二十二話 不吉の重なり
俺は約束の戦隊ごっこが終わると、早めに違うクラスに移動する。
何故なら冷姫と鉢合わせしないためだ。まぁ何にせよみくちゃんとは距離を置かなきゃいけないから不都合はない。
俺はチラッとみくちゃんの方を向いてみる。
どうやらみくちゃんは、机でお絵描きをしているようだ。
……やっぱり挨拶だけでもしようかな…
ーーーガラガラッ
「みくちゃーん。お迎えが来たわよ~」
みくちゃんが顔を上げる。その瞬間にみくちゃんと目が合ったが、俺はすぐに目を外す。
急がなくては…みくちゃんのお迎えが来たということは冷姫が来たということだ。
俺は後ろへ振り返り、早足で後ろのドアから出ていく。
今更だけど職員室に挨拶しようかな。
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【未郁side】
私はお友達に誘われたお絵描きをしていた。
いつもは楽しいお絵描きが何故か楽しくない。
「みくちゃーん!なにかいてるのぉ?」
私は手元を見てみると、私ともう一人の顔が描かれていた。
「あ!これ、もしかして…はるとにーちゃん!」
私の隣に描かれてる顔を見ながら聞いてくる。
「う、うん…そう…」
「はるとにーちゃんかっこいいよねー!」
全くその通りだと思う。お兄さんは、優しくて、温かくて、一緒にいると安心する。
それに、お兄さんのことを考えていると体がぽかぽかしてくる。
「わたし!はるとおにーちゃんすき!」
「えっ……」
私は意識せずに口から漏れてしまった。
「だってねーいつもいっしょにあそんでくれる!」
「そ、そうだね…」
私は曖昧な返事で返す。
はるとお兄さんが好きって聞いた瞬間なんか胸がどくんってした。
そこ知れぬ不安がせり上げてくる。
ーーーガラガラッ
「みくちゃーん。お迎えが来たわよ~」
私は顔を上げる。
あっ…お兄さんとまた目が合った。
だけどお兄さんはすぐに目を逸らして教室から出てしまった。
………私…やっぱり、嫌われちゃったんだ
目を逸らされたのが2回目となると確信をもてる。
私は先生に連れられて教室を出ていく。
外でお姉ちゃんが腕を組んで待っていた。いつもはお姉ちゃんと一緒にいると嬉しいけど、なんでか気が重い。
「みくちゃん、帰ろっか」
お姉ちゃんが手を差し出してくる。
私はお姉ちゃんに心配されないように平然を装い返事をして、手を繋いだ。
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【冷姫side】
今日も煩わしい生徒達をくぐり抜け、保育園に到着した。
保育園の先生が言うには、下校してすぐに来てしまうと少し早いらしいので、そこまで急く必要は無いが、周りの生徒に囲まれるのも嫌だし、何より早く愛しのみくちゃんに会いたい。
すると、丁度よく廊下でパンダ組の担任の先生に会った。
「こんにちは。いつも未郁がお世話になっています」
「あ、これはこれは、みくちゃんのお姉さん。こちらこそ、みくちゃんは賢くてなかなかお世話をやけないほどなんですよ」
「そうなんですか!それは良かったです」
私はマイエンジェルみくちゃんが褒められたので声が大きくなってしまった。
…少し先生もビックリしている。
「みくちゃんを迎えに来ました」
「そ、そうですか!それじゃあみくちゃんを呼んできますね」
先生はパンダ組の教室に入っていく。
その瞬間、入れ替わりのように後ろのドアから、あの男がでてきた。寺坂 春斗だ。
私は不機嫌になるのを我慢するように腕を組む。
するとあの男はそそくさと行ってしまった。
あの男はまた私のみくちゃんになにかしてないかしら。
みくちゃんが先生に連れられてやってきた。
ん?あれ?みくちゃんの様子が少しおかしい…
「みくちゃん、帰ろっか」
私は手を差し出す。みくちゃんは笑顔をで手を取ってくれるが、みくちゃんの変化がわからない私ではない。
帰り道、私は満を持してみくちゃんに何があったか聞いてみる。
「みくちゃん、保育園で何かあったの?」
みくちゃんはビクッとして一瞬立ち止まる。
だが、すぐに歩き出す。
「なんにもないよっ!」
……やっぱり変だ。
朝は元気だったから多分、保育園で何かあったのだろう。
今回の件はあの男は関わってはいないだろう。
癪だが、あの男はみくちゃんの嫌がる事はしない。
今度、パンダ組の先生に何かなかったか聞いてみることにしましょう。
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【未郁side】
び、びっくりした…
お姉ちゃん、いきなり保育園で何かあったなんて聞くなんて、さすがお姉ちゃんとしか言いようがないよ。
私が、はるとお兄さんに嫌われたから落ち込んでたなんて恥ずかしくて言えない…
……また考える始めると胸が苦しい…
そうこうしているうちに、私の新しいお家に着いた。
前のはマンション、新しいのは一軒家だった。
まだ前に住んでたお家のことが忘れられないから、今住んでいるお家のことを新しいお家って呼んでる。
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【冷姫side】
「「ただいまー!」」
「おかえりなさい、みくちゃん、冬華ちゃん」
おばあちゃんがお出迎えしてくれる。
おばあちゃんはとても優しい。私たちを心配させまいと、気遣っているのがよくわかるし、いつもみくちゃんの保育園であったことも、ずっと笑顔をで聞いてくれている。
「ご飯、できてるよ」
「ありがとう、おばあちゃん」
「やった!今日は何かな~♪」
みくちゃんと私は洗面所で手を洗い、リビングに行く。
そこには、みくちゃんの大好物のハンバーグが用意されていた。
「今日はハンバーグだ!!」
みくちゃんは目をキラキラさせてテーブルの席に着く。早く食べたいらしく私の手を引いて席に着くことをせかせる。
おうちのルール、食事は一緒に、そしてちゃんといただきますしましょう。というのがある
。
おばあちゃんが手を合わせる。それに合わせて私達も手を合わせ、
「「「いただきます」!」」
みくちゃんはすごい勢いでハンバーグを頬張る。口元にソースが付いてる。小動物みたいで可愛い…
私はみくちゃんの口元に着いたソースを拭いてあげる。すると満面の笑みでありがとうと言ってくる。マジ天使…
ーーカシャン
「あらあら…ごめんなさい、箸を落としてしまったわ」
「大丈夫?おばあちゃん、私が洗ってくるね」
「ありがとう、冬華ちゃん」
この後、これが予兆だったなんて、誰も知るよしもなかった。
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