ネギと迷子
あの大量殺人事件から5年。
彰はとある田舎で暮らしていた。
当時13歳であったことから、世間には公表されなかったが、何度か警察に追われ指名手配されていることを知った彰は、名前を大きく使う場所は避けて日陰を歩く人生を送っていた。
18歳にして、学校には行けず、義盛の残した貯金を少しずつ崩しながらの生活。幸い、義盛はかなりの金額を残してくれていたため、ここまで生きていくことができた。
「はー、まさかネギだけ無いとは」
彰は、夕飯を作る間際、大好物のネギの入った味噌汁が作れないことが判明し、ネギだけの買出しに出てきていた。
「お姉さん、ネギ1本ちょうだい!」
「あらあら、心にもないこと言ってもネギがちょっと安くなるだけだよ!」
いつもの八百屋のおばさんとのやり取り。これだけで少し安くなるのだから楽なもんである。
「それにしてもネギだけって……ちゃんと食べてるの?」
「ああ、味噌汁の具にどうしてもネギを入れたかっただけだから、ちゃんと食べてるよ、さんきゅーな!」
そう言って帰路に着く。
「ふう、これでようやく夕飯の支度ができるぜ。」
「うわああああん!!ママああああああ!!」
一難去ってまた一難。迷子のようだ。
小さい子を見るとどうしても育った孤児院、ひまわりの家族の小さい子達を思い出してしまう。
「どうした?お母さんとはぐれちゃったか?」
彰はしゃがんで目線を合わせて、自覚のある威圧感のある自分の顔を少しでも柔らかくしようとその少年に微笑んだ。
「えぐっ、えぐっ。うん、ママどこかに行っちゃった。」
「そっかそっか。じゃあ兄ちゃんも手伝ってやるから、一緒に迷子になったお母さん探そうか!」
少年は少しポカンとしたあと、少し楽しそうに笑った。
「うん、迷子になったママ探す!まったく!しょうがないんだからママは!」
そう言った少年とクスクス笑い合う。
このくらいの歳の子の対応は孤児院生活で慣れきっている。
そう考えたときに少し寂しくなるが今はこの子にそれを気取られる訳にはいかない。
「よし、じゃあとりあえず自己紹介だ!俺は彰!キミは?」
「僕は悠斗!よろしく彰お兄さん!」
そうして俺たちは悠斗くんのお母さんを探して歩き出した。