表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
Gray Horse Ranaway
26/79

26.外部攻撃

2本目です。

シンジスカイブルー3勝目! G2弥生賞でまさかの6馬身差圧勝!


林に見せてもらった朝の新聞の見出しにはこう書かれていた。"三冠"の1つ、皐月賞に挑むための必須レースである弥生賞。シンジストライプも制した名誉あるレース。そんな勝負に勝てた俺は、最高潮に調子が良かった。早くトレーニングしたい。早くレースに出たい。早くあいつと勝負したい。こんなことばかり考えていた。


いつもの如く、おっちゃんが人参をたらふく乗せてお祝いに駆けつけてくれた。だけど、今回はいつもより笑顔で、何やら手に複数枚の書類を持っていた。


「なぁシンジ、林、剛ちゃん! あの読生(どくせい)グループから取材の依頼が届いたぞ!」


俺達は驚きを隠せなかった。読生グループといえば、言わずと知れた超有名グループだ。主力は読生新聞と、読生テレビ。それと変なテーマパーク。そんな大企業から何故取材が?


「おいおい、どういうこったよ、まこっちゃん」


調教師が口を開く。ごもっともだ。俺達もそれに賛同する。


「なんかな、向こうの人が言うにはな"アカガミリュウオーのライバルホースと競馬学校首席のエリートイケメンホースマン"を撮りたいってことらしいんだよ。これも経験だと思ってさ。何しろ、3人の知名度が上がる。これはデカいぞ。剛ちゃんは沢山の馬主さんから有力馬を預けてもらえるし、林は騎乗依頼がもっと沢山来て、賞金をより多く獲得することが出来る。シンジは…………人参沢山持ってきてやる!」


「その話乗った!」


俺が真っ先にそういった。"イケメンホースマン"ね。メディアがいかにも好きそうな謳い文句だな。正直、取材自体はあまり乗り気じゃない。けど人参は見逃せねぇ!俺は馬になってから、無類の人参中毒馬になっちまったからな。


後の2人も続いて了承した。2人の目がやけに金色に輝いていたのは気のせいだろうか。


「じゃ、取材は1週間後らしいからな! それまでに体絞っとけよ!じゃあなー!」


そう言って、おっちゃんは一目散に帰って行った。春は新馬の誕生やらなんやらで、牧場が忙しい時期だ。時間が惜しいのだろう。そんな中来てくれたおっちゃんには本当に感謝している。……待てよ、ひとつ忘れているような。


「あ、にんじんー!」


時すでに遅し、人参を乗せたおっちゃんのトラックは、既に水平線の彼方へと消えていた。俺は少し項垂(うなだ)れながらも、(きた)る1週間後に向けて体を絞り始めた。


――


「今日はよろしくお願いしますー!」


若くて可愛いタレント女の子と、むさ苦しいスタッフ。怪しいマネージャーが挨拶に来た。俺は言葉を発することはしなかった。さすがにそうだろ。関係者以外にバレたらまずいからな。


その日は俺がスターになった気分だった。これまでの人生、1度もテレビに映ったことなんてなかったから、少し躍起になっていた。調教師はさすが場馴れしているだけあって、冷静だった。意外たったのは林だ。いつも見せない、年相応の若さ溢れる笑顔をしていた。少しの照れが頬を赤く染め、優しく微笑んだその顔は、某アイドルグループにいてもおかしくないくらいにかっこよかった。ちくしょう、メインは俺じゃないのかよ。


――


「今日はありがとうございましたー!それでは!」


タレントが挨拶して、皆ぞろぞろと帰り出した。今日はとても疲れた1日だったが、充実した一日でもあった。カメラの前という重圧から開放された俺は、馬房で横になっていた。闇が青を飲み込み、すっかり暗くなった頃、林が俺の所に来た。


「よう、久しぶりじゃねーか。お前がここに来るの」


俺は林にこう言った。林は少し照れたような顔をして、地面に座った。


「ええ、慣れないことをしたせいか眠れなくて。少し話をさせてもらおうかなと」


言葉は丁寧だが、その行動は小さな子供そのものだった。なんだ、可愛いところあるじゃねーか。


「俺がここまで来れたのは、シンジさんのお陰です。土日、調教に来れない時あるでしょう。その時は俺、他の馬乗ってるんですよ。それのお陰で、今不自由なく暮らせています。ここまで俺が有名になれたのも、ひとえにシンジさんという最高の相棒がいたからです。ありがとう」


いつものポーカーフェイスに、少し赤みがかかっていた。照れ隠しできてないぞ。こういうところも憎めないんだよなぁ。ただ完璧なだけじゃない。人間性を感じる。俺はそんなところが好きだ。


「いや、俺こそ感謝しなきゃいけないよ。俺も、林がいなかったらここまで成長できてない。こちらこそ、ありがとう」


俺達は見つめ合い、笑いあった。絆が、より一層深まった気がする。


「皐月賞、取りましょね」


「ああ、当たり前だ」


そういうと、林は帰っていった。俺も眠くなり、すぐに眠りに落ちた。だが、その時には気づかなかった。明日、こんなことになろうとは。


ピコン


「へへへ、いい絵が取れたぞ」


――


「あの件について、詳しく言及お願いします!」


「やはりシンジスカイブルーは喋るんでしょうか?」


「だから、そんなこと有り得ませんって! 悪質なコラージュ動画ですよ!」


朝、騒がしい音によって起こされた。目に入ってきたのは、おびただしい数の、マイクとカメラを手にした人間だった。林、調教師が質問攻めにあっている。一体、どうしたというのだ。


「あ、シンジスカイブルーが起きたぞ! 早くそっちへ迎え!」


「あ、ちょっと!」


調教師のブロック虚しく、記者が一斉にこちらに駆け寄ってきた。俺は全く情報整理できてなかった。


「おいシンジスカイブルー! 喋れよ、喋ってみろよ!」


1人の若い記者が俺にそう話しかける。もしかしたら、俺の秘密がバレたのか?最悪の事態が頭を過ぎる。だとしたらどうして?あの取材では細心の注意を払って接していたのに。とりあえず、これに反応したら向こうの思うつぼだ。俺は無視を決め込んだ。


「おらおら、お前が喋んねーと視聴率取れないの! 早く喋ろよボケが!」


そう言って、別の男が俺を叩きやがった。記者として有るまじき行為を、平然とやってのけた。俺は痺れもしないし憧れもしなかった。調教師と林が怒りを露わにして怒鳴る。だが、こいつらは手を緩めない。何とか切り抜けようと、俺はまだ耐えていた。


「しっかりしろよ! このウスノロが!」


パチッ


平手打ちが飛んできた。さすがにこれは許されない行為だ。かといって、こんな奴らのために声を出すのも(しゃく)だ。俺は顔を乗り出し、俺をはたいた奴の腕を噛んだ!


「がぁぁぁぁ、いってぇぇぇ!」


記者達が怯む。そもそも、普通の馬にそんなことしたら噛まれるって思わないのか。仮にも記者だろあんたら。


その日は噛みつき攻撃が聞いたのか、記者は帰って行った。


「おいおい林、一体どういうことだよ」


俺がそう言うと、林は申し訳なさそうな顔をしてスマホの映像を見せた。そこには、昨夜の俺と林の会話が録音され、テレビで流されている様子が映っていた。


「なんだよ……なんだよこれ」


俺は困惑を隠せずにいた。すると、調教師が俺に説明してくれた。


「シンジ、怪我はなかったか。……そうか、ならいい。あんのクソ読生の野郎が……おっといけねぇ。順を追って話そうか。そもそも、読生との契約は、調教前から取材が始まり、調教終了と共に取材も終了って流れだったんだ。けど、あいつらは契約を破って夜までカメラを隠れながら回していた。そして今この状況がある。今回は、シンジも林もどっちも悪くねぇ。だけど、調教はしにくくなるだろうな。困ったなぁ。皐月賞までもう1ヶ月もねぇのになぁ」


調教師の情けない顔を見て、俺は無性に悲しくなった。そして、奴らへの怒りが湧いた。性懲りも無く、調教中、調教後を問わずあいつらは俺を撮ってくる。プライベートなんてありゃしねぇ。俺は不屈の魂で無視した。だが、その日のトレーニングはいつもより集中出来なかった。


次の日も、その次の日も続いた。日に日に多くなっていく記者達。日に日に悪くなっていく体調。俺は完全に病んでいた。人気者は辛い。そう思うことで何とか耐えていたが、さすがに限界が近づいていた。しかし、1週間後にある変化が起こった。


その日も、いつものように記者が押し寄せているもんだと思っていた。しかし、周りには誰もいない。それどころか、林と調教師がほっとしたような顔をして、俺の前にいた。


「なぁなぁ、あのウザったい記者達が綺麗さっぱりいなくなってるけど、何かあったのかよ」


俺がそう聞くと、調教師は嬉しそうにスマホを俺に向けた。それはアカガミリュウオーの主戦騎手、葛城が記者にインタビューを受けているところだった。


「葛城騎手、ライバルのこのような事実に、どう思われますか」


記者の質問を受け、明らかに表情の曇る葛城。少し溜めたあと、口を開いてこういった。


「そもそも、あなた達は記者として大切なことを見落としている。あなた達は、人の助けあって成立する仕事です!」


「!?」


「馬だってそうです。あなた達自身では仕事にならない。決して、それを馬鹿にするつもりはありません。ですが! 馬を苦しめ、無理矢理にでも情報を出させようとする、あの姿勢は本当に受け入れ難い! 俺がここでいいましょう! シンジスカイブルー、あいつは普通の馬です!なんてことも無い、普通の馬! てめぇらがやってることは、罪の無い馬を苦しめ、俺のライバルをそんなコラ動画で貶めようとしているただの犯罪だ! 身の程を弁えろ! そして、二度と競馬界に来るんじゃねぇ!」


そうして、この動画は終わりを告げた。葛城が、奴らを止めてくれたんだ。その思った時、俺は涙が溢れていた。


「ありがとう……リュウオー、葛城」


「ん? リュウオー?」


俺の言葉を不思議に思った調教師が言った。俺はリュウオーのことを話した。俺と同じく、喋れる馬であること。そして、向こうは俺が喋れる馬であることを知っていること。それを聞いた林は、ボソッとこういった。


「参ったね。彼らに2度も助けられるなんて。良い奴だな。あいつら」


俺と調教師も首を縦に振る。あいつらには、本当に何回も助けられる。感謝してもしきれない。


「さ!俺達のライバルが用意してくれた時間を潰すなんてこと許さねーぞ! 早速調教開始だ!」


調教師のその一声で、俺達は再びターフへ戻った。もう、何も心配事はなかった。その日のターフは、いつもよりも煌びやかで、希望に満ちていた。

今回もご閲覧ありがとうございます。

この作品が面白いと感じたら、評価ブックマークよろしくお願いします。

誤字脱字等受け付けておりますので、ご協力よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ