逃亡劇
も、もうすぐ神様出てくるから!ホントだから!
「よし、こんなもんか。」
逃げるために荷物を取りにアパートの中に入った彰だったが、その準備は早かった。
お金を無駄にすることができず、あまり物を持っていなかったこともあり、こんなこともあろうかと用意していた預金通帳や諸々が入ったリュックサック1つを抱えて外に出た。
銭旗がいつ起きるかも分からないため、時間を無駄にはできないのだ。
「あとは薫さんへの挨拶だけだけど……さすがに悠長にしてる場合じゃないな……ほとぼりが冷めた時にでもまた来よう……」
薫さんと彰が呼ぶのは、彰の身の上を知った上で一人暮らしをさせてくれた恩人であり、色々と凄い人なのであるがその話は別の機会があればするとしよう。
「あのじいさんがいつ起きるのかも分からない。とりあえずタクシーでも捕まえてここから離れよう。まだ検問とかまでされてないといいんだが……」
そう言って彰が来たのは駅の近くであった。だだっ広い田舎ではあったが、駅の周りだけは唯一栄えている。栄えているとはいえ大したものではないのだが。
(この辺りならタクシーもいるだろ。えっと、タクシーは……っと。)
そうキョロキョロしているとまたしても信じたくない光景が目に入る。
それはゾロゾロと警官たちを引き連れて歩く銭旗であった。その中には交番で見かけた、なよなよした新人おまわりさんの工藤もいる。
(しつこすぎだろあのじいさん。どこのとっつぁんだよ……俺は怪盗の3世じゃねえぞ……)
彰には当然分からない話ではあるが、銭旗は元々刑事であり、その類まれなるカンと頭の回転、さらにはしつこさで数々の事件を解決してきている。兄貴肌な部分もあり、後輩達から尊敬の念を向けられているような存在ではあるのだが、いつまでもロートルが上にいては下が育たないと言い、今はしがない交番のおまわりさんに収まっているのだ。
(気付かれないようにタクシーに乗るしかないな、幸いタクシー乗り場は見つけたし、人は並んでない。あそこまで行ければ……)
彰はそんなことを考えながら駅前を歩く人達に紛れながらタクシー乗り場へと歩く。
視点が代わり、彰がタクシー乗り場へと歩く少し前、なよなよした新人おまわりさんの工藤は、見たこともないほど殺気立った銭旗にビクビクしながら後ろを歩いていた。
「ぜ、銭旗さん、拳銃まで持ち出して、今探してる神堂彰っていうのはそんなにヤバいんですか?」
「あぁ?お前も警察の端くれなら指名手配犯のことくらい知っとけよ。事件当時13歳だって話だから世には公表されてねえけどな、警察の間に手配書は回ってんだ。大量殺人犯だよ、大量殺人犯。」
大量殺人犯という言葉を聞き、工藤の顔がサッと青くなる。
「そ、そそそんなやつがこの田舎に?」
「ああ、田舎だからだろうな。おいそれとは見つからないようにだろ。ってかお前も気合い入れろ!いつまでもナヨナヨしてんじゃねえぞ!俺を締め落とした相手だ、そんなへっぴり腰じゃ何があってもおかしくねえんだ!」
「ひっ!は、はいぃ……」
「あぁ、思い出したらイライラしてきやがった……クソ、煙草も切れてやがる……
おい、工藤!煙草買ってこい、いつものやつだ!」
路上喫煙は……と言おうとした工藤だったが、口答えしてこのイライラが自分に向かっては堪らないと考えて近くのコンビニへ向かうのだった。
そう、タクシー乗り場の向かいにあるコンビニへ。