鬼ごっこの始まり
まだ神様が出てきません。
次の次……くらいかな……
…やっぱり、確実なのは交番だよな……
でも警察周りに近付くのは遠慮したいところなんだが……
そう心の中でぼやきながら悠斗くんと一緒に悠斗のお母さんを探しながら歩く。
「ねえ、彰お兄さん、どこから探しに行くの?」
悠斗くんはやっぱりお母さんとはぐれて寂しいようで不安そうに聞いてくる
「とりあえず交番に行って、お母さんがいないか見てこよう。」
四の五の言ってる場合じゃない、自分のことは二の次だ。早くお母さんに会わせてあげよう。
交番に着いて事情を説明すると、やはり悠斗のお母さんから連絡が行っていたようで交番で待つことになった。
「若いのに迷子の案内して、大したもんだ。キミ、名前は?」
おまわりさんがそう聞いてくる。目尻や色々なとこにシワが見える、大ベテランといった風格だ。
「えっと、あー、神堂です。」
ぼーっとおまわりさんの風貌を観察していたためとっさに本名を名乗ってしまった。マズい。
冷や汗が背中を伝う。
「神堂くん……ね。おい!工藤!お前も見習えよ!」
そう言って奥の方にいるおまわりさんに怒鳴る。
「え!?えー!そこで僕に振るんですか銭旗さん……勘弁してくださいよう……」
そう言って項垂れた工藤と呼ばれたのは奥の方で書類を整理していた若いおまわりさん。こちらは新人といった雰囲気。なんだかなよなよしていて頼りなさそうである。
なにはともあれ俺の素性には勘づいていなさそうだ。よかった。
まあ、迷子を案内してきた若者と大量殺人犯とされている指名手配犯を関連付ける方が難しいだろう。
「ママ!」
そうこうしてるうちに悠斗くんのお母さんがやってきた。
「ああ!悠斗良かった!お母さん心配したのよ?」
「ママが迷子になっちゃったからこのお兄さんと一緒に探してたんだ!」
「ママが迷子って……ふふ、ごめんね悠斗、今度からは悠斗がお母さんが迷子にならないように見ててね?」
家族の愛が溢れるワンシーンである。
おまわりさん達も俺もほんわかした目でそれを見つめている。
「あの、悠斗をここまで連れてきていただいて本当にありがとうございました。」
「いえいえ、ここまで来る時も泣いたりせず強い子でしたよ悠斗くんは。1人でもここまで来れたかもしれません」
そう言って悠斗くんのお母さんとも笑い合う。
よかった。これで一件落着。帰ってネギの入った味噌汁を飲もう。
「ありがとう!彰お兄さん!」
悠斗くんがそう言ったとき、大ベテランのおまわりさん、銭旗の顔が曇った。
「彰……?神堂……神堂彰……?」
銭旗がそう呟く。
ヤバい、気づかれたかもしれない、ここから早く立ち去らなければ。
「えっと、じゃあ俺はこれで!じゃあね悠斗くん!」
そう言って立ち去ろうとした
「神堂くん、ちょっといいかな?」
銭旗に呼び止められた、マズい。気付いている。
「いや、急いでるんで!」
そう言って俺は走り出した。
もうめちゃくちゃである。急いでいる人は迷子の案内などしない。だが、ここで身元の確認などされたらお終いだ。
「あ、おい待て!!!工藤!県警に電話しろ!指名手配犯の神堂彰かもしれない男を発見したとな!」
「ぜ、銭旗さん、指名手配犯って、えええ!?」
「いいから早くしろこのタコ!!俺はヤツを追う!お前は県警の指示に従って動け!いいな!!」
「は、はい!!」
こうして彰と警察の鬼ごっこが始まった。