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鳥のいる風景 14

「お客さん、かなりお疲れのようですね」 

 マスクをしていない方の駅員が後ろからそう尋ねる。振り返ってみると気づかなかったが、遠慮がちに覗き込んでくるその瞳の色がやや青いような気がしていた。

「いえ、別にそれほどでは・・・」 

「いいえ、私の見たところではかなり疲れていますね。そう言うときはこれなんかどうですか、これは馬の脂を煎じて・・・」 

 マスクをした方が懐に手を伸ばそうとしたとき、もう一方がその手を押さえ込んでそのまま俺の手から切符を奪いはさみを入れた。

「インチキですよインチキ。そうに決まっているじゃないですか。さもなきゃ世の中に過労死する人間はいませんよ」 

 そのままホームへと向かい木造の駅舎の手前で気持ち悪そうに身体を震わせながらディーゼルカーが停止する有様が目に入る。俺は手にした写真の束を無造作に足元にあるボストンバックに放り込んだ。俺が乗ってきても車内の乗客は一人として反応を示さない。まるでここには駅などと言うものは存在しないとでも言うように、彼らは無関心を装い続けている。

 腕時計を見る。列車はゆっくりと加速しながら窪地のようなところを進んでいく。掘っ立て小屋のような家のそばでは老人がいつまでとなくトラクターの修理をしている。

 各駅停車のディーゼルカーのたてる憂鬱なエンジン音が昨日から続く夢から俺は弾き跳ばして、硬すぎる座席の上に叩きつけた。窓の外には汚らしいくらいに茂り続ける広葉樹の森。視界は開けたり無くなったり、下のほうに光ってみせるのは地図で見たY川の水面だろうか。

 外のありきたりな風景に飽きた俺は、これもありきたりな車中の人々にその視線を移した。昼下がりのノンビリした空気の中、誰もが思い思いにゆっくりと流れる空気の中にたたずんでいる。向かい合わせの七人がけのロングシートには計ったように等間隔に四人の客が座っている。

 一番右端、丁度俺の正面に座っている女子高生。しきりとカールのかかった脱色された髪を繕っている。うすいかばんの中身はたぶんファッション雑誌かなにかだろう。時々目が合うたびに、まるで汚いものにでもであったように顔をしかめて見せる。その隣には行商の帰りだろうか、小豆色のふろしきに包んだ自分の胸の辺りまで積み重ねられた荷物を座席の前においていかにもさわやかそうに首に巻いた手ぬぐいで額の汗を拭っている。それも一段落すると、駅のゴミ箱から拾ってきたようなしわくちゃのスポーツ新聞を広げて芸能欄ばかり飽きることなく読み続ける。

 俺はその隣に座った無愛想な山歩きの人々の視線を無視すると、もう一度、外の変わることのない景色に目を移した。相変わらず外を流れる木の葉の群れはどれもこれも申し合わせたように鈍い緑色の光を俺の顔に向かって注ぎ込みながら俺の行く先の風景をわざとさえぎって見せる。

 結局俺に残されたのはこの風景だけだったのだろうか。そこには変わらない外の空気を見ながら、深い絶望の色を浮かべている俺が映っている窓ガラスを息を殺して眺めている俺がいた。



    

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