいつ、かなり良い奴だな。人を助けようとしてくれて、出来なくても逃げない。しかも素を出しても親身に接してくれる。
「助けようと思ってくれる、その心が大切さ。しかもあそこで留まらず、俺のところに来てくれた。君とはいい友達になれそうだ。これからの調教、一緒に頑張ろうぜ」
「…うん!」
正直、上手くやって行けるか不安だった。虐げられるんじゃないかと思った。けど、悪いやつがいればいいやつもいる。俺はナイトと、パケット達に負けない力を手に入れる!
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