彰、神様の弟子になる。
ここから物語が動き始めます。お待たせ神様!
「あ、ワシは神。よろしくのう、神堂彰。」
そう唐突に告げる目の前の白いヒゲを蓄えるおじいさんに戸惑いを隠せない。
「は?」
「神に向かって「は?」とはなんじゃ。せっかく地獄に落ちる前にここまで拾い上げてやったと言うのにのう。」
「え、地獄に落ちる前って、俺死んだの?」
「はぁ……そこからかのう……ほれ、これを見てみるがよい。」
そう言って神と名乗る人物は手にしている杖を少し振るう。するとそこに映像が浮かび、工藤に向けて走る彰の様子が上から見下ろされたように映される。
「ほれ、ここじゃ、銃で眉間にジャストミート。即死じゃよお主は。」
「マジ……かよ……これってよくできたCGとかじゃなくて?」
「なんでここでワシがCGを見せる必要があるんじゃ。男らしくさっさと受け入れんかい。」
そう言いながら杖を少し振るうと映像が消える。
「でもよ、さっき地獄に落ちる前って言ったよな?俺ってあんまり悪いことしてきたわけじゃねえんだけど…あ、公務執行妨害的なことはしたか…?」
「お主の住んでいた世界では閻魔大王が罪を精査して行く地獄を決める……なんて話があるみたいじゃがな、地獄は1つしかない。本来はお主の世界でかけられた容疑や裁かれた罪によって天国か地獄かを分けるんじゃよ。例えそれが冤罪でもな。だからお主は大量殺人と公務執行妨害で地獄行きじゃわい。」
「え、ちょ、冤罪でもって、神なら俺が大量殺人犯じゃないってことは分かってるんだろ?公務執行妨害は分かるけどさ……」
あまりに理不尽な言葉に彰は納得できずに神に問いかける。
「うるさいわい!あれだけの人数に増えた人間のことを全て認識して裁くのはめんどくさいんじゃよ!できないとは言わんが、そっちの方が楽だからそうしとるんじゃ!」
「め、めんどくさいって……」
そんな理由で地獄に落とされてはたまったものではない。だが、何の悪びれもなくそう言う神にそれ以上の言葉が出ない。
「それに、大量殺人犯じゃないと分かっておるから地獄に落ちる前に拾ってやったんじゃぞ?そこに感謝はないのか?」
「それはその……ありがとうございます……?」
感謝なのか分からない彰の言葉を聞いて神は満足そうに頷く。
「じゃあさ、神様、俺は天国に行けるのか?」
「ん?公務執行妨害罪で地獄行きじゃよ。……このままなら、な。」
「このままならって、どういうことだ?」
要領を得ない神の言葉に一抹の不安を覚えながら聞く彰。
「まあここからが本題なんじゃがな。お主、孤児院の家族を殺した犯人のことを知りたくはないか?」
「っ!?」
そうだ、あの事件から5年。ひっそりと生きながらも、憎み続けたひょっとこの仮面を着けたあの男のことをこの神ならば知っているはずだ。
「教えてくれ!このまま死ぬなんてできない!」
「ほっほっほっ。教えることは無理じゃ。それは神としてワシが定めたルールを破ることになる。プライバシーというやつは神としても守らねばならんのじゃよ。」
「じゃあなんで知りたくないかなんて言うんだよ!このままじゃ死んでも死にきれねえよ!」
またしても理不尽な物言いに怒りを募らせる。このままだと未練を残して幽霊にでもなりそうだ。
「焦るでない、教えることは無理じゃが、知ることはできる。」
「……?どういう意味なんだ?」
「お主が神を継げば、このワシの全知全能を受け継ぎ、知ることができる。そういうことじゃよ。」
「神を……継ぐ……?全知全能……?」
突飛すぎる神の言葉に頭が追いつかない。
「まあ、すぐに後は任せた、今からお主が神じゃ。などとは言えん。そこでなんじゃが……お主、ワシの弟子にならんか?」
「は……?弟子……?」
「そうじゃ、お主にはワシの弟子として7つの試練を受けてもらう。それを果たしたときにお主は神を継ぎ、全知全能となり犯人のことを知れる。というわけじゃ。失敗したらそのまま地獄行きじゃがのう。知ったあとは煮るなり焼くなり好きにすれば良い。」
自分の常識の外で淡々と語られる事実で頭がこんがらがる。それでも追い続けたあの男のことを知れるチャンスを不意にはできない。
「……7つの試練ってのは、どんな試練なんだ?」
「それは弟子になってからのお楽しみじゃ。で、どうする?弟子になるか?地獄に落ちるか?」
「……なる。弟子にしてくれ。7つの試練がどんだけ辛くてもこのまま地獄に行くよりはマシな気がする。なによりアイツのことが分かるならそれでいい。」
彰がそう言うと、満足そうに頷いた神はその手に持つ杖をまた少し振るう。
「ユーフィリア、では彰を第1の試練に連れて行ってくれるかのう。」
「はい。仰せの通りに。」
知らぬ名前と声に驚いていると、彰の後ろには1人の女性がいた。察するにこの人がユーフィリアなのだろう。
「はじめまして、神堂様。私はユーフィリア・グランツェーレと申します。そこにおわします我が主に仕える天使でございます。」
そう自己紹介をするユーフィリアを改めて見る。全身を包む白いワンピースのような服に身を包む彼女は、透き通るような白い髪に、優しそうに垂れた眼とその顔に浮かぶ微笑みは慈愛を感じさせる雰囲気を持っていた。……そして何より胸がデカい。ゆったりとした服にも関わらず、その胸ははっきりとその存在を主張してくる。
「あ……は、はじめまして……し、神堂彰です……」
ここに来て少しは突飛なことに慣れたとは思っていたが、急に出てきたこととその美しさにしどろもどろになってしまう。
「ほっほっほっ。ワシの天使はべっぴんさんじゃろ?ユーフィリアをお主の監督役、もとい守護天使として付ける。お主の試練に手出しはせんが、それを見守る役としてじゃ。ちと不安なこともあっての……。」
「いや、それはいいんだけどさ、いきなり試練なわけ?その……弟子なんだから修行とかないのか?」
「ワシも忙しいんじゃよ、それに第1の試練は修行的な側面が大きい。後は行ってのお楽しみじゃ。後は頼むぞ、ユーフィリア。」
「はい、かしこまりました。」
彰を置いてきぼりにして進む話に少しムッとするが相手は神と天使、どうすることも出来ない。
「それでは神堂様、少しフワッとしますが、耐えてくださいね。」
「え?」
彰に大した説明もないまま手を握るユーフィリアに少しドキドキしているとユーフィリアは握っていない方の手で宙をなぞる。
そして……白い空間から二人は消えた。
「さて、仕事に戻るかの。」
そう言いながら残された神もその場から消えようとするが何かを思い出したように立ち止まる。
「あ、力を与え忘れた。」
こうして彰の第1の試練は始まったのであった。