表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

第四話 天使様と悪魔様がお食事会を始めたようです。

 ――――薄暗がりの路地裏。

 わたしたちの前に立ちはだかるは、一人の少女。

 わたしたち二人は同じ容姿。そして対する相手も同じ容姿。

 なんだか一人っ子からいきなり三姉妹に昇格したみたいな、変な気分に襲われる。

「おい、悪魔っ子」

 相手に向けて指さすヘブンちゃん。

「ここで何してるのだ。返答次第では、目の前で愛香まなかちゃんとイチャコラしてやる!」

「なんでそーなるの」

「誰だって愛香ちゃんとイチャラブしたいものよ! 目の前でイチャイチャされたら、お預けを食らった相手は相当なダメージを受けるのよ」

 どーだ参ったか、というドヤ顔で言ってくる。

「相手がヘブンちゃんだったら有効だったかもねえ」

 わたしはどんだけ愛されているのだろうか。

「……まな……か……?」

 黒い衣装をまとった、わたしのそっくりさんが、小さく震える声を漏らす。

「えっ? はいはい、わたしが愛香です。あなたは、わたしの悪魔さんなのですか?」

 わたしの問いには答えず、悪魔(仮)さんは、震える両腕を前に突き出し、力なくゆっくりとわたしの方に歩み出してきた。

「……まなか……愛香、ちゃん……お願い……」

「え、えっと、大丈夫?」

 見るからに弱っている姿を見て、支えてやろうかと手を差し伸べる。

 その手が悪魔さんの手に触れそうになった瞬間、一気にわたし目掛けて倒れ込んできた。

「わわっ!」

 わたしも一緒に倒れそうになるのを、なんとか足を踏ん張って耐える。

「だっ、だいじょぶ!?」

「わあぁぁぁぁぁ!? わたしも愛香に抱き付いてスリスリしたいぃぃぃぃっ!」

「スリスリしなくていいって」

 騒ぐ天使に突っ込みを入れておく。

「……おねが、い……」

 耳にささやき声が入り込む。

「ど、どんな、お願い?」

 具合悪そうだな。

 そう思った矢先、突然、

 はむっ。

 悪魔さんがわたしの首筋にしゃぶりついてきた。

「愛香がああぁぁぁぁぁっ! わたしの愛香がああぁぁぁぁぁっ!」

「ちょっ! 突然何をっくすぐった、……いや、いたいたいたいいいぃぃぃぃっ!」

 しゃぶりつくどころか噛みついてきた。

 目を閉じて至福の笑顔でちゅーちゅーしてる悪魔さん。絶叫して天を仰ぐ天使ちゃん。何とか振りほどこうともがくが、相手の力が強過ぎて脱出できないわたし。

 まさに阿鼻叫喚の図である。

 だんだんと痛みは収まっていくが、それと同時に脱力感が襲ってきた。このままだとまずいかも。

 必死になってみるが、やっぱりビクともしない。

「やめ、離して……」

「バカ悪魔! 死ねーっ!」

 ヘブンちゃんの全力アッパーがこめかみに決まった悪魔さんは、そのまま吹っ飛び、ビルの壁にめりこんだ。

 あ、動かなくなった。


「いらっしゃいませー」

 明るい店内に、店員さんの明るい声が響く。

「えーっと、三名様、でよろしいでしょうか? えっと、そちらの子は大丈夫?」

「いえいえいえいえ、ほっとけば復活しますから、お構いなく」

 愛想笑いなどを向けながら、後ろの二人、悪魔さんを背負ったヘブンちゃんを引き連れ、案内された席へと向かう。

 わたしはそそくさと席に着き、

 どさっ!

 無造作に向かいの席に悪魔さんを放り出し、そのままわたしの横に座るヘブンちゃん。

「悪魔さん、大丈夫かな?」

「ただ壁に頭がめり込んだだけです。大丈夫でしょう」

 すまし顔で言ってくる。

「普通の人間なら、コンクリの壁にめり込むほどの衝撃を頭に受けたら、死んじゃうと思うんだけど」

 頭から血とか流れてないから、本当に問題無いのかもしれないが。

「それより、愛香は大丈夫? 首の傷とか」

 心配そうに、わたしの首。絆創膏を貼ったあたりを、不安げに見た。

 あの時感じた痛みと脱力感、あれは首筋を牙で噛まれ、血を吸われたもののようだった。悪魔というより吸血鬼みたいな子である。

「あまり痛みもないし、もう脱力感も無いから大丈夫よ」

「あああっ、愛香ちゃん! あとでわたしがペロペロしてあげるね」

「ペロペロは遠慮しときます」

 えーっと不満そうに眉を寄せるヘブンちゃん。そういう表情されると、可愛いなと思っちゃうが、自分と同じ顔の子が可愛いとか、自己愛過ぎるだろうか。なんか変な気分である。

「……さっきは、あまり吸えてなかったから……」

 向かいの席から、か細い震え声が語りかけてきた。

 ゆっくりと、上体を起こしてくる。

「貧血のような症状は、出ていないはずよ」

 明るいところで改めて顔を見ると、容姿はわたしとそっくりだが、顔色が悪い。少し息も荒い。言ってる本人が貧血みたいな症状である。

 なお、息が荒いと言っても、わたしに抱き付いてハァーハァーしているヘブンちゃんのそれとは、意味が違うだろう。

「えっと、悪魔さんっで、いいのかな?」

「わたしは、あなた――――愛香の心の中の悪魔、メルヴィズ。ヴィズって呼んでくれて構わないわ」

 ヴィズと名乗った悪魔さんは、こちらをボーッと見つめている。

「こんにちは、ヴィズちゃん」

 右手を差し出すと、上目遣いにこちらを伺いながら、ゆっくりと握ってくれた。

 それを見たヘブンちゃんが、笑顔で両手を差し出してくる。

 わたしはその左手を、ヴィズは右手を、三人で握手を交わす。

 なんという友情の誕生であろうか。

「さっきは、ごめんね愛香。緊急事態だったの」

 しょぼくれた表情をするヴィズ。なんだかんだあったけど、根は良い人そうだ。良い人な悪魔。

「うん、まーいいよ。それで、緊急事態ってどうしたの?」

 そういえば、あの不良さんたちのこととか探れずに、うやむやになっちゃったな。

「……血が、足りなくなったの」

「血?」

 血が足りないって、どーいうことだろ?

「おそらくですね、」

 体を乗り出してくるヘブンちゃん。

「わたしの、ボンバー・ドンみたいな、何か特殊性癖が関係しているのかと」

「それは性癖なのか」

 たまにヘブンちゃんは思考がふっ飛ぶ。

「まーそんな感じ」

 ヴィズちゃんが、うなずいているのを見て、なんかこの人も変な性格なのかなと、ちょっと警戒してしまう。

「わたしは、血を操る能力を持っている」

「えっ!? 血って、そんなグロな」

 聞いただけで、結構エグそうだ。

「わたしが路地裏を徘徊してたら、声を掛けてきた連中がいてな、慣れなれしい態度で近付いてきてな。その態度が気に入らず、思わず、」

 口の端をつり上げる。

「自分の血液をハンマーに変えて、片っ端からぶん殴りまくったのだ。そしたらそいつら、土下座して謝り出してな」

 あれ、それってもしかして、

「血が足りなくなった、何か食わせろと言ったら、こんなに差し出してきた」

 ニコニコと笑顔で語りながら、大量の財布をテーブルに山積みした。

「いやー、大量大量」

「不良さんたち、南無~」

「……それ、カツアゲ……」

 ここらで顔を売ってる不良たちをしばき倒して、お金巻き上げたんだ。

 相当ボコボコにしたのだろう。あの時の男たちの逃げっぷりを思い出し、自然と、乾いた笑みがこぼれる。

「そこまではいいのだが」

「いいのかな?」

「思った以上に血を使ってしまったようで、貧血でフラフラになったところに、偶然、愛香たちが来たという訳なのだ」

「だからって、問答無用で噛みつかなくても」

「ちなみにわたしの好物は、かわいい女子中高生の血だ」

 あ、ヘブンちゃんと同じタイプの人なのか。

 ヘブンちゃんを見ると、まさにそうだと言わんばかりの、同士を見る目でうなずいている。

 ピンポーン。

 変なタイミングで、ヘブンちゃんが店員さんを呼ぶボタンを押した。

「はーい、ご注文はお決まりですか?」

「へ、えっと~」

 慌てて、メニューを見る。

「レバニラ炒め三人前」

 まず初めに注文したのは、ヴィズ。

「え?わたし、それ食べないよ」

「わたしが食べる。血の補充だ」

 そ、そんなものでも補充出来るのか~。うーん、確かに、レバーって血になるからね。

「えっと、ヘブンちゃんはどーするの?」

「愛香と同じもの~」

 決めてないのにボタン押したのかこの子。

「う~んっと、……シーフドドリアで」

「それを二つ!」

 わたしが言った瞬間、ヘブンちゃんが手を上げ叫ぶ。

 注文を聞き終えた店員さんが去ったあと、ヴィズに一つ聞いてみる。

「それで、ヴィズはこれからどうするの?」

 泊まるとことかどうするのか?

「自由にしているのが好きなのでね、適当にやっていくわ。お金もたくさんあるし」

 カツアゲで生活していく気なのか。

「あんまり人様に迷惑をかけるのは良くないかと」

「大丈夫だ、相手はちゃんと選ぶ、問題無い」

 問題しかない発言を、真顔で答えるヴィズを見て思う。

 ヴィズがしばき回れば、不良たちは同じ容姿のわたしたちのことも恐れていくのだろう。

「わたしもヘブンちゃんも、この街のボスか~」

 これは嬉しいのやら困るのやら。

このとき、まだ愛香は想像もしていなかっただろう。

不可思議な存在は、この天使と悪魔だけでなく、この街にまだまだ存在している、ということを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ