十六話 波乱の予感
ーー放課後になった。
俺は今日も逃げるように保育園に行く。
昨日は早めに帰ってしまったので今日はいつもより遊びをせがまれるだろう。
俺は挨拶のため職員室に向かう。
ドアをノックして開ける。
「こんにちは、今日もお手伝いに来ました」
すると園長が近づいてきて、
「こんにちは春斗くん、昨日はごめんね?」
と両手を顔の前で合わせて片目を閉じ、ウィンクして謝ってきた。
……大人の女性があざといことするとなんかドキドキする。
「いいえ、こちらこそいきなり倒れてしまってすみません」
「あれがチャンスだったのに…」ボソッ
「ヘタレですね…」ボソッ
なんか他の先生たちから聴こえるが聴き取れない。
園長は聴こえていたようで、ピクっと反応する。何が聞こえたんだろうか…
そういえば、いつも恒例の告白を園長がしてこない。まぁそれはそれでいいのだが、してこない日なんてそうそうないから不思議に思った。
ちょっと気恥ずかしいが聞いてみるか。
「そういえば園長」
「えっなにっ!?どうしたの!?」
そんなに慌てんでも…
あまりに驚くのでちょっと悪戯心が芽ばえてくる。
「告白してこないんですか?俺…待ってたのに」
「ええっ!?あんなの断られるに決まって…」
「いいですよ、真希さん、付き合っても」
「…………ふぁ?」
園長は惚けている。
いつもからかわれている仕返しだ。
思った以上に効果があるな。
だけどここでネタばらし。
「わ…わたし…春斗くんの彼女「まあ冗談ですけどね」………え?」
「いつもからかってくる仕返しですよ」
あれ?なんか園長プルプル震えてる。
そんなにショックだったのか?
「あーいけないんだー」
「えんちょーを泣かせたー」
えっ!?泣いてるの!?
俺は慌てて園長を宥める。
「ほっほら!気分転換に園児たちの所に行きませんか?」
「う…うん」
俺は園長の手を引いて昨日遊べなかったパンダ組に向かった。
ーーー
パンダ組に着く頃には園長も落ち着いてきたようだ。
「園長…大丈夫でしたか?」
「ええ…ちょっとびっくりしただけよ。」
こんなになるなんて…もう園長にはいたずらはしないようにしよう。
「そっ…それよりも…手を離してくれるかしら」
「え?…あぁ!ごめんなさい!!」
俺はどうやらここまでずっと手を繋いでいたらしい。誰かに見られてはいないだろうか。
変な誤解を生んでしまうかもしれないし…
「いっ…いえ!本当に大丈夫よ!本当に!」
園長は少し顔を赤くして首をブンブンと振る。
あれ?まだ気が動転しているのだろうか?
「それじゃあ入りますよ」
俺は園長に呼びかけて教室のドアをあける。
ーーガラガラガラッ
「あ!はるとおにーしゃん!」
「えんちょーせんせーも!!」
それぞれ積み木やお絵描きで遊んでいた園児たちが一斉に集まってくる。
その中にみくちゃんもいた。
「だっこしてだっこー!」
「やくそく!おれとあそぶんだぞ!」
「えみとおままごとしよー」
予想通りみんな凄い勢いで遊ぶのをせがんでくる。とりあえず抱っこをせがんで来た子を抱っこして頭を撫でてあげる。
「きゃっきゃっ!」
どうやら喜んでくれてるようだ。
「みんなー順番なー」
一人一人遊びたいことをしっかりと聞いていく。俺は聖徳太子ではないので聞き逃さないように集中してね。
「おままごとしよー!」
その中で絵美ちゃんがおままごとをしたいといってきた。
「おままごとかー、いいね!それじゃあしよっか!」
「わーい!!」
さすがに一人一人のやりたい事をやっていたら日が暮れてしまう。だから一気にみんなで遊べるように毎回騙し騙しやっている。
もちろんなるべく叶えられるようにはしてるけどね。
「おままごとやりたいひとー!この指とーまれっ!」
すると、すごい勢いで俺の指に捕まってくる。ちょ…痛いっ痛いっ!
集まったのはやはり女の子が多かった。
女の子が6人、男の子が2人。
おままごとと言ったらまぁ女子だろう。
あ、みくちゃんも入ってる。
「はるとおにいちゃんはパパね!」
俺の役は一瞬で決められた。
こういうのは園児たちに任せるのが1番良い。争い始めてしまったら、大人がちょっと話しかけてみるくらいがいいのだ。
「えんちょーせんせいママにしよー」
「まっままぁ!?」
横で見ていた園長がすごい声を出して驚く。
何をそんなに驚いているのだろう。
園児たちが怖がってしまうではないか。
「何してるんですか。ほらママこっちに来て」
「わ、わたしが春斗くんの妻…」
「そうですよ。俺達が夫婦役です」
そう言うと、園長は顔を赤くして恍惚としている。意味がわからん…
「はっ…はいっ!!私もママやりたいです!!」
みくちゃんが手をビシッと上げて大きな声で言った。凄くママがやりたかったのだろう。
「んーそしたらどうしよーかー?」
園児たちが話し合う。
…何ハラハラした顔で見てるんですか園長。
「ふたりともママっていうのはどお?」
…えっ!?ママがふたり!?
それは俺がたらしみたいではないか…
「それいいねー」
「うんっ!それでいこー」
あ、なんかもうその方向でいってますね。
まぁ…おままごとですしー?
現実ではたらしではないわけですから?
「よっ…よろしくお願いしますっ!!あ.…あなた…?」
はぁ!?なんで4歳がこんな言葉覚えてるの!?
そういえば毎度思うのだが、みくちゃんの敬語が上手かったりするのは何故だ?
園長も「あなた呼び!?わ、私も…」と衝撃を受けている。
そりゃあそうだよね!あんなに小さい子があなたなんか使ったら……え?園長も…?
俺は流れるように役をどんどん決めていく園児たちを眺める。
ーーやっぱり子供は可愛いなぁ…
ーーー
【冷姫side】
……私は見てしまった。
あの男が園長先生と手を繋いで歩いているところを!
ーーー
時は遡り学校の帰りの時間
私、東雲 冬華は帰りにまた時間を取られてしまった。
今回は私のせいで遅れたのではない。
私に多くの生徒が群がって帰れなかったのだ。
去年もこんなことが多々あった。去年も煩わしかったが、今年はみくちゃんに会うために保育園に行かなくてはならない。
そのこともあって私はかなりイライラしていた。
結局は先生が来て収拾をつけてくれた。
はぁ…こんなことが毎日あったらいやになってくる。
特に今日は身体測定で体操服になったためいつもより視線に晒された。
早く私の可愛い天使に会って癒してもらわなくてはっ!
私はバックを持つと、急いで保育園に向かった。
ーーー
そして今に至る。
パンダ組に向かったところで見かけてしまった。見た瞬間に陰に隠れたのでバレていないはず。
あんの男は、あの女子生徒と園長の二股しているのか?
……いや…マイエンジェルを加えて三股か…
許すまじっ!!
私の天使ちゃんを誑かすだけでなく二股かけてたなんて!
………はっ!しばらく陰で立ちっぱなしになっていた。
これは殴り込みに行くしかない…
私はパンダ組にゆっくりと足を進める。
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