歴史を作ったプロデューサー
「あいつが人気者になれたのは俺のおかげさ」
自信たっぷりに『彼』は言った。
「だってそうだろ? 元々あいつに個性なんてなかったんだぜ?」
それから彼は『あいつはいわゆいる量産型さ』とも付け加えた。
「ま、俺も当時はだいぶ調子に乗っていたからな・・・なんであいつに目を付けたかも覚えてねえわ」
彼は遠い目をしながらそう言った。
記者はインタビューを続けながら彼の言う『昔』がいつのことなのかを考えていた。そもそも記者は彼の正確な年齢すら知らなかった。
そんな記者の胸の内など知らないだろう彼が話を続ける。
「あの頃の自分を例えるなら『若さゆえの暴走』ってやつだな・・・って、そんな使い古されたフレーズを口にするくらい、俺もただの老いぼれジジイになったのさ」
とりあえず今の発言で記者も彼の性別を知ることができたようだ。
「それにしても最近の若者はハングリー精神がないっていうか・・・少しは昔の俺たちを見習ってほしいね。若い頃に色々と齧っておいた方が得だと思うんだがねえ」
彼は溜め息混じりにそう言ったが、すぐにそれを否定するように自ら頭を振った。
「いや・・・もうそんな時代じゃないのかもな。最近はセキュリティも厳しいし、下手なこをしたら袋のネズミになっちまう」
記者は彼の言葉に小さく頷いた。彼が現役だった頃と今とではだいぶ事情が違っている。ある意味、それも彼の功罪なのだが今はそれを議論する時ではないだろう。
とにかく彼が歴史的スターを誕生させたことは事実だったし、運やタイミングが味方したとはいえ彼が作ったレジェンドは後世まで語り継がれるはずだ。
「・・・もし俺があの時代に戻れたとしたら、やっぱり俺はあの頃と同じことをするだろうな」
記者は彼の話を聞いていて『本能』という言葉を思い浮かべた。彼の行動はまさにそう呼ぶに相応しいものだった。
そんな彼がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ただし・・・今度は違うタイプのスターを作るつもりだけどな」
その言葉の力強さは実績からくる自信のあらわれなのだろう。しかしその言葉を聞いた記者は多少の違和感を覚えていた。彼がスターの生みの親であることに異論はないが、彼の言う『違うタイプのスター』など簡単に誕生させられるだろうか?
しばらく迷った末、記者は恐る恐る彼に質問した。
「あの・・・今、おっしゃられた『違うタイプのスター』という言葉の意味が・・・その、よくわからなかったのですが・・・」
彼は記者の言葉を聞いて驚いたようだった。
「おいおい冗談だろ・・・そんなの簡単じゃねえか。今度は別のターゲットを狙うってことだよ」
「は・・・はあ」
「なんだよ? おまえ本当にわかってねえのか?」
「す、すいません・・・」
「おまえ・・・よくそんなんで記者なんてやってられるなあ」
彼は呆れたように『しようがねえなあ』と言った。そしてどういう意味があったかはわからないが、なぜか彼は6本のヒゲをブルブルと震わせた。
ここで彼の功績を紹介しておかなければならない。
彼はその昔、量産型ネコ型ロボットの耳を齧った。
その後、そのネコ型ロボットはショックのあまりボディの色を青に変えた。
しかし幸か不幸かそのことがネコ型ロボットの運命を変えた。
他のネコ型ロボットが黄色だったのに対し、そのネコ型ロボットはオンリーワンである『個性』を手に入れたのだ。本来ならネコ型ロボットは一部の軍事用製品を除いて製造後のボディの塗り替えは禁止されている。しかし今回のように精神的負荷による自律性変色現象については、人間でいうところの『あ、白髪になっちゃったね』ということでスルーされた。これは当時の『ロボットの権利を守るための国際条約』によって認められたという説もあるが詳細は不明である。
かくして青色のネコ型ロボットは20〜21世紀のとある地域において爆発的な人気を得たのだった。
そして先ほど彼が言った『違うタイプのネコ型ロボット』の作り方は次のようなものだった。
まず黄色のネコ型ロボットが耳を失ったショックで青色になったことを基準とする。
今度は耳を全齧りせずチョイ齧り程度に留めておく。
それを同一の個体に継続的に行う。
その個体を徹底的に怒らせて怒り度数をMAXにする。
すると真っ赤なネコ型ロボットが誕生する・・・ということだった。
また彼はハニートラップによる桃色ネコ型ロボットの作成プランも考えており、彼曰く『初期型の人間臭い奴ならなんとかなるだろうぜ』ということだった。
「さすがに俺も年をとりすぎちまったから今は無理だが、もし生まれ変わったら是非チャレンジしたいもんだね」
彼はそう言って自慢の前歯を剥き出しにしてみせた。
とはいえ現実問題としてネコ型ロボットのネズミ撃退機能は年々パワーアップしており、下手に耳に齧りつこうものなら最新のドラ・レーザーで丸コゲにされるだろう。
もはや彼の生きてきた古き良き時代は終わったのである。
その後も彼は過去の武勇伝やら若者に対する不満やらを語り続けたが、記者としては次のインタビューが迫っていたので早々に切り上げたいところだった。しかしこういう大御所タイプは機嫌を損ねると後が大変そうなので、記者も我慢して真面目に話を聞くふりをした。この時点で記者の頭の中では次のインタビューの段取りを考えていたし、そのインタビュー記事につける見出しも決めていた。問題は相手にどういう流れで見出しに沿った発言をさせるかだが、記者の想像では『僕はもう子供じゃない』と『子役のイメージを払しょくする難しさ』は比較的簡単に引き出せそうだった。しかし週刊誌を騒がせている『オバケ界の愛憎劇・兄と姉は変わってしまった』や『大人たちにバケラッタを強要された日々』はテーマ的に文言を引き出すのが難しそうだった。
そんな記者の内心など知る由もなく、年齢不詳の未来ネスミは機嫌よさそうに自分の話を続けていたという。《完》




