鳥のいる風景 8
ようやく杉木立が切れようとするときだった。寺と神社の敷地をしきる大人の膝ほどの土塁の上、なにやら丸い塊が蠢いているのが目に飛び込んできた。それは右に左に軽くその体をゆすりながらこちらの様子を窺っているように見えた。
あの鳥だ。そう直感すると同時に、俺の体は自然と二股に分かれた杉の木の陰に隠れていた。見れば見るほど、それは俺の意識を超越したように丸く大きく固まっていくように感じる。しかしそんなこととはお構い無しに鳥は静かに藪の中で地面をほじくり返してはしきりと何かを探しているようだった。俺は息を殺した。できるだけ物音を消すために細い獣道を足場を選びながら進んだ。そして、笹を掻き分けて土塁のそばの少し開けた窪地まで来た。鳥の姿はこちらから丸見えになった。大きく裂けた口を時々開くが、その中身は血にまみれたように赤く、それを見るたびに背筋が寒くなるような気がした。
しかし、何より俺を驚かせたのはその眼だった。その眼は鳥の眼というよりも人間の眼に近かった。どこか悲しげでその眼と視線が合いそうになる度に俺はなぜかきまずい気分になって思わず眼を背けてなにも見えやしない杉木立の隙間からのぞく空を見つめた。空は昨日と変わらず、その前の日とも変わらず、薄い煙のような雲をあちこちに撒き散らかして俺の頭の上に広がっている。その一点の光、太陽は葉陰の間をすり抜けるようにして俺とこの鳥に同じように照り付けていた。俺はじっとそんな林の下の光景を見つめながら時がやってくるのをじっと待っていた。
鳥がよたよたと倒木に向かって歩き始め、柔らかなおがくずに足を取られながら辺りを見まわせる位置まで来ると不意に俺のほうに眼を向けた。
それが合図だったのかもしれない。俺は木の陰から飛び出しそいつを捕まえようと倒木めがけて突進した。鳥はのんびりと俺を待ち受けているように見えたが、俺がその手を伸ばせば届くというところまで来た時ひょいと向こう側へ飛び降りた。俺はそれを追って慣れないサンダルを脱ぎ捨ててその障害物を飛び越えた。
鳩が二羽、その音に驚いて飛び出した。俺もまた眼を見張った。びっしり生えた苔の上、一つとして動くものも無く静まり返っている。もしあれほどの大きさのものが動き回っていたとすれば、痕跡はどこかに残っている筈なのだが、なめらかに光る苔にはどこにもその爪あとは見えやしない。俺は奴の隠れそうな穴ぼこや木の雨露を見つけようとしたが、五メートル向こうの杉の木はまるで電信柱のように滑らかな円柱をなしているだけでろくろく隠れる場所さえ見つからない。
消えたのだろうか。俺の眼の錯覚だったのだろうか。表の方では先ほどまで気づかなかった杭を打つ槌の音やなにやら指示をして回る若い男の声が響き渡っている。その中に聡の声がいくつかはいっているのもよく判る。
俺は自棄になって脱ぎ捨てたサンダルを手に持ったまま、もと来た道を引き返した。




