鳥のいる風景 13
「荷物、持とうか」
一語一語、間違えることを恐れるかのようにゆっくりと話す聡に、俺は持ってきた荷物を差し出した。まるでこの村に来てからの出来事が夢のように感じられる。奴はようやく安心したようにそれまでの不安げな足どりが少しだけ軽快になっているように見えた。聡は車のトランクを開け、まるで貴重品でも扱うように丁寧に俺の荷物をその中に入れる。おれはオートロックによって解除された後部座席のドアーを開き、昔のように無造作に座る。
「一応、禁煙だから・・・」
聡が申し訳なさそうに言ったのは、バックミラーに映る俺の顔がよっぽど不機嫌そうに見えたからなんだろう。先ほどの饒舌は影を潜め、聡は真正面を向いて運転に集中している。
日差しが絶え、次第に効き始めるクーラーの冷機に心地よい疲労感。俺は全身の力が次第に抜けていくのがわかった。森の中の緩やかな坂道が与えてくれる心地よい衝撃、聡の子守唄のような独り言、意識は次第にうすくなりかける。しかしなぜだろう、そう言うときに限って気まぐれな日差しが俺の顔面をひっぱたき、眠りは自然と遠くへと去っていく。残された俺はバックミラー越しに心配そうに俺を見守る聡のにごった目玉を見つめながら咳払いをしてどうにかその場を取り繕う。
あのロータリーに車は止まり挨拶もせずに俺は車を降りた。ポケットから切符とハンカチを取り出し、右手に持ったハンカチで額の汗を拭いながら時代物の駅舎に填められた木の枠を持つ窓のほうを見つめた。中には二人の駅員がこのように客も降りない駅だと言うのに、いかにも忙しそうに立ち働いていた。一方は風邪でも引いているのか、口のところにマスクをしている。しかしそれを除けば、切れ込みを入れただけのような目も、潰れた鼻も、にきびだらけの頬も、時折、下を向いて帽子のつばをこする癖までも全く瓜二つだった。
そのうちの一人、マスクをしていない方の駅員が、雑巾を持ったまま窓枠の方に顔を向けたとき、ようやく珍しい乗車客を見つけたのか、マスクをしているほうの駅員の肩を叩くと雑巾を放り投げてそのまま奥の部屋へと消えていった。俺はその様子をじっと眺めていたが、このままホームにいっても仕方が無いと思って、とりあえず改札口に行こうと駅舎を横に見ながら歩き始めた。
かつては大いに栄えたのかもしれない。事実この長大なホームは二両編成のディーゼルカーが止まるにしては不必要な長さで、小さな村の中央部を占拠していた。周りの民家も、多くは半分崩れかけながらただここが村であったことを証明するためだけに立っていた。
そんな風景を見ながら改札口に行くと、二人の駅員が先を争うようにして改札口に立とうとしている。二人ともその定位置を確保することに一生懸命で、俺の方は眼中に無いと言ったような感じでおれは改札口の手前で立ち往生してしまった。
「困るなあ、それじゃあ通れないんだけど」
咳払いをしても反応を示さなかった二人も、俺のこの言葉が聞こえたのか急に争うのをやめて、一番俺に近かったマスクをしている方が切符を受け取り、俺はようやく改札口に入ることができた。




