プロローグ
初投稿です。よろしくどうぞ。
「ニンジンとタマネギとジャガイモと……ルーとお肉は買い置きがあったはずだから、これで大丈夫だろ!はは、あいつらカレー大好きだからな、喜ぶぞー!」
夕飯の買い出しからの帰り道、神堂彰は一緒に育ってきた孤児院であるひまわりの仲間たちの笑顔を思い浮かべながら1人歩いていた。
「ん?なんかひまわりが静かだな。いつもならチビ達が騒いでる音が外まで聞こえてくるのに。」
この孤児院にはやんちゃ盛りのチビ達が10人もいて、いつもなら近所からのクレームが来てもおかしくないくらいの騒音が聞こえてくるはずなのだ。それもお腹が空く夕飯前だというのだから尚更である。
「あー、また騒ぎすぎてじじいに怒られてんな。早く行って止めてやんなきゃ。夕飯まで引きずって空気悪くなんだよなアレ。」
彰がじじいと呼ぶ人物、神堂義盛。
義盛はこのひまわりで子供たちを保護してくれている人物なのだが気が短い。
チビ達が騒ぎすぎて義盛がキレるいつものパターン。
そう自分の中で予想を付けた彰は玄関のドアを開けた。
「ただいまー、静かだけどどしたー?」
こう問いかければチビ達はいつも味方を得たりと自分の元に走ってくる。いつものパターン……のはずだった。
「あれ、返事もねえ……なんだ?今日はかくれんぼかなんかなのか?」
そう言って奥に進んでいく。
そうして居間へ続くドアを開けた。
「なんだよ……これ……」
そこに広がっていたのはひまわりに住む子供たちが血を流し、堆く積みあげられている光景。
「おい!千尋!雄太!楓!しっかりしろ!」
一縷の望みをかけて1人1人に声をかけていくが……返事はない。
「嘘……だろ……?なんでこんなことになってんだよ……」
「んー?まだ生きてるのがいたんだ。」
知らない声が聞こえた。男の声。二階へ続く階段から1人の男が降りてきて、彰の目の前に持っていた何かを投げる。
「じ、じじい……?」
「あー、そのジジイなら死んでるよ。なんかガキ共を守ろうとしてたから、動けなくした後に引きずって1人1人ガキ共を殺すのを見せてから最後に殺したワケ!最っ高に楽しかったよ。」
黒いローブのような物とを身に纏い、ひょっとこの仮面を付けたその男は笑いながらそう言った。
「おい!じじい!嘘だろ!?なあ、起きろ
よ!!」
必死に義盛を揺さぶり起こそうとする。
「だーから死んでるって言ってんじゃん。ほら、心臓にナイフ刺さってるでしょ?」
そう言われて初めて気付く。その左胸には深々とナイフが刺さっており、恐らくは弄んだのであろう身体の端々には切り刻まれた傷があった。
「んで、次は君の番ってワケ。大人しく殺されてくれないかな。今なら出血大サービスで全身の血を抜いて殺してやるからさ。これがホントの出血大サービスってね!いひひひひっ!」
「お、お前は一体誰なんだよ!何が目的でこんなことをする!!」
こんなことを聞いたところで意味が無いことは分かっている。俺もすぐにコイツに殺されてしまうのだから。だが、それでも自分の家族が殺された意味だけはどうしても聞いておかなければいけない気がした。
「んー?黙ってろよガキ。すぐ死ぬんだからそんなこと関係ねえだろ。」
反抗的な態度に気を悪くしたのか、目の前の男は懐からナイフを取り出し、こちらに突きつけながらそう言った。
自分の死。それを眼前に突きつけられて動けない。体が震える。あまりの恐怖に粗相までしてしまった。
「うっわ汚ねー、漏らしちゃったよこいつ。ま、その恐怖に染まったその顔は嫌いじゃないけどね。」
男は鼻をつまみながら一歩下がり、それと同時にナイフが少し離れる。そのとき、義盛に刺さったナイフが目に入る。
分の悪い賭けだが、これで男を殺せれば助かるかもしれない。殺されたアイツらの仇を取れる。
そう思った彰は義盛に刺さったナイフを抜き、男に向かってナイフを突き出しながら走る。
「おっと危ない。」
男がひらりと躱す。
走ったのを躱されたせいでそのままの勢いで転ぶ。痛がっている場合じゃない。背を向けていたら殺される。
すぐさま立ち上がり男の方を向く。
「ふーっ!ふーっ!」
「いいねぇ、その表情。気が変わった。というわけでここで残念なお知らせだ。キミの握ったそのナイフはここのガキ共とジジイを殺したナイフ。それにキミの指紋がべっとりついた。意味は分かるかい?」
「……?」
頭が回らない。コイツは何を言っている?俺を殺すんじゃないのか?
「僕はホラ、手袋をしているんだよ。この黒い革の手袋。かっこいいだろ?ってそんなことはどうでもよくてね?僕はここに一切の証拠を残していない。僕はここで君を殺さず帰ろうと思う。そうしたらどうなるか分かるかい?」
言われて気付く。コイツがホントに証拠を残していなかった場合、犯人になるのは……俺だ。
「その顔、気付いたみたいだねえ。もうすぐここに警察がやってくる。指紋を拭き取ったりしてる時間は無いと思うなー。じゃ、ばいばーい。」
男は突如現れた暗闇の中へと消えていった。
理解が追いつかない。夢でも見ているのだろうか。
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえて我に帰る。
ここから早く逃げないと。そう思いそのまま玄関へと向かい駆け出す。
玄関へと辿り着いた時にふと思い出す。生前義盛が自分に何かあった時のために、と1番年長だった俺に教えてくれた預金通帳が下駄箱の裏に置いてあったことを。
「じじい、こんなことのためのお金じゃないって分かってるけど!ごめん貰ってく!」
そう1人で懺悔をしながら預金通帳を取り出しナイフと一緒にポケットにねじ込む。
「とりあえず、ここから離れよう。落ち着いて考えられる場所が必要だ。」
そう言って彰は駆け出した。
そして、彰はその数ヶ月後、大量殺人犯として、指名手配犯になった。