20.第3の走法
今日も投稿できて良かったです。最近pv、ユーザー数ともに伸びていてモチベーションが最高潮です。ファンの皆さん、御新規の皆さん本当にありがとうございます!
翌朝、俺と林はターフで待っている調教師に謝りに行った。調教師は俺達に気づいても、目の色は変えなかった。ただ、厳しい目を向け続けていた。
「昨日は本当にすいませんでした! でも、先生のお陰でようやく気づけました。俺の傍には、素晴らしい相棒がいた事。そして、もう既に暗いトンネルは抜けていたこと。本当に、ありがとうございます!」
1番に林が口を開けた。以前目は黒く、厳しいままだった。だが、林が言い終わった時には、既に暖かく、優しい目に変わっていた。そして、子供の成長を祝う父のように、優しく頭を撫でた。
「……これは賭けだった。あそこで優しく宥めることも出来た。けど、あそこで厳しく行かなきゃ、中途半端な実力になってしまう。お前らなら絶対に賭けに勝ってくれると信じてた。よく頑張ったな」
そう言って、俺の頭もポンポンと叩く。ここで、俺達3人の絆は、最大限に高まった事を感じた。このチームなら、どこにでも行ける―そんな気がした。蜘蛛を打ち払い、大きな笑顔を見せる太陽が、それを証明するようだった。
「さ、今日からいつも通り再開だ! 今まで出来なかった分、飛ばしていくぞ!」
俺達に日常が戻ってきた。あの美しい芝が戻ってきた。そう思うと、今日が特別な一日に感じられる。今週は、特別週になる予感がした。
「シンジさん。今日から"インコーナー加速"の練習をしてみませんか。今の私達なら、この数日で仕上げられる気がします」
調教始め、そう林に言われて俺はとても嬉しかった。林が自信を取り戻し、過去を踏み台にすることができたこともそうだ。だが、何より俺を信じてくれたことが1番嬉しかった。俺は了承し、調教師に許可を貰った。
「ちくしょう、どうしてもコーナーで減速してしまう。これじゃ加速なんて言ってる場合じゃないぞ」
やはり短い距離での加速は難しかった。加速しようとすると外を回りすぎてしまう。逆に内側ばかり意識してしまうと減速を起こす。どちらか片方を意識すると、もう片方が疎かになる。両方意識しようとすると、中途半端になる。八方塞がりだ。
「今回は俺もさすがに厳しいですね。いい案が思いつきそうにありません」
あの林でも思いつかないなんて。インコーナー加速は、それだけ難しいということだろう。それを、こんな素人の俺が分かるはずない。そう思っていた。
「あ! あの方法なら!」
いきなり大きい声を出したから、林がビクッとする。
「何かいい方法が思いついたんですかシンジさん!」
目を煌めかせて俺を見る。まぁ待てよ。俺は調教師のビデオの中から、ある1つを選んで再生した。
そのビデオはある芦毛の馬がインコーナーを通って、超高速で加速するレースだった。その馬は差し馬、俺は逃げ馬という違いこそあるが、全然俺に応用できる方法だった。
最終コーナーに入る前、小さい馬体から想像出来ないほど力強く内ラチを取る。そのままコーナーに入る所で、ごく僅かに外を回る。これは不可抗力だ。だが、その僅かな距離の増加が、加速における最適最短の距離だった。そのまま、あらゆる馬をごぼう抜きし、1着を手にした。
「シンジさん、これってあの……」
林がようやく気づいたらしい。この特徴的な差し方、美しい芦毛。有識者なら誰でも知っているあの馬だ。
「ああ、俺の父にして伝説のダービー馬」
「シンジストライプだ。俺がこれを継承してやる」
「凄いですシンジさん!これなら行けますよ!」
林はとても嬉しそうに笑う。まるで課題が分かった中高生のように、純粋な笑みを浮かべていた。
「ああ、早速練習するぞ!」
その日から、俺達の"インコーナー加速作戦"が再始動した。イメージを実際にするのは容易なことではなかった。だが、答えを見つけた俺達に不可能などなかった。日に日に精度を上達させていく俺達。そして遂に、本番3日前ながら完成させることが出来た。早く試したかった俺達は、すぐさま調教師に模擬レースをお願いした。相手はもちろんパケットとナイトだ。
序盤、中盤はいつも通りのペースで駆ける。勝負は後半だ。
最終コーナーに差し掛かろうかというところ。俺は今までの練習を思い出し、内側へ一気に舵を切った。そして、コーナーを曲がると共に、身体を少し外にずらした。
コーナーを抜ける頃、最高速で走っている俺がそこにいた。遂に最適解を実現できたのだ。俺達は歓喜に湧いた。そのまま、過去一の速度でレースを終えた。
「よっしゃぁぁぁ! 遂に、遂に、インコーナー加速を身につけたぞぉぉぉ!」
再び俺達は歓喜に湧いた。体が震えている。それはレースから来る疲れでもない。正真正銘、喜びから来る振動だった。
遂に俺達は"コーナー加速"の進化版、"インコーナー加速"を手にした!今の覚醒した俺達なら、どんな馬が来ようが負ける気がしねぇ!過去最高レベルのいい状態で、本番を迎えることができる。俺はウキウキで飛び上がりそうな気持ちを抑えながら、馬運車に乗り込んだ。その夜、はしゃぎすぎてパケットとナイトにお灸を据えられたのは、林達には言えないな。
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