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第三話 天使様は街のボスとして君臨するようです。

 おやつを食べて少し経ち、日が傾き、大地の影がすこしだけ背伸びする。

 真昼間よりは気温も下がり、過ごしやすくないともいえない午後のひと時。つまりはアフタヌーン。

 行き交う人々の視線が、ちょっと恥ずかしい。

「ねぇ、ヘブンちゃーん。おもーい、歩きにくーい」

「女の子に重いとか言っちゃ、ダメなんだぞ」

 背後から、わたしの首にしがみついて離さない天使様が、幸せそうなニヤケ顔で抗議の声をあげてくる。

 おんなじ身長のため、少し後ろに引っ張られる様な感じになってしまう。後ろに倒れやしないかと少々不安になるが、もーこのまま倒れちゃおうかな。

「大丈夫よ、愛香まなか。わたしがあなたの全てを受け止めてあげるから」

「心を読むな~」

 察してくれるなら、開放してくれてもいいものだが。

「愛香」

「うん?」

 唐突に、真剣な顔をこちらに向けてきた。

「わたしね、大き過ぎない、ほどよい大きさって好きだよ」

「何をいきなり言ってるの」

 じーっと、わたしの前の方を覗き見て、

「おっぱいの話を」

「なんで!?」

「揉んでいい?」

「街中でしちゃだめ」

 この子は思考がどこに飛んで行ったのか。

「ざんねん~」

「ざんねん~、じゃなーい」

 いーかげん、体勢が辛くなってきたので、ヘブンちゃんの腕からすり抜ける。

「手を握ってあげるから、それで我慢なさい」

「わーい!」

 左手を差し出したら、なぜか両手で包み込んできた。

「歩きにくくない?」

「いやもう、頬擦りしながら歩きたいくらいなのですが、その衝動をぐっとこらえて健全な道をひたむきに進んでいきたい所存です~」

 まあ、本人がいいならいいか。

 休日の午後、お店の多く立ち並ぶこの付近は、様々な人が思い思いに過ごしていた。

 携帯で話し込むおじさんや、子供の手を引くお母さん。わたしくらいの年代のグループもちらほら。

 わたしとヘブンちゃんは、周りからはどう見られてるんだろう?同じ顔、同じ背格好だから、姉妹とかに見られてるかな?

 一人っ子なので、ちょっとそういうのもいいのかなって思えてしまう。

 両手で握ったわたしの手を、よだれを垂らして見つめてる子が、妹と見えるかどうかは微妙な気もしなくもないが。

 ――――っと、様々な、しかし全体的にゆったりとした人の流れの中、走る人影が視界に飛び込んできた。

 あれは、

「あやーっ、見るからに不良さんたちですね~。大丈夫よ愛香。絡んで来たらわたしが全員、空高くまでふっ飛ばして、人が生身で到達できる高度限界記録を更新してやるわ」

「そんな力でふっ飛ばしたら死んじゃうでしょ」

 いかつい顔のお兄さんたちは、しきりに後ろを気にしながら、こちらへと走ってくる。何かから逃げているような、そんな必死さがあった。

 その先頭の人と目が合う。

「……ど、ども」

「よっ」

 わたしとヘブンちゃんが、なんとなく声をかけてみる。

 かけられた不良さんたちは、しかし、

「えっ? なっ!? ぎゃおぅえああああああっ!!!!」

 悲鳴の大絶叫。

 へっ?

「たたたたったすけてくれええええ! なんでもしますうううぅぅぅ」

 五、六人の男たちが、突然その場で土下座して泣き叫びだした。

 えーっと、なんなのだ? この状況は。

 わたしが突然の状況に戸惑っていると、ヘブンちゃんが笑みをこぼす。

「ふふふふっ、やはりどうやっても、わたしのこのあふれ出るカリスマ空気は、隠しきれなかったようね」

 何かを悟り、一人うなずく天使様。

 不良な人たちをズビシッ! っと指さし、

「ハッハ~ン、なんでもすると言ったわね! ならばわたしが今日からあなたたちのボスよ! さあ、崇め奉りなさい!」

「ハハ~っ」

 ひれ伏す男たち。

「なにこれ」

 男たちとヘブンちゃんを交互に指さす。

「分からないかしら? 愛香」

 自信たっぷりに髪をかき上げポーズを決める。

「そう! 彼らはわたしのカリスマ的何かに引き付けられてきたに違いない! ゆえに、わたしがボスなのだー!」

 またも思考がぶっ飛んでいるヘブンちゃん。

「……ボ、ボス」

 リーダーと思しき人が、か細い声でこちらに涙目を向けてくる。

 すっごい怖がられてるぞ、わたしたち。

「もう、手持ちの金がねえんですわ。明日、必ず上納金を持ってくるんで……」

 これ以上は勘弁してくれと、土下座しまくる。

「ヘブンちゃん、人のお金巻き上げたりしたの?」

 半眼で見つめる。

「いやいやいやいやいや、これは何かの間違え、わたしとってもいい子ですね!」

 首が取れんばかりに振り回して訂正してきた。

「すまねえ、すまねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 突然立ち上がった男たちは、そのまま泣きながら逃げて行ってしまった。

 唐突に訪れる静寂。

「な、なんなんだ~」

 周りから聞こえるひそひそ声と、突き刺さるような視線と警戒心が、めちゃくちゃ痛い。

 そんな周囲の雰囲気などまるで気にも留めていないようなヘブンちゃんが、ささやいてきた。

「愛香、一つ言えるわ」

「なに?」

「わたしたちはおそらく、この街のボスになれたようね」

 わたしも含まれるのか。

 脱力感が襲う。

 確かにあの人たち、ヘブンちゃんというよりわたしたち二人に向けて土下座してたみたいだったけど。

「街に買い物に来たら、ボスになっちゃいました、イエーイ!ってことなのか」

「うむ、そうゆうことだ」

 何その謎展開。

 わたしはしばし考え、

「えっと、けどヘブンちゃん。やっぱりあれおかしかったよね」

「そうね、原因究明といきましょう、愛香」

「あれ?」

 なんかあっさり話が進んだ。

「やっぱりおかしいと思ったんだ」

 ヘブンちゃんが不敵な笑みをこぼす。

「やつらは上納金を持っていなかった! つまり、わたしたちの前に誰かと会っていた!」

 人差し指を天に挙げ、自分の推理? を披露しだした。

「推理なのかなそれ? うーん、誰と会ってたのかな?」

「それを確かめる方法は簡単!」

 ヘブンちゃんは通りの向こう、路地裏を見つめる。

「やつらが来た方向に行ってみる!」

「危険じゃない?」

 あんな怖いお兄さんたちが泣いて逃げてきたのだ。何があるか気にはなるが怖くはある。

「なあに? わたしの力を信用してないの? いいでしょう! 見せてあげようわたしの力! 愛香! 改めてわたしに惚れちゃってね!」

 言って、近くにある車をぶん殴る!? ちょっ!

 車のボンネットが、発泡スチロールで出来ているかの如く、簡単に押しつぶされ、そのまま、

「せいやあああああっ!」

 盛大に打ち上げられて、新しい衛星となるべく旅立って行ったのだった。

「あ、あ……」

「どう、愛香! わたしってば最強でしょ!」

 Vサインをして、清々しい笑顔を向けてくる。

「ああぁ……」

「愛香?」

 ちょっと不安そうに表情を歪めるヘブンちゃん。

「ああああぁぁぁぁぁっ!? どーするのよあれ! 車の持ち主さんに、どー謝ればいいの!?」

「えええとおお、あれだ! あれしかない!」

 二人してうなづき合う。

『逃げる!』

 ダッシュで路地裏へと走り抜けていく。

 どうか、顔見知りがこの現場を見ていませんように!

 怖いだ何だと言っていたが、結局、路地裏へと向かうことになってしまった。


 多少日が落ちてきているとはいえ、夕暮れには早い時刻。

 なのに、そこは薄暗闇に包まれていた。

 外の喧騒、というか今まで異常に騒がしかった分、ここの静寂が際立って感じられた。

 前に出した足が当たったか、空き缶の音が響き渡る。

 その音を聞いてハッとなり、思わずヘブンちゃんの腕にしがみ付いてしまう。さっきとは逆の立場である。

「結構、入り組んでるねここ」

「待って下さい。クンクン」

 匂いをたどっているのか。犬チックだな。

 そいえば、学校の友達に犬っぽいって言われたことがあったな。ヘブンちゃんはわたしと同じ容姿だから、同じく犬属性な感じなのかな?

「匂いますね」

 そこは、いくつかの曲がり角を曲がった先。

「あの、男の人たちの匂い?」

「いえ」

 ゆっくりとぎこちなく、こちらに首を向けるヘブンちゃん。

「これは、血の匂いです」

「血!?」

 きもい!

「な、なにそれ。大丈夫」

 わたしのささやき声に、小さくうなずき、

「はい、この血の匂いはおそらく」

 顔を上げる。

 その先には一つの人影。

「まさか、こんなに早く出会えるとは思いませんでしたよ」

 その人影は、見覚えのある容姿をしていた。すなわち、わたしそっくり。

「愛香の心の悪魔さん!」

シリアスっぽいようで、次回もあまりシリアスにはなりません。このシリーズにシリアス展開が訪れる日は来るのだろうか。

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