★第九話★
竹間建設の社長は竹やぶに捨てた一億円は、経理の一社員が単独で行ったことだと、自らの責任を否定する。しかし、集まった報道陣からは税金逃れの組織ぐるみの犯行ではないかと厳しい質問が飛ぶ。
竹間建設の社長は本物の罪の意識からなのか、それとも究極の被害者根性からなのか、こらえきれぬ涙をハンカチで抑えて、なんとか拭っていた。そして、しばし呼吸を整えて、冷静さを取り戻すフリをするのだ。ようやく気持ちが落ち着いてきたフリをすると、反撃に転じる機会を伺いながら、多数の報道記者が冷たい目で見守る前で、したくもないであろう話を続けた。
「竹やぶで一億円が発見されたという衝撃的な一報を聴かされ、その数日後には、今度は警察署の方から、事件の現場である竹やぶ付近に残されていた、タイヤ痕が我が社の駐車場に停めてあった、業務用の乗用車のものとほぼ一致した、との情報を頂くことになり、もちろん、先ほども申し上げました通り、一億円の遺棄につきましては、私としては、まったく身に覚えのないことですから、その話を聴かされても、半信半疑の状態でありまして、関係各所の社員から、詳細な事情を聞いてまいりました。その頃には『自分の社の人間が、このような人を食った大事件に関わっているという結末だけは考えたくない!』それだけを念じながら、内臓を研ぎ澄まされた刃で少しずつ裂かれる思いで調査を続けたわけです。その結果、昨日の深夜になって、この三十六歳の男性社員が『一億円の遺棄につきましては、自分がミスを隠すために独自の判断でやりました』と罪を認めた次第です……」
そこまで話し終えると、社長は再び涙声になり、ハンカチで目元を何度も拭くような素振りを見せた。とにかく、発言と発言の間に空きを作ることで、尖った質問が来たときの対処について考慮していると思われた。つまり、竹間のトップである、この自分だけはこの許しがたい、そして奇怪な犯罪とは一切関わりが無い善良な人間である。そして、この自分だけは、社会倫理を無視してまで、脱税や賄賂によって私腹を肥やしたことは一度もない善人であると、強く訴えたいようであった。ただ、世間一般の人からすれば、大企業や官僚関連の不祥事の際によく見られる、いわゆる『トカゲのしっぽ切りによる幕引き』がいつにも増して、大々的に派手に演じられているだけであり、自分の資産の大部分を投じてまで、寸借詐欺や新興宗教に引っかかるような、単純極まりない人間でもない限りは、このどぶ鼠のように薄汚い社長の言葉を真に受けたりはしないはずだ。企業社会の重鎮でもある、竹間の社長としても、その辺りは百も承知のはずで、後はもう、いかにして、これだけ世間を騒がせてしまったにも関わらず、責任者である自分だけは国民の不審を買わずに、公的機関から何の追及も受けずに、今の地位を奪われずに済むように、この険悪な事態を反転させられるかなのだろう。
この件とは直接関係のない俗人からすれば、この会見で放たれた発言の数々は、身勝手極まりない話にも聴こえる。しかし、これは何もこの企業だけの問題ではない。大企業の幹部などというものは、つまみ者と呼ばれるほどの、よほどの変わり者を除けば、みんな似たような感じの対応に終始する。どんな大事故が起こっても、第一には、自分の保身のことしか考えていない。自分の管轄で何百人が亡くなるような大事故が起きたとしても、トップと幹部数人が会見で何度か頭を下げれば、それで済むと本気で思っている。万が一、旗色が悪くなり、辞めざるを得ない局面となれば、穏便な辞職を選び、多額の退職金をむしり取って行く。被害者の救済やその後の生活の保障などは、二の次三の次である。ここまで図々しくなければ、大権力機構の幹部などは務まらないのだろう。
その逆の例として、一般庶民たちは少ない給料の中から、割に合わない多額の税金と保険料を支払って、文句も言えずに生活をしている。深残業により、満身創痍になって仕事から帰ってくると、スーパーの特売品で購入した、消費期限ぎりぎりの安い素材で、まずい夕食を作って、とりあえずの空腹を満たしている。連日のように続く、長時間労働のために夜は子供と遊んでやる余裕すらない。貯めた小銭の使い道は、数年に一度の、二泊三日の国内旅行である。だが、民衆の大多数を占める貧困層の人々が同じ観光地にこぞって繰り出してくるために、車の大渋滞や新幹線での取っ組み合いなどのみが記憶に残るだけであり、心底疲れるだけで楽しくも何ともない。そんなイベントだけを心の支えにして毎日を生きている。その一方で、大企業は悪法や官僚を後ろ盾にして、何億円もの大金を税金から抜き取っていき、一部を政治家に賄賂として贈呈し、その見返りを公共事業の落札価格に反映させて、余計に私腹を肥やしていくのだ。可能であるならば、ここから石でも飛ばして、あの泣き面の顔にぶつけてやりたいところだが、この図々しい社長は、まだ土俵から降りるつもりはないようで、淡々と会見を続けるのだった。
「先ほども申し上げました通り、出来の悪い一社員による、法を無視した、勝手な行動とではありますが、責任の所在につきましては、この代表取締役である私にすべてがあると思います。よって、役員以下、課長以上の管理職につきましては、この先三ヶ月間、減棒十%としたいと思っております。それが、世間の皆さまへのせめてものお詫びの印です……」
なるほど、ここが落としどころだったのか……。長々と反省の弁を続けた割には、子供が尻を叩かれた程度のずいぶん軽い罰であるが、一応、役員全員が責任を取ることにより、世間への体面を保とうというわけか。今後、警察の捜査によって、内部の検証が始まれば、これ以上の悪質な事実が次々と明らかになっていく可能性も当然の如くあるわけだが、その時にはもう、この幹部たちはテレビカメラの前に出てくるつもりはないのであろう。私は腕組みをしながら、そこで一度ため息をついた。このフロアのテレビの前において、十年一日のような、その謝罪会見を鑑賞していた、うちの部署の社員たちからも、不平不満が飛び出してくるのは当然だった。
「へっ、たったの十%の減棒だってさ。あの拾われた一億円だって、出どころがはっきりすれば、結局は、この社長の手元に戻ってくるわけだろ? この人たちは絶対にもっとあくどいことをやっていると思うよ。この会社自体には、今のところ、経済的な損失なんてほとんどないのにさあ……。今回の一件の根本が脱税であったことを素直に認めていて、そのことを本当に反省しているつもりなら、もっと、痛い目を見てもいいのにな」
私の隣で、一緒にテレビを見ていた中年社員からは、そんな辛辣な言葉が漏れ出した。周囲の人間たちはそのセリフに対して皆頷いていた。どうやら、大企業のやり方や幹部たちの身の処し方に対して、根本的な不信感があるという点では、皆共通しているらしい。我が社のような、国からは何の援助も得られない、中規模の会社において、もし、個人の過失において、あのような不祥事を起こされてしまったら、一人二人のクビが飛ぶどころの騒ぎでは済まされないだろう。ただでさえ、多いとはいえない、取り引き先の信用を大きく損なってしまえば、問答無用で経営が傾くことになる。
「このニュースが放送されたからには、これから税務署が本格的に動き出すわけで、竹間建設の大型脱税がついに明るみに出るわけですよ。今まで不正に溜め込んだお金も、税務署員に踏み込まれて、奥の大金庫がこじ開けられてしまえば、そのほとんどが追徴課税で持って行かれてしまうから、あの幹部たちも、今に笑ってられなくなると思います。今は山の上でも、二週間以内に落ちるところまで転がり落ちて崖下の湖まで沈んでいくでしょう。それで、この事件もついに解決! つまり、余り神経を尖らせずに、放っておけばいいと思います……」
皆のお気に入りの金沢係長が冷静な口調でそう呟いた。私としては彼女がそんなに感情的であり、しかも、この事件について、厳しい考えを持っている人間だとは思いもしなかったので、多少驚かされた。やはり、庶民を騙くらかすような、拝金主義的なやり取りが絡んでくると、人の物の見方というのは、変わってくるものなのだろうか? 嫉妬は誰しも持ち合わせてるそうだが、その発現によって、その人の本心が透けて見えるということもあり得る。私にも無関係の話ではない。同じような目に陥らないように、十分気をつけなければ。テレビの会見上では、すでに各報道陣からの質問の時間に入っており、通常の神経では到底答えられないような、厳しい質問が矢継ぎ早に飛んでいた。
『先ほど、社長の説明にありました、一人の男性社員による犯行というのは本当ですか? 一億円という大金は、どう考えても、個人が誰にも見られずに社外へ持ち出せるような金額ではない。複数の同僚か、もしくは、その上司などが当然関わっているように思えるのですが……』
「先ほども申し上げました通り、今回の事件の詳細は、この男性社員一人による着服に端を発したもので、全てであります。それ以外の社員や幹部はいっさい関わっておりませんし、さらに上級の役員からの指示なども一切ございません……」
ここで別の大手新聞社の女性記者が自信ありげに手を挙げて発言を求めた。赤いスーツを着こなし、グレイの縁の眼鏡をかけ、その身のこなしからいって、いかにも大手新聞社のやり手の記者といった風情だった。彼女は利き手に持ったボールペンの先で、役員たちを一人ずつ指していきながら質問を繰り出した。
『しかしですね、一人の一般社員が数年も前の時点から、決して小さくはない会社の貯蓄をかすめ取り、それを誰にも見つからぬように机の引き出しに溜め込んでおくという点がまず不自然ですが、いざ、社内監査が始まるとなると、そのうち、一億円にも上る金額をカバンに詰め込んで、誰の目にも触れずに、駐車場の車の中にまで運び込んで、近くの山林まで運転していき、他人にはいっさい見られることなく、竹やぶの奥まで運んでいき、そこに遺棄するまでの全過程、横領から始まるこの数年にも及ぶ、このきわめて大胆な行為のすべてを、社員の誰にもばれずにやるというのは相当に不自然ですよね。タイヤ痕の一件で、警察から事情聴取を受けるに至るまで、数億円もの資産の流出に、本当に社内幹部のどなたも気がつかなかったと言われるんですか?』
社長はこの女性記者の言葉の持つ圧力に押されて、また何か拠り所を失ってしまいそうな、不安げな表情に変わって、真っ黒に塗りつぶすほど読み込んできたはずの、手元のレジュメにもう一度目を移した。そして、何枚かの応答用の原稿をぺらぺらと何度もめくりつつ、しばらくの間、それらに目を通してから、慎重を期して答えた。『方針はすでに定まっている。ここで下がるわけにはいかない』
「そのことにつきましては、警察各位の懸命な捜査により、事件が発覚しましてから、社内におきまして、役員から管理職、もちろん、一般の社員、そして、入社したばかりの新入社員に至るまで、入念に事情聴取を行ってまいりました。その結果として、かの経理の社員と、この犯罪において密接に繋がっている人間は一人もいないという結論に至りました。その間、内部調査についての一切の情報の漏れはございませんでした。警察からの要望に応じまして、全ての社員の身辺調査についても綿密に行いました。その結果、この三十六歳の男性社員の単独犯行に違いないと、確定するに至りました。断じて、役員やその他の幹部から、札束を遺棄することを仄めかすような指示はなかったと、そう言い切れるわけでございます」
社長の口からは、先程からどんな問いがきても、ほぼ同じような性質の回答が続いている。まあ、今日のところは、これ以上の情報を出すつもりは一切ないのであろう。この煮え切らない態度に対して、せっかくこの地に集まってきた底意地の悪いマスコミ記者たちは、『このままでは、社に戻れない』自分こそが最大の獲物を得るのだとする狼のような目つきに変わり、会場の雰囲気までもが、次第に殺気立ってきた。このままでは、ほとんど曖昧な警察発表のままで、この怪事件の全容は後々まで語られることになる。『一人の若い会社員の横領と持ち逃げがその全容である』これが真相であるならば、わざわざ、これだけの記者を集めてくる必要はなかった。しかしながら、お互いが手の内をすべて見せ合えば、とてもテレビで放送することなど、できないものになるだろう。マスコミ側も容疑者側も自分の側が握っている情報や疑念を、あえて、さらけ出さないでおくから、何とか、お茶の間で炬燵を囲んで見られるような、和やかな報道番組になるわけだ。警察と企業とマスコミが何かのきっかけでとち狂ってしまい、全ての情報を垂れ流してしまったら、即日民衆は立ち上がり、革命騒ぎが起こるだろう。
次の瞬間、もう我慢できんとばかりに、角刈りに黒いスーツの迫力ある若い男性記者が満を持して立ち上がった。苛立ちが積もり積もったのかもしれないし、あるいは、正義感から悪党討伐の時と見定めたのかもしれない。
『明朝新聞のものです! 今年の初め、あれは二月でしたか、それとも、三月初旬でしたか、御社が裏社会のブローカーとつるんで、大型の脱税に手を染めているという内容の記事が某週刊誌に掲載されましたよねえ? あの時、御社の幹部方は、記者団の問いかけに何一つとして答えず、まともな会見も開かぬままに、かたくなにこれを否定するだけの態度をとられましたが、今から考えると、あの記事には相当な信憑性があったんじゃないですか? え、その辺はどうなんです? 今度こそ、誠実に答えて頂きたいですね』
良識を持つ多くの人々が、この質問がいつ飛び出すのかと待ちわびていたわけだ。私としてもこの質問が一番適当で相当核心に迫った問いかけに思えた。しかし、竹間建設の社長は喉元に突きつけられたその問いを聞いても、思ったよりも取り乱すことはなく、顔色を変えることも、ほとんどなかった。人生の端まで追い詰められたゆえの開き直りや錯乱にも見えなかった。彼は一度ハンカチで額の汗を拭ってから、ゆっくりと顔を上げた。
「うちの役員は大変顔の広い方々であります。官公庁や他の企業の役員とも深い繋がりがあり、通常の勤務だけでも、日々忙しい生活を送っております。裏通りの本屋でしか発売されていないような、その表紙を開くのもためらわれるような、上半身裸の女性が何頁も載るような、低俗な週刊誌に、いちいち目を通している暇は全くございません。それとも何ですか? 企業の役員がこなす業務とは、日々工場で刷られている、無数の週刊誌に書かれている、それがどんな小さく煩わしい記事であっても、いちいち、その全てに目を通して、マスコミ各社を含んだ、世間一般の人々に対して、何らかの対応をしなければならないという法律でもあるのでしょうか? 少なくとも、国立法学部卒の私はまったく聴いたことはありません。また、うちの企業が税務署からの監査を受けた、などという世迷いごとについても、未だかつてございませんので、こちらについても全面的に否定させていただきます」
『それじゃあ、言い訳になりませんよ! 本当に税務署の査察が怖くないなら、なぜ、人身御供まで使って、社内金庫の中から、一億円も取り出し、竹やぶに投げ捨てにいく必要があるんですか? こんなことは貴方が指令を出さなければ誰にも出来るはずはない!』
「この場において、先ほどから、何度となく申し上げておりますが、それは経理部の三十六歳の一社員が勝手な判断により行ったことであり、我ら経営陣が関知するところではございません」
こんな雑な切り返しでは済むはずもなく、角刈りの記者は目を真っ赤にして、さらにまくし立てた。
『しかしですねえ、こちらで調査したところ、その社員は以前にも電車内での痴漢行為で懲戒処分を受けたことがあるそうですね。貴方が人柱として選ぶには実にぴったりな人選と思います。よろしいですか? 十五年近くも勤めて、未だに管理職にもなれない名も無き一般社員が、一人で数億円の金を横領していて、上役から睨まれると、今度は不思議と誰にもばれずにそれを(いつ用意したのかも判明しない)カバンに詰め込んで、駐車場の車まで誰にも怪しまれずに運んでいって、独断で付近にある竹やぶを選び出し、車でそこまで運んでいって、遺棄したとおっしゃるんですか? これを誰が納得するんですか? 怪談奇談と比較しても、とても不自然な話です。税務署に長年にわたる脱税行為がバレた末に会社ぐるみで起こした、貴方を含めた幹部の度を越した混乱が引き起こした愚行と考えてみた方が、よっぽど筋が通りますけどね?』
しかしながら、今回の会見において、最も適格と思われる、この質問には、その後も、テレビの前の聴衆が期待していたような返答は一切なかった。竹間の社長は、もうこれ以上の弁舌を弄するのは無用だと判断したのか、それとも、これ以上冷静な態度を保ち続けていることが難しくなってきたのか、他の役員と時を合わせて、スっと立ち上がって、誰も要求していない一礼をした。
「これにて、今回の一件の質疑応答を終了させていただきます。今後は、このたびの不名誉を挽回すべく、社員一丸となって、今回の一件により出してしまった損失以上の業績を上げて、社会の皆様のために貢献する決意であります。本日は、お忙しい中、お集まりいただき、大変ありがとうございました」
社長はこの言葉を何とか肺の中から吐き出して、これを持って会見を打ち切ったつもりでいたらしい。しかしながら、数日間会社に泊りがけでこの難事件を追い続け、ようやくその進展を知らされ、大きな期待を持って集まってきた報道記者たちからの怒号とも思える質問は全く止まなかった。
『税務署から査察が入った場合、社長自身はいつ、どのような形で責任をおとりになるつもりですか?』
『今回の現金遺棄事件のことで、ご自身がお辞めになるおつもりはおありですか?』
『社長自身は一億円遺棄事件の実行あるいは指示に、本当に関与していないんですか? 全く関与していないことを国民の前でもう一度誓えますか?』
「皆さま、ここで、質問を打ち切らせていただきます。これにて失礼いたします」
「会見はすでに終了しております。本日はお忙しい中、来社いただきまして、誠にありがとうございました」
だがしかし、ここに集められた記者たちも、ネタ元を追い続けることで、日々の飯を食っている、その道のプロであり、ここは譲れないようだった。ほとんどの記者が矢継ぎ早に椅子から立ち上がると、役員たちの座るテーブルの方へ詰めかけていった。そして、テーブルを回り込むようにして、出口側を押さえ、多くの幹部を取り囲んだ。乱射されるカメラのフラッシュも、まるで『お前たちは罪人なんだ。もっと、記事になることを話していけ』とでも言うように、なかなか途絶えることはなかった。役員たちは前方を塞ごうとする記者たちの手を懸命に払いのけ、強盗から逃げるように入り口に殺到した。
『社長自身もこの竹やぶ一億円事件に関わっておられるんですか?』
『社員一人に全てを押し付けて、終わりにしてしまうつもりなんですか?』
「会見は終わりです。これで失礼します」
「前を開けてください! あなたたち、邪魔ですよ! 失礼ですよ! 前を開けてくださーい!」
まるで全国民に訴えかけるような、社長の悲痛な声とともに、その会見は混乱の極みの中で終わった。画面は無用なものを見せないために、すぐに報道センターに切り替わった。現在のところわかっているのは、大手企業の経理部で働く、名も明らかにされない社員の一人が、そもそも、誰の責任かもわからないような不手際を隠すために、一億円という大金を何故か用意されていたカバンに詰め込み、乗用車で運び、竹やぶに放棄したというだけなのだ。しかし、マスコミ記者からの執拗な責められ方を見るに、まるで大量殺人でも犯したかのような重大性が感じられた。例え、軽犯罪であっても、一週間という長い期間、不眠不休で走り回されてきたマスコミ各社の記者たちから、容疑者に対するケジメの付け方を見せつけられた思いだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。完成が見えてきたので、ぼちぼち公開していきます。