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葦毛の雄王〜転生の優駿達〜  作者: 大城 時雨
はじまりのかぜ
12/79

12.メイクデビューの前に

今日も何とか投稿出来ました。

皆様に届けられて良かったです。

明日と明後日は安定した投稿が出来そうですので、ご安心ください。

福島競馬場に着いた俺達は、少し調教をした後、明日に行われるレースのため、早く寝ることにした。輸送中、日にち感覚がズレていたが、調教師の時計で確認することが出来た。東北の、関東に比べ涼しい風が吹く夜、俺の馬房に林が来た。


「いよいよ明日はレースですね。何か思う事はありますか?」


ポーカーフェイスが少し緩み、優しい顔の美青年がいた。俺が牝馬だったらホレてるだろうよ。生憎、俺は牡馬だがな。俺は表情を変えずに返した。


「そうだな。俺はお前のお陰で変われたから、もう勝つ気しかないよ。名馬には名騎手ありという言葉は、本当だな」


林の口元が緩む。年齢もあってか、柔らかい笑顔の中に、覇気が感じられた。


「そうですか、私もです。私も―シンジさんのお陰で変われたんですよ」


俺はドキッとした。何しろ、俺は林によって与えられた側で、林に与えたものなんて何も無いと思っていたからだ。俺は恐る恐る林に尋ねてみた。


「なぁ、俺って、お前に何か、与えられたものはあるのか?てっきり、俺はお前に与えられるばっかりだと思うんだが……」


林は少し笑顔を崩し、困った顔を見せた。だが、その後に何か決心したような顔をし、俺の方に顔を向けた。


「私の話を、聞いてくれませんか」


怒ってはいないが、どこか覇気があり、悲しくも嬉しくもない表情。こんな顔見た事はなかった。だが、俺は相棒の出来事を知りたかった。だから、俺は無言で首を縦に振った。林は落ち着いた表情を見せ、話し始めた。


「私、いや、当時に合わせて俺でいきますか。俺は、競馬学校のエリートでした。騎乗試験も1位、筆記試験も1位でした。そんな俺に、よってくるやつはいなかった。ウザがられていたんです。気持ち悪いとも言われました」


「中々にキツい体験だな。」


「そうです。ある意味、シンジさんとは違う形で1人でなったんです。…続けましょう。そんな俺が心の拠り所にしていたのは、やはり競馬でした。馬と駆けている間は、何も考えずに走ることが出来た」


「だが、俺を満足させる馬はいなかった。全て速さも、スタミナも、パワーも、どれも基準値に満たしていなかった。そこに現れたのがあなた、シンジスカイブルーという名馬です。」


「あなたは全てにおいて完璧だった。そんなパーフェクトホースが、俺の元に現れたのは、奇跡だと、映像を見た瞬間分かりました。あなたのおかげで、俺は初めて、勝ちたいと思ったんです。あなたがいなければ、今の俺はいません。今頃腐ってたと思います。あなたが、俺を変えたんです。ありがとう」


林の目は潤んでいた。それを聞いて俺は、嬉しくて嬉しくて、飛び跳ねたかった。だが、そんなことしたら雰囲気ぶち壊しだ。俺は溢れるばかりの気持ちを抑え、あくまで本心を伝えた。


「そうか、お互いがお互いを刺激し合って、互いに成長していたんだな」


「そうですね。俺も、負ける気はしません。だから、明日の新馬戦―」


「?」


「絶対に勝ちましょう。誰よりも速く、2人だけの青空を見ましょう」


「ああ、そうだな」


二人の間に、さらに深い友情が芽生えた。その友情は、酸素を吸い込み火の粉を上げ、天焦がす火柱となって、東北の空に消えていった。



















早朝、小鳥の囀りで目を覚ました。朝焼けが目に刺さる。時間を確認しようと思い、辺りを見回すと、馬房の前に立つ林を見つけた。


「おはようございます。昨日はよく眠れましたでしょうか」


神出鬼没にも程がある。だが、もうほぼ慣れた。こういう時に、人というものは付き合いの長さを実感するのだなぁ、と感じた。


「どうだかな。だが、悪い眠りじゃねぇ。希望に満ちた眠りだ」


「面白いこと言いますね。それはそうと、今日のレースは12時半に始まります。指示があると思いますが、準備しておいて下さい」


そう言い残すと、林は自分の部屋に帰って行った。やはり感情の起伏は薄い。昨日見たのは本当に珍しいことなんだな。そんな考え事をししながら、俺は寝てしまった。


「おい、起きろ。もうすぐ体重検査だ」


調教師の声で目を覚ました俺は、連れられて体重検査に向かった。その後も、ゼッケンや装鞍をし、パドックに向かった。


「ほー、パドックってこんな感じなんだな。見るんじゃなくて見られるなんて、なんか新鮮だな」


「私もですよ。なるべく目立たないよう、毛色悪くしといてください」


「そんなんできねーよ」


他愛のない会話をしながら、パドックを後にした。そして、俺たちは前のレースで荒れた芝に脚を踏み入れ、返し馬(レース前の準備運動のようなもの)を始めた。


「いいですね。ココ最近で1番の出来でしょう」


林がそう言うんだから、間違いはない。俺は入れ込み過ぎず、かと言って余裕過ぎず、いい状態で返し馬を終えた。


「行きますよ、シンジさん。いや、シンジスカイブルー!」


林が勢いよく呼びかける。俺も呼応するように返した。


「おう!俺らは絶対負けないぞ!」


各馬ゲートに入り、緊張が走る。夢のメイクデビューがいよいよスタートだ!

今回もご閲覧ありがとうございました。

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