13.Make Debut
今日は豪華に沢山投稿出来そうです。
是非シンジたちの勇姿を見届けてください
Ps なろうで出走表再現は不可能に近かったため、見やすさを重視して少し変えています。申し訳ございません。
新馬戦
まだ1回も出走してない馬のみ出れる。
「ターフを照らす晴天光る、この福島競馬場。次世代のスターホースが生まれるのか。まもなく、7月18日第5R、芝1800新馬戦が行われます。」
「今日の出走馬を振り返っていきましょう。」
番 馬名
1 ウィッグマン 30.6倍
9人気
2 アカノタニン 23.4倍
6人気
3 サヨナラアディオス129.8倍
14人気
4 チャンチャンコ 141.7倍
15人気
5 クロノテイオー 26.0倍
7人気
6 キングオブサガ 3.1倍
1人気
7 ダイトーカイト 48.9倍
10人気
8 トーシャンハイ 29.8倍
9人気
9 サトイモウマイ 123.5倍
13人気
10 ミドリチャン 8.5倍
5人気
11 シンジスカイブルー 4.5倍
2人気
12 スーパーパワード 5.9倍
5人気
13 ツチノコマーク 177.3倍
16人気
14 スガスカーレット 118.7倍
12人気
15 ベリリウム 6.8倍
4人気
16 タチツクスカミ 66.6倍
11人気
「この中で注目したいのは、やはりキングオブサガですかね。大手建設会社トリニティスターの社長である。相模浩氏が満を持して参入し、サラブレッドオークションで堂々の3億円で購入した超大型新馬ですからね。親のキングオブクロスも、マイル・芝両方でG1を取った名馬ですし、距離適性は十分にあると思いますよ」
「なるほど。解説の野村健三郎さん、キングオブサガ以外で、何か注目したい馬はいますか?」
「そうですね。やはり、私個人の感想としては、シンジスカイブルーと林勇騎手のコンビですかね。このタッグは、2人とも初出走だそうです。この勝負をものに出来れば、晴れて2人とも初勝利を勝ち取ることができます。これ程嬉しいことはないでしょう。程よく気合いも乗って、本来の力が発揮できそうですね」
「そうですか、ありがとうございます。では、福島第5R1800m新馬戦、まもなくスタートです」
ゲートに入った俺は、武者震いをしていた。観客の声援、溢れる熱気、男を熱くするのにはこれで十分だ。俺は覚悟を決め、前を向いた。
「シンジさん、スタートダッシュから勝負を決めに行きましょう。ゲートが開いてから、第1コーナーまでは全速力で。そこからはペースを落とし、最後の直線で勝負を決めましょう」
林の透き通った言葉が耳に入る。
「任せろ。勝負はさっさと決めるぞ」
ファンファーレが鳴り響く。俺は再び燃え上がる気持ちを抑え、前を向いた。
「さぁ、ファンファーレの演奏が終わり、各馬じっと前を見つめます。1度しかない新馬戦のゲートが今」
バコン
「開かれました!」
俺は一目散に駆け出した。いいスタートを切る事が出来た。そのまま、他の馬を置き去り、先頭を死守する。
「遂に始まった新馬戦。先頭シンジスカイブルーが後続を引き連れ、いきなり慌ただしいレースとなりました。先頭から2番手まで、第1コーナーで既に5馬身差が開いています。シンジスカイブルー大逃げです。大逃げをうちました」
「彼はこの中でも極端にデータが少ないですからね。これは面白いレースになりそうですよ」
第1コーナーを回ったところで、林の合図が入る。俺はペースを落とし、息を持ち直した。少し後ろを振り向く。後ろとの差は約4、5馬身。いいペースだ。俺は前を向き直し、まだ見ぬゴールへと思いを固めた。
「第2コーナーに差し掛かり、福島競馬場名物の、1つ目の上り勾配を登ろうかとした頃。順位を振り返っていきます。 」
「1番手青の勝負服シンジスカイブルー。その後に10番、13番、5番、12番、2番、1番、8番、9番、3番、14番、4番、7番、15番、16番、と続いております。1番人気キングオブサガは現在シンガリです」
「そうですね。キングオブサガは中盤から終盤にかけて追い込んでくる競馬ですので、これも予測済みだと思いますよ。騎手の鳥谷桐生さんは、往年の追い込み名馬を乗りこなしていますから、仕掛け方はプロでしょうね」
「ほう、まだまだ今日の競馬は分からないと」
向正面に入るために、1つの勾配があることは既に研究済みだ。それのための調教だってしてきた。俺は林の指示を待つ。
パチン
合図のムチが入る。坂を登るコツは、「無理に急ぎすぎない」。ここでかかる(馬が苛立ち、ペースが乱れ反発する)やつは、二流だ。
坂を乗り越え、向正面に突入した。瞬間、観客の溢れんばかりの声援が俺たちの身を貫いた。競馬は、時として人の夢を呆気なく奪いさり、全てを粉々に打ち砕く。だが、競馬は、夢を繋ぐ架け橋となる。夢を産む出来事となる。この福島にも、人の夢が飛び交う。全ては、ただ1匹の馬の勝利のためだけを願って。願いの形は様々だが、それは全て、「本気」の夢だった。その夢を今、俺たちは乗せて走っているのだ。
俺はより一層勝ちへの執着が強くなった。声援が、俺の力になった。まだ先頭には誰もいない。これが―俺の景色だ!
人の思いによって体力が回復した。そのまま俺は少しペースを上げ、向正面を越した。
「今から追い上げるんだ、お前なら、勝てる!」
第3コーナーを走っていた頃、後ろで凄い音がした。何かと思って振り返ると、1匹の青毛がジリジリとこちらへ攻めよってきていた。
「おっーと! 向正面超えたところで、キングオブサガが上がってきたー! 各馬対抗するがもはやこれまで!どんどんどんどん順位を上げてゆくー!」
これは少し不味いか。俺は刹那の不安を覚えた。だが、それに気づいた林が、俺を目で落ち着かせた。視線は見えない。だが、鬼気迫る雰囲気が、俺にそれを感じ取らせた。何とか安定を取り戻した。
「さあ、最終コーナーが刻一刻と近づいてきています。キングオブサガとシンジスカイブルーの差はわずかに½馬身、ここでシンジを抜かし、キングオブサガが勝つか! キングオブサガの勝ちはほぼ決定! 大逃げが伸びるはずがない!」
最終コーナーの手前、外からくるキングオブサガに遂に並ばれた。だが、俺は全く焦っていなかった。何故なら、俺には覚悟があるから。今まで練習し続けてきたアレがあるから!
「ふん、口ほどにもない。たかが新米ジョッキーが俺に勝とうなんざ、はえぇんだよ! 学校で仲良くなれ合いでもやってろ。」
鳥谷がそうほざく。俺は怒りで我を忘れ、言葉を発しそうになった。
「誰が、負けたって」
俺が言葉を発するより前に、林が、怒りの混じった声でそう言った。
「俺達は、こんなところで負けるほどヤワじゃない。負けるのは、お前の方だ」
「ふふん、何を根拠にそんなこと」
鳥谷は嘲笑した。隣にシンジスカイブルーはいなかった。彼は慢心した。だが、その慢心の根拠は、どこにもなかった。
シンジたちは、キングオブサガよりも外、大外を回って来たのである。これは予想外だったが、大外を回ると距離が長いのは周知の事実。彼は全く気にしていなかった。彼らの作戦を知らずに、ただ馬鹿正直に煽る彼は、正しく滑稽だった。
「ここで抜かれてもいい! だからここは加速しろ! 最後の直線が勝負だ!」
力強い声が俺の耳に入る。俺は糸の隙間を通し、外を回った。そして、コーナーの減速を加速に変えた。
「俺は、俺たちは、誰にも負けねぇんだよ!」
愛のムチが入る。時が遅くなった。1歩が悠久の時に感じた。俺は踏み荒らされた芝を蹴り、飛び上がった。
体が軽い。東北の風を切り、俺は加速した。この体のどこにあるかも分からない、無尽蔵のスタミナを使って、走った。速く、速く、誰よりも速く。俺が見たい、2人だけの青空を目指して。
「なんと、信じられません! 1度抜け出したキングオブサガが、外目を通ったシンジスカイブルーに置いてかれました。この土壇場で、コーナーの減速を加速に変え、最後の、長い長い直線で抜かしました。おかしい! どこにそんなスタミナがあるのかも分からない! この小さな体のどこにそんな力が眠っているのか! 逃げて差す! 逃げて差す! これが俺の競馬だ!これが俺の競馬だ!」
鳥谷、キングオブサガ、絶句。手を抜いた訳でもない。力を緩めた訳でもない。根本的に勝てない訳でもない。なのに、何故、何故こうなるのか。彼らの小さい脳では分からなかった。彼らが大勢を乗せて走っていることに。彼らの覚悟は、並大抵のものでは無いということに。
「まだ伸びる、まだ伸びる! 遂に5馬身を超えた! 俺こそ1着だと言わんばかりの走り! 彼らはもう止まらない! 彼らはもう止まれない!ほかの馬は置いてけぼり! 彼らの独壇場! 終わらない生き地獄!」
駆け抜ける中で、俺は今までのことが走馬灯のように思い浮かんできた。全てが俺を構成する力だ!全てが俺の味方だ!ナイト、パケット、おっちゃん、厩務員、ファンの皆、親友、とーちゃんかーちゃん、そして、林。俺達は叫んでいた。
「これが、俺たちの見たかった――」
「これが、俺たちの見たかった――」
「「"景色"だぁぁぁぁぁぁ!」」
「シンジスカイブルー先頭! シンジスカイブルー先頭! シンジ強いシンジ強い! その青空の向こうまで駆けていけ! その青空の向こうまで駆けていけ!」
「シンジスカイブルーぅぅぅぅ! この晴天に輝いたのは間違いなく彼らでした! このレースは、シンジの為にあるのか!」
俺たちはゴール板を駆け抜けた。このゴールは、誰よりも、誰よりも速く駆け抜けたものしか見れない、特別なゴールだった。
観客の溢れんばかりの歓声!地面を揺るがす歓声!俺たちはそれに答えるよう、天に指を立て、腕を挙げた。
今回もご閲覧ありがとうございます。
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