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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
15/79

15.習得!新走法!

少し投稿遅れてしまい申し訳ございません。今日も2本投稿したいと思います


「さ、今から特別特訓の説明をするぞ。まず、この3頭の中から2人、ブロックする馬を決める。余った馬は、残り400mの中で、2頭の間を縫って抜け出せたら勝ちだ。それを、勝てるまで続ける。いいな」


「もしずっと勝てなかったら?」


「ずっーと終わらない無間地獄だ!手を抜こうなんて考えるんじゃねぇぞ。俺は分かるからな」


俺は絶望した。パケットとナイトは俺と違って人間の言葉が分からない(それが普通だがな)から、今からやる事の大変さを分かっていない。これ程残酷なことはないだろう。震える俺を、2頭が不思議そうに見つめていた。


「じゃ、まずはシンジ!やってみろ」


ほらきた。こういう時に実験台にされるのはいつも俺だ。ま、それだけ調教師の期待が大きいってことだな。嬉しいんだか嬉しくないんだか、複雑な気持ちだ。


「シンジさん、間を抜くコツって知ってますか」


併せ馬の直前、林が俺に尋ねた。そんな事考えたこと無かったな。そう伝えると、とても丁寧に説明してくれた。


「いいですか、馬というのはシンジさんみたいな例外を除いて、基本騎手の指示通りにレースを進められることは稀なんです。つまり、いくらブロックしようとしても、確実に粗が出る。そこを丁寧に待ちながら、仕掛けるタイミングを伺うんです。いいですか、私が合図しますから、それ通りに仕掛けてください。8割がた成功するはずですよ」


さすが適切な指摘で定評のある林さんだな。俺みたいな馬鹿でもすぐ分かる。


「ありがとうな。じゃ、それまでは前について行きますか」


「それがいいでしょうね。よくわかってきたじゃないですか」


そういう林の顔は少し笑っていた。最近ポーカーフェイスが崩れてきたような気がする。なんというか、表情が豊かになってきたというか…気持ちを出すことが多くなったというか…。そんなことを考えていたら、調教師のフラッグが空へと掲げられた。


「やべっ、出遅れた!」


俺は急いでスタートした。俺は2頭について行くことに徹した。やはり、前よりも数段速くなっている。やるな、2人とも。


「へへ、俺、シンジと一緒のコースで走ってるんだ。成長したなぁ」


パケットはとても嬉しそうに、元気よく走っていた。それと対照的に、ナイトは黙々と、前に集中している。だが、走り方の違いこそあれど、2人は格段に速くなっている。俺は負けじと気合いを入れ直した。


「ここで400、林! 指示を頼む!」


400を示す看板を曲がったところで、俺は林に叫ぶ。林もそれに呼応した。


だが、その時はいつになっても訪れない。2人のブロックはとてつもなく強固なものだった。しかも、スピードも徐々に加速している。300、200とどんどん先へと進んでいく。何か打つ手はないのか。必死で抜け道を考えた。


「!!」


突然、光射す道が俺の前に現れた。パケットとナイトに生まれた本当に細かな粗、唯一の勝ち筋。それが、瞬間的に俺の脳内に浮かんだのである。


「林ィ! 外を通るぞ! アシスト頼む!」


俺は必死に訴えた。なんとか相手の騎手には聞こえず、林には聞こえるギリギリの声で訴えた。林もすぐに理解し、手網を左に引く。俺はスパートをかけ、抜かそうとした。


だが、抜けない。いくら走っても抜かせない。それは普通に考えれば当然だった。方やスピードののっている2頭のサラブレッド、方や付け焼き刃で加速しただけのサラブレッド。抜かせるわけがなかったのだ。相手の騎手が俺達の作戦に気づいた。そこで光の道は閉ざされた。


「やっったぁ! 遂にシンジくんに勝てた! こんなに嬉しいことは無い!」


遂に俺は抜かすことが出来す、2人に負けた。勝った時のナイトのはしゃぎよう。それは俺の闘争心に火をつけた。


「ちくしょー! もう一度やもう一度!」


「元からその予定だしな」


だが、何度やっても2人を抜かせない。どんなに林が隙を見つけても、いくら俺がスパートをかけても、全く抜かせる気配がないのだ。それが10日間続いた。だんだん、俺達はもどかしさから、冷静さを失っていた。


「今日は1度休もうか。これ以上やっても埒が明かない。1回方法を模索してみろ」


調教師にそう言われて、俺は自分の力の無さに情けなくなった。みんなの期待に答えられない、林の力を生かしきれない自分が嫌になった。こんな状況で東スポ杯勝てるのか、俺は不安になって、投げ出したかった。


「シンジさん、ちょっといいですか」


馬房に戻る時、俺は林に呼び止められた。


「すまない、俺は今1人に……」


「それでは森林馬道で散歩でもしながら話しましょうか。この時間帯、時期ならあまり他の馬もいないだろうし、ゆっくりとした空間でリラックス出来ると思うんです」


言葉を言い切る前に、俺を遮るように林が言った。森林馬道(三浦トレセンに存在する、スギの皮を砕いたバーク材が敷き詰められている、限りなく森林に近いコース)――そういえば行ったことがなかったな。林も何か考えがあるらしいし、行ってみるか。


「実は私、今回の必勝法分かっちゃったんですよ。それを伝えたくて呼び出したんです」


いきなりそう言われて、俺は驚いた。いくら天才騎手でも、あんなに何回やっても勝てないレースの必勝法を思いつくなんて、普通は考えられない。俺は完全に、実力不足が生む負けかと思っていたので、かなり嬉しい朗報だった。


「おかしいと思いませんか。なぜ前を塞がれた状態、それも極めて厳しい状況で始まるなんて」


何を言い出すかと思えば、調教師批判か。それはさすがによくないと思う。そう言うと、林は大笑いした。周りの数人の目が痛い。林は口を抑え、俺に言った。


「そんな調教師批判なんてしないですよ。話を戻しますと、私達が抜かせないのって、要は加速力の問題じゃないですか。多分、先生は俺たちにコース取りを教えたいんだと思うんです」


「コース取り? なんでそれが併せ馬に関係するんだ?」


俺は馬鹿だからまだ話の本質を理解出来ていなかった。だが、そんな俺にも林は優しく教えてくれた。


「例えば、ピッタリ徹底マークしている場合、2頭との距離がすごく短いので、加速しようとすると騎手には感ずかれ、塞がれるじゃないですか。それに、加速できる距離も短い」


「ふむふむ、あ、分かったぞ! つまり、少しスピードを落として間隔を取っていれば!」


「加速距離も稼げて、相手にも感ずかれない!さらにスタミナ節約にもなる!これを……セカンドチャンス走法とでも名付けましょうか」


セカンドチャンス走法……いい響きだ!それより、あの難問の攻略方法を見つけることができて、俺達は大はしゃぎしていた。また他の騎手の冷たい視線が刺さる。俺達は声を潜め、会話を続けた。


「すぐにでもやりたいな! 早く試してみたい!」


溢れるやる気を抑えるように、林が優しく助言する。


「まぁまぁ、今日は休養しましょう。そうだ! 帰り道で練習していきますか?」


「そりゃあいい!」


林道の帰り道、俺達は貯める練習をしていた。色んな人から好奇の視線を向けられたのは、また別のお話。


――



「東海さん! 俺達、分かりました。今日で絶対に決めます!」


朝、調教師二会った瞬間に俺は言った。調教師の目が輝く。


「そうかそうか! ようやくわかったか! じゃ、今日は期待していいんだな!」


声に元気が戻っていた。俺もそれに負けないような覇気で答えた!


「ったりめーですよ! 俺達を見といてくださいね!」


そう言って、俺は笑って見せた。初めのうちは、あまり上手くいかなかった。だが、回数を重ねていく度、完成系に1歩1歩着実に脚を進めていくのを感じた。


「次がラストだ。シンジ、行けるか?」


俺はとびきりの笑顔で笑った。そして、そのままスタートした。


「シンジさん!抑えてください。約30m間隔を空けてください!」


林も重ねていく度にだいぶ様になってきた。俺は指示通り、約30m空けてレースを進めた。


パチンパチン


残り400mになった時、林のムチが唸った。これが合図だ。俺は少し自分を落ち着かせる。今までの暗黒、そこからの希望の光。それに向けた努力。全て俺の力だ!


コーナーを回る時、俺は仕掛けた。コーナー加速とセカンドチャンス走法の合わせ技だ! コーナー加速の外回りを、内にずらさずにそのまま走る! わざわざもう一度内に行くことはねぇ! 外から抜かしてやる!


「やはり来たね」

「やはり来たな」


パケットとナイトがさらに速度を上げる。だが、加速できた俺に敵などいなかった。そのまま直線で加速し続け、遂に2人に並んだ。


「シンジ、お前ならこんぐらいやってくると思ってたぞ。お前は、歴史を変える名馬なんだからな」


調教師の声が耳に入る。そのまま、俺はゴール板を置き去りにした。


「よっしゃぁぁぁ! 遂にかったぁぁぁ!」


俺は空に向かって叫んだ。その空は、どこまでも明るく、希望に満ちた青だった。

今回もご閲覧ありがとうございます。

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