鬼ごっこの結末
駅前を歩いている人達に紛れてタクシー乗り場まで歩いていた彰は、ようやくタクシー乗り場の近くまで来れたことに安堵しながら残りの道を歩いていた。
(これならなんとかタクシーに乗れそうだ、ああ心臓に悪い……)
そんなことを考えていた彰だったが、そのとき完全に予期していなかった声がかけられた。
「彰お兄さん!!!」
「ゆ、悠斗くん!?」
なんでここに?と思ったがそれを聞いていられるほどの暇は無い。傍らには悠斗くんのお母さんも立っており大方駅前に用事でもあったのであろう。
「彰……?彰って……」
そこに、悠斗の大音声を聞いていた人物が他にもいた。銭旗に言われコンビニへ煙草を買いに来た工藤である。
(やべっ!?)
彰もそこに見えた工藤の姿に、背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「キミ!ちょっと止ま、止まって!」
そう工藤がテンパりながら叫ぶがそれで止まってはただ捕まるだけである。そう考えて反射的に後ろに駆け出そうとするがそこにはタクシーの列があり通れない。残された道は工藤の横を通って走って逃げることだけであった。
捕まるということが彰の頭をよぎるがあのナヨナヨしたおまわりさんならどうにかなると考え駆け出す。
「そこをどけ!」
彰が叫ぶ!
「ひぃ!と、止まれ!止まらないと……撃つぞ!」
そう言って拳銃を構える工藤。本当はこんな駅前で出していいシロモノではないのだが、目の前にいるのが大量殺人犯という認識が生来臆病である工藤をそうさせた。
(嘘だろ!?銃持ってんのかよ!?)
だが銃を構えている工藤は既にへっぴり腰で震えている。本来警察が銃を撃つためには色々と面倒な手順があったことを思い出し、彰は工藤に体当たりして銃を使えなくしてから逃げようとする。
だがテンパりにテンパっている工藤にはそんなことを考えている余裕は無かった。何故か分からないが大量殺人犯とされている男が銃を向けられているにも関わらずこちらに向かって走ってくる。それだけで工藤の恐怖心を煽るには充分すぎたのだ。
「うわぁぁあああああああ!!!」
工藤がそう叫ぶのを聞いて彰は目の前の相手が正常ではないことが分かるのと同時に、このまま撃たれてしまうことを悟る。
(なら、射線から逃れれば……!)
そう思った瞬間、後ろにいるであろう人のことが頭をよぎる。そう、悠斗くんとその母親である。ここで射線から逃れれば後ろの悠斗くん達に当たるかもしれない。そんなことを考えてしまった彰は射線から逃れるタイミングを失う。
「バァン!!!」
そんな音が聞こえたと思ったと同時に、彰の意識は闇へと消えた。
「ん、んん……?ここは……?」
目が覚めた彰は自分の現状に戸惑う。何故なら今自分がいるのはどこまで続いているのか分からない白い空間と、何故かそこにある自分が横たわっている四畳半くらいの畳。その畳の上にはちゃぶ台と今は見ないブラウン管のテレビが置いてあった。
「運が悪いのう、お主。狙ってもない拳銃の弾が眉間にジャストミートじゃ。」
そこには、白い全身を覆うようなローブを着て、杖を持った白いサラサラとしたヒゲが長々と生えている爺さんが立っていた。
「あ、ワシは神。よろしくのう、神堂彰。」
その爺さんは、「神」だった。