28.今日の敵は明日の友達!
今日も投稿出来ました。良かったデーす。
「これで……よしと!」
装蹄師さんに蹄鉄を打ってもらい、少し歩いてみた。やはり脚にかなりの負荷がかかる。しかし、この負荷が強靭な脚を作り出す。俺は再度コースに向かい、2頭と併せ馬を始めた。
お、重い。以前のように脚が軽やかに動かない。どこか動きがぎこちなく、脚の回転数が限りなく少ない。こんな状態では、2人に置いていかれるばかりだ。俺はインコーナー加速で逆転を図る。
「な、なんだと! 歩数が足りずに加速できない!」
重くなった脚では、上手くギアをあげることなどできず、全然最高速に到達できない。それどころか、上手く体を制御出来ず気がつけば大外へと出ていた。
「な、なんなんだよ。全く体が言うことを聞いてくれねぇ。これが"重さ"か!」
ゴールした時、俺は2人から約15馬身差をつけられていた。それを見た調教師がこちらに来る。
「これで分かったな。お前の必殺技、インコーナー加速は脚の驚異的な瞬間回転数によって生まれる秘技だ。つまり、瞬発力に比例してインコーナー加速は完成度を上げる。このハンデを克服することが出来たら、もうアカガミリュウオーなんかに負けるお前はいねぇ」
調教師のその言葉で、俺は意識すべき点を理解した。脚の回転数と瞬発力。今まではセンスと感覚だけで行っていた。だが、意識改革をすれば更に速くなれる。なるほど、意味がわかったぜ。
「なぁ東海さん! もう1回やらせてくれよ!」
調教師は満更でもない顔をし、俺にこう助言した。
「わかったよ。けど、脚が痛くなったらすぐ言えよ。競走馬にとって、怪我は切っても切り離せねぇ。この練習は、お前の"人と話せる"という特性を信じて行っているわけだからな」
俺は目で調教師に了承を送り、再びトレーニングを開始した。
(ここで、歩数を更に多く……)
コーナーに辿り着いた俺は脚を動かす。以前よりも更に多い回数、脚を動かそうとした。失敗した。どれだけ前へ行こうとしても、どれだけ高速で走ろうとしても、脚は速く回らなかった。これじゃさっきと同じだ。
「ちくしょー! もうイッチやもうイッチ!」
俺は何回も何回も挑み続けた。結果は同じだった。全く成長が見られない。それが1日、2日、3日、1週間続いた。普通の馬ならば既に諦めている。闘志が見えなくなってもおかしくは無い。
だが、俺は諦める気はなかった。ライバルに勝つ。それだけを考えて走っていたので、やめるという選択肢はない。脚の回転数はあまり変わらなくても、日々の生活から負担をかけているため、脚がだんだん進化している気がする。不要な脂肪などそこにはない、骨と筋肉が増強され続けた結果出来た、光り輝く脚になっていた。だんだん、パケットとナイトに食らいつけるようにはなってきていた。それだけに、何故回転数が上がらないのか不思議だった。
「おかしいですね。シンジさんは絶対に成長しているのに、インコーナー加速の精度が上がらない。これは何故なんだろう」
林がこう言葉をこぼすのは日課になっていた。四六時中、これの解決方法について考えていたが、一向に思いつかない。それが本番2週間前まで続いた。
ある日突然、俺達に救いの女神が現れる。その日は金曜日で、俺にも疲れが溜まっていた時だった。偶然、コーナー手前で疲れから前かがみになった。それが大きかった。
「おおっ!体が何故か軽いぞ!それに、何かに押されている気分だ!」
自然と、重りの重さは俺の脚から消えていた。そして、そのままインコーナー加速を試みた。結果から言うと、大成功!回転数は以前のように戻っており、最終直線でついに2人を抜かした。
「おお!遂に勝ちましたねシンジさん! 何か掴みましたか?」
鞍上の林が嬉しそうに俺に尋ねる。俺も嬉しくなって、何が起こったか説明した。
「それがさ、偶然に前かがみになったんだよ。そしたら、重力が進行方向に向いて、俺を押してくれたんだよ!蹄鉄の分重くなってるだけあって、普段の倍加速できたってわけ!」
「そうさ、その通りだ!」
俺達がはしゃいでいる時、調教師が現れた。その顔はやはり笑みを浮かべている。
「これは身体能力強化だけでなく、お前が重力の存在に気づけるかテストしてたんだ。走る時、重力というものは非常に厄介な重しになる。だけど、利用することが出来れば、それは大きな武器になる。お前は、重力を活かすことができるようになったんだ!名前は……重力友人とでもしようか」
「先生、それはダサいですよ」
自信満々に語った名前を、反射で否定する林。それに怒った調教師が追いかけ回す。その2人の顔には笑顔が溢れていた。
まぁ何しろ、これにて重力、クリアだ!待ってろよアカガミリュウオー!
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