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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
17/79

17.東京スポーツ杯2歳ステークス

疲れた


用語

心臓破りの坂

その名の通りやばい坂。スタミナめっちゃ取られる


パドック

競走馬が競走前に歩くサークル。賭ける人はそこで体調などをチェックできる

東京競馬場――日本ダービーやジャパンカップを初めとした、数々のG1レースが行われる場所。そこに、俺は遂に到達できた。あのシンジストライプが伝説を作った場所。だが、俺ははしゃいでいなかった。全てはセトウチナルト。そいつをぶちのめすだけだ。


始まる1時間前には入場しなければいけない。だが、今はまだ12時。始まるまでまだ時間がある。俺は精神を集中させることにした。これまでの出来事を頭の中にかけ巡らせる。その中で、一層ナルトに勝ちたいという思いが強くなっていった。


その時はかなりすぐに訪れた。厩務員に連れていかれた。そこで測量を終え、林を鞍上に乗せた。青の勝負服を着た林はやはり男前だった。


俺達はパドックに向かった。ちなみに、林の美男子ぶりはすぐに世間に知れ渡り、パドックで競走馬ではなく林を撮るファンが増えてきているようだ。今回も、俺より林に注目を寄せていたように思える。解せぬ。


「ああ、お前は」


振り向くとセトウチナルトが笑みを浮かべながら歩いていた。とても汚い笑みだった。


「一応東スポ杯出れるくらいの実力あったんだね3匹とも。ま、そうか」


憎たらしいことばっかりいってきやがるぜこいつは。俺は無視に徹した。パケットとナイトにも話しかけていたが、当然無視されていた。その光景はまさに滑稽と言わざるを得ない。


パドックを後にした俺達は遂に本馬場入場、レース前最終調整に取り掛かった。


「あんな馬気にしないでください。今のあなたなら、絶対に勝てると保証しましょう」


林が俺を気遣って声をかけてくれた。だが、俺はたかが馬一頭で乱されるほどヤワじゃない。だが、林の声掛けは、いつも俺を安心させる。こいつと一緒なら、どこへでも行ける。そんな気持ちにさせてくれる。


「心配ねぇよ。だが、ありがとな」


「そこまで喋れるなら大丈夫ですね」


そういうと林はいつものポーカーフェイスに戻る。この切り替えに、女が惚れないわけが無い。憎いね。本当に。


「さあ、ゲートに入りましょう。また、あの時のような圧勝劇を観客に見せつけてやりましょう」


「当たり前だ!」


俺達は大きな希望と少しの闘争心を胸に持ちながら、ゲートに入った。周りの馬も緊張しているのか、一言も喋らない。そりゃそうだ。これがG2というレースの重みだ。俺も空気に合わせ、無言でその時を待った。


――


「今日はお天道様にも恵まれ、絶好の競馬日和となっています。2021年からG2に昇格されました東京スポーツ杯2歳ステークス。スプニングスター、シンジストライプといった名馬を多く輩出しています。今回のレースも、次世代のスターを生むことになるのか。では、今回の出走馬を確認していきましょう」


番 名前

1 シンジスカイブルー 3.7倍 2人気

2 トキノディクタス 16.6倍 5人気

3 セトウチナルト 1.7倍 1人気

4 ナイトオルフェンズ 13.4倍 4人気

5 エレクトローンズ 501.6倍10人気

6 ナクコモダマル 26.9倍 6人気

7 ダイタイキン 30.8倍 7人気

8 スーパーパケット 8.8倍 3人気

9 ハシカンキレイダネ 45.7倍 8人気

10 ハタライタラマケ 164.2倍 9人気


「野村さん、この中で注目すべき馬はなんですか?」


「それは勿論セトウチナルトです。地方からの殴り込みで、こうしてG2に出ているのですから、実力は確かですね。それを評価されての1番人気でしょう」


「それと野村さん、あのシンジストライプ産駒のシンジスカイブルーはどうですか」


「かなり仕上がったきていると思いますよ。あの新馬戦は印象的でしたね。なんと6½馬身差で勝利するという、圧倒的な力を見せつけました。それで2番人気なのが、このレースの恐ろしさを物語っています」


「なるほど、例年よりもレベルの高い戦いが予想されると。さぁ、今から東京スポーツ杯2歳ステークスが始まります!」


ファンファーレが鳴り響く。それに合わせ、観客たちが歓声を送る。今までの新馬戦では考えられない大きな振動に、俺の心は最高潮に高まっていた。


俺は前を見据える。その先には、俺の勝利への栄光の道が広がっていた。


バガッ


ゲートが開く。各馬一斉にゲートを飛び出した。俺は逃げをかますため、1番手の位置についた。


「いよいよ始まった東スポ杯。やはりシンジは大逃げか!ファンの期待が高まります」


周りを確認しながら走る。如何にペースを速くするとしても、最後の通称"心臓破りの坂"までに、絶対にスタミナを切らしてはならない。俺は3馬身のリードを確認し、ペースを落とした。


「さぁ第2コーナーを回って向正面に向かいます。そろそろ序盤も終わり、中盤に差し掛かる頃。ここで順番を確認していきましょう。1番手にはもちろんシンジスカイブルー。2番手に3馬身差を保っています。そこから2番手に着いているのは4番ナイトオルフェンズ。そこから5番、6番、3番セトウチナルトここにいた。7番、9番、8番キングディオミスを父に持つスーパーパケット、その後2番、10番と続いています」


東京競馬場1800mは、残り400mで上り坂が来る。そこで俺はセカンドチャンス走法を披露することに決めた。だから今は我慢、我慢だ。出来ればそこでセトウチナルトが前に来てくれるとありがたい。


やはり向正面はいい。ファンの歓声が直に耳に届く。その声で俺達は頑張れる。それは騎手も同じだ。ファンの力があるからこそ、俺らは強くなれる。ファンの声があるからこそ、俺らは一体になれる。闘志が更に燃え上がり、天まで届く勢いだ。


第3コーナーではレースが動かない。まだ誰が仕掛けるのか見ている状況だ。だが、第4コーナーで、その沈黙をナルトが破った。


「いくぞセトウチナルト! こんな坂打ち砕け!」


騎手の目障りな声と共に、豪脚飛ばして飛んでくる。俺が坂に着こうかと言う頃、外から回ってきたナルトが前を遮った。さすがにここまでやるとは思わなかった。だが、好都合よ!


「なんと! まさかのセトウチナルトが坂前で仕掛けた! だが、それによりシンジスカイブルーの前を取った!坂を一気に駆け上がる! 脚色は衰えない! これは貰ったか! それともシンジスカイブルーの逃げ差しが決まるのか!」


「ハッ! やっぱりお前はここまでしか伸びない! 俺様と俺には圧倒的な差があるの! パケットもそう! ナイトもそう! 全部俺には勝てない!」


ナルトは既に勝ち誇ったかのような顔をして、俺に向かってウザったい笑顔を飛ばした。ばーか、お前は俺達の策略にハマったの。そんな奴を少し哀れに思い、ペースを緩めた。


「なんと! シンジスカイブルーここに来てまさかの失速! シンジストライプ産駒といえど! やはり東京の坂は強かった。これにはセトウチナルトの主戦騎手町田もニッコリ! これは決まった!これからの世代を引っ張るのは、セトウチナルトです! まさに暴れ海流!これは決まった!」


俺が坂を登りきった時、既に光刺す道は見えていた。その道は、おっちゃん、調教師、俺の友達、ライバル、そしてファンのみんなによって舗装された、約束の勝利道(ウィニングロード)だった。


「今だシンジ! 外をつくんだ!」


パチンパチン


林の合図と同時に、俺の脚は未来へと駆け出していた。その脚はここにいる誰の脚よりも速かった。そんな化け物に、ただの成り上がりの地方馬が勝てるわけが無い。そんなの馬鹿でも分かる事だ。だが、それに気づかなかったのには理由がある。


「え……?」


残り200mを切って、先頭にいたのはあの葦毛だった。必死に走っても、どれだけ力を入れても差は伸びるばかりだった。それだけじゃない。なんとスーパーパケットやナイトオルフェンズにも並ばれた。


「なんと、これは林騎手の作戦でした! シンジスカイブルー完全に抜け出した!これはもう決まった! やはり逃げ差しは強かった! 林騎手の策略にまんまとハマった町田! これには唖然です!」


「し、信じられません!圧倒的1番人気セトウチナルトがスーパーパケット、ナイトオルフェンズに抜かされました。これは強い!もはや彼らみんなが1番人気だ!」


「な、なんで俺様が凡馬に負けてんだ!?おかしいだろ!」


セトウチナルトは愚かな声をあげる。それに、俺達3人はやり返しのように答える。


「お前には、足りないものが一つだけある!」


「そう、僕達にあって、君にない!」


「「「それは!!」」」



















「信じられる"仲間"だぁぁぁぁぁ!」


俺達は他の馬を寄せ付けずにゴール板までたどり着いた。そこにいたのは凡馬でもなんでもない、「努力の天才」だった。


「2歳馬は荒れると言われているが、今回のレースは想像以上でした!1着はもちろんシンジスカイブルー!2着はハナ差で競り勝ったスーパーパケット!惜しくも3着はナイトオルフェンズ!」


「ど、どうしてだよ。俺様が、負けるなんて」


ウィニングランの横で泣きじゃくるナルトに、俺は優しく諭した。


「お前はまだ若い。今からでも遅くない。友を作るんだ。俺とお前との差はたった一つ。高めあえる友がいるかいないか。それだけで、お前は変われる。来いよ、俺たちの所まで。俺は待ってるぜ」


俺は諭すように語った。この経験が少しでもナルトの為になればと思って。


「お前……いや、シンジ……俺はあそこまでお前を貶したのに……どうして……」


ナルトは涙と疑問が混ざった声で言った。俺はそれにふふんと鼻を鳴らして答える。


「これが、友がいるやつといないやつの差だ。友がいるから、互いに強くなるため最前のアドバイスができる。それは自分にも返ってくるんだ」


「シンジ……!」


空は、誰に対しても平等だ。勝者敗者関係なく、努力しようとする者を暖かく照らす。


セトウチナルトにも、暖かな光が差し込み始めたのかもしれない。

今回もご閲覧ありがとうございます。

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