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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
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2.葦毛の奮起

「なぁ、澤井。馬って人語話すっけ」


ちょび髭のおっさんが喋る。その声には明らかな動揺と、シンジストライプ産駒にかける思いが合わさった、表し難い色だった。


「いやだから! 俺は元々人間だったんだって!青空慎二35歳、過去には大手製薬会社に勤めてたが、潰れて今は無職。なけなしの金でスプリングスターに賭けたが外れて、気づいたらこのザマだよ!」


俺は怒りと驚きの混じった声でそういった。厩務員は驚きを隠せていない。が、おっさんは違かった。先程の顔とは違い、期待と希望に満ち溢れたとても晴れ晴れしく、いい顔をしていた。俺が伝説のダービー馬、シンジストライプ産駒だから?いや、彼はそこでは無い。俺しか持ち合わせていない能力に期待している――そんな顔だ。


「どうします誠さん。研究施設にでも送ります?」


男は呆れた口調で言った。流石にそれは困る。何されるかわかんねぇ。反射的に返そうとしたが、それより先におっさんが答えた。


「澤井、俺はこいつに賭けてみたいと思う。騎手とも意思疎通が取れるし、何よりこいつの武器を活かしてみたい。」


「俺の名前は蒼海誠(そうかいまこと)。この厩務員は澤井二郎(さわいじろう)。今日からお前は我が晴空牧場(せいくうぼくじょう)所属のサラブレッドだ! よろしくな」


「え、おっちゃん、俺を売らねぇのか?」


俺は驚きまじりの声でそう言った。おっちゃんはそれに対して笑みを浮かべながら答えた。


「俺はな、お前の競走馬としての可能性に惹かれちまったんだ。ここでお前を売れば、一生遊んで暮らせる金を手に入れられるだろうな。でも、もしここでお前を手放せば、一生後悔しちまうと思う。こんな特別な競走馬をな。だからさ、お前には精一杯走って欲しい。俺に、夢を見せて欲しい! 俺と一緒に、てっぺんを目指さないか!」


なんかわかんねぇけど、胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。こんなのあの時以来だ。俺はいてもたっても居られなくなって、おっちゃんにこう言った。


「なぁ、おっちゃん。俺よォ、死ぬ前に言ったんだワ。この言葉は一言一句覚えている」


「なんだ?言ってみろ」

















「俺が走れば絶対に勝てる」







「この言葉は嘘じゃねえぜ。男に二言はねぇ。俺な、自分でもまだ上手く理解出来てないんだよ。なんでいきなり馬になったのか、なんで死んでも記憶があるのか。なんで俺がここにいるのか。だけどな、今は今生きなきゃいけないよな。おっちゃんに言われて気づいたよ。これからよろしくな、おっちゃん。」


「あぁ、わかったぜ。俺らは今から命を共にするぞ。お前が死ぬ時、俺も死ぬ。お前が喜ぶ時、俺も喜ぶ。お前が泣く時、俺も泣く。夢を掴もうぜ。」


「参ったな。こんな経験するのは2度目なんだよ。」


俺はハッとした。あの数秒だけで、ここまでおっちゃんと意気投合してしまった。かなりやり手だぞ。しかもあまり言いたくないことまで言っちまった。ほんとに参ったな。


「お、そうだ。お前馬とは話せんのか?ちょっと母さんのセイクウプリンセスと話してみろ」


俺は了承した。馬がどんな事思ってるが知りたいからな。


「えっと……母ちゃん、なのかな?」


「おお我が可愛い息子よ……よく無事で生まれて来ました……」


いかにも女王っぽいな。てか馬も人と変わらんのね。おっちゃんがどんな感じか? と聞いてきたため、そのまんま返してやった。おっちゃんは笑っていた。


「でも、馬主さんはどうするんですか? サラブレッドオークションに出してもこいつの個性を出したら彼ら、研究施設に送っちゃいますよ?もしくは見世物小屋かも……」


澤井は驚かせようとしたのか、俺に半笑いで言ってきた。流石に見世物小屋はごめんだぞ。


「なぁ、おっちゃん。俺をそんな事しないよ、ナ、?」


俺は震えながら言った。そりゃそうだろ。


「こんなダイヤの原石を見捨てられるって言うんかよ?俺が馬主をやる。金はまぁ……心配するな」


「ちょっと誠さん!そんな事言っていいんすか!?牧場経営さえままならないのに……」


「え」


「そんなもんどうにかするさ。それより、こいつに心配かけたくないだろ?」


おっちゃんの声は震えていた。本当に考えて決心したんだろう。顔は笑っていたが、相当な感情が渦巻いたんだろうな。けど俺は、もう熱くしてくれた人を失いたくない。俺に賭けてくれたんだから、俺がおっちゃんに恩を返す。


「安心しろよ。おっちゃん、澤井」

















「俺が全部救ってやる。勝ちまくってな!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] じわじわこみ上げる笑い 何なんでしょうこのコミカルさ [気になる点] この馬より 事態を素直に受け取った男たちがスゲーです [一言] しっかし騎手と意思疎通が出来るからと言って 本来喋ら…
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