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第十五話 天使様がJKにキスをせがんだようです。

愛香まなか~、血を~、もっと血をちょうだいー」

 一時戦線離脱してきたヴィズちゃんが、ふらついた足取りで私の元へとやってくる。

「さっきあげたじゃない」

「ヘブンに邪魔されて、十ミリリットルくらいしか飲めなかったわよ」

 それでは少ないのか。

 仕方ないからサービスしてあげようか、めぐりちゃんの作戦決行のためにも。

「うーん、しょうがない。はい」

 制服のワイシャツをずらし、ヴィズちゃんの方へ露出した肌を向ける。

「あああ、ありがとおお愛香~」

 わたしを両手足でしっかりとつかみ、首筋にかぶりつく。

 うーん、鼻息がうなじにかかって、ちょっとこそばゆい。

「そういえば、人ってどんだけ吸われても平気なんだろう?」

 献血とかは、二百ミリリットルだったと聞いたけことあるけど。

「たしか、二リットルまで平気だったと思う」

「きもっ! 牛乳パック二つ分の血を取られるとか、考えただけで嫌過ぎる」

 そんなことを言いながらも吸い続けるヴィズちゃん。

 抱き付かれてるので、体勢的になんとなく、わたしもヴィズちゃんの背を両手で抱く。

「お二人とも、ご休憩なんでしょうかー」

 ヘブンちゃんが半眼で、うらやましそうに見つめてきた。

「法界さんは大丈夫?」

「たまに来る遠距離攻撃だけ気を付ければ、いいかなーとか」

 いい加減な返答が返ってくる。

「ヴィズいいなー、わたしも補給するー」

 何を補給するのかと思ったら、わたしの後ろに回って抱き付いてきた。

 さらにヴィズちゃんに吸われてるのとは反対側の首筋を舐めてくる。

「ヘブンちゃんっ! ちょぁっ……やめっ……くぅ、くすぐったああぁぁっ……いぃぃ」

 くすぐったさに身をよじろうとするが、二人に固定されて動けない。

「えっと、てんちゃん。わたしも加わった方がいいのかな?」

「廻ちゃんは加わらなくていいから」

 断りを入れたのに、仲間外れ感が嫌だったのか、わたしの横から三人をまとめて抱きかかえにきた。

「天ちゃん補給できた?」

「うーーん、天使分と悪魔分と廻分が取れた気がする~」

 少なくとも、ちょっと気分が落ち着いてきた感じだ。

「ヘブンちゃん、ヴィズちゃん、さっきね、廻ちゃんから策を聞いたのよ」

「ふぉっ、ふぉんふぁ?」

「口を離してからしゃべりなさい、ヘブンちゃん」

「……んっぷふぁぁ、どんな?」

 ヘブンちゃんがくわえてたところ、よだれまみれになってるわ。

 ヴィズちゃんは、まだ足りないのか、吸いまくっている。今何ミリリットル吸われたんだろう。

「えっとですね、会長は魔法陣から動かない。それで、あの魔法陣で召喚されたのなら、あれを消しちゃえばいいんじゃないのかなと、思いまして……」

 廻ちゃんが自身の考えを自信なく披露する。

「あれって何で書かれてるの?」

「チョーク」

 マジックよりは消えやすいな。

「ヴィズちゃん、そろそろ補給できた?」

「ほぼ完ぺきだよー」

 口を離して立ち上がるヴィズちゃん。

「どーやって消そうか? 魔法陣周りになんかしようとすると、法界が防いでくるよー」

 あーそれがあったっけ、忘れてた。

「うーん、……そだっ、攻撃と思われなければいいんじゃないのかな」


「一番隊、攻撃準備オーケー?」

「オーケーです!」

 ヘブンちゃんから元気の良い返事が返ってきた。

 手には水でびちゃびちゃになったモップが握られている。

「二番隊は?」

「こっちもオーケーですー」

 同じくモップを手にしたヴィズちゃん。

「名付けて、わたしはかわいいメイドさん。これは掃除なの~攻撃じゃあないんですよ作戦! 開始~」

 法界さんを指さしたわたしの号令に、二人はゆっくりと進軍を開始する。

 ゆっくりなら、感知されないかもしれないからだ。

「おっそうじ♪おっそうじ♪らんらんらーん♪」

「はいはーい、かわいいメイドさんのお掃除サービスですよー」

 二人は少しずつ、法界さんとの距離を詰めていく。

 あと、もう少し!

 突然、竹を割ったような音が響き、ヴィズちゃんの体が前のめりに倒れる。

「あれ?」

 いく節にも切断されたモップの柄部分だけ持って、ヴィズちゃんが間の抜けた声を発した。

 水が切るような音がしたかと思うと、またもヴィズちゃんの首が飛んできた。

「なんの!」

 ヴィズちゃんの首がなくなった体が動き、水を含んだモップの毛部分を、魔法陣に向かって蹴る。

 モップの毛は、見えない壁にはじかれてしまった。

 お掃除モップも防いじゃうのか。

「うりゃりゃりゃりゃりゃっ!」

 雄たけびを上げて、全力疾走を開始したヘブンちゃん。鬼気迫る表情をしている。

 その体が、ふっ飛ぶ。

「ぎゃーっ!――――なんのーっ!」

 体をひねり、無理な体勢ながらも、モップを投げ付けた。

 それが、法界さんの頭に、クリーンヒットしてしまう。

「おうゃっしゃああああ! すごいぞわたし!」

 ガッツポーズを決めるヘブンちゃんに、後ろから声がかかった。

「……ヘブン、それは違うわ。やったのはわたしよ」

「なんですと! わたしのモップが、クリーンヒットしてたではないですか!」

 叫ぶヘブンちゃんに、ヴィズちゃんは無言で、法界さんの倒れている所、魔法陣を指さした。

 魔法陣の所々が、赤い水玉でかき消されている。

 赤い水玉……血、だろう。

「今までの攻防で魔法陣にまで血が飛び散っていたのよ。それを動かして消したってわけ」

「すっごい、ヴィズちゃん!」

「ほんとに、魔法陣が消えると、いなくなるんだー」

 わたしたちが賞賛の言葉を贈る。

「ふふふっ、もっと褒めてくれてもいいのよ」

「あのー、そうすると、わたしって……なんだったんだろー」

 ヘブンちゃんがごくごく小さな声で、つぶやく。

「えっとー、そだね……おとりお疲れ様」

「おとりかああああぁぁぁぁ」

 その場に倒れこんでしまった。

 けどまあ、守ってくれてたし。

「……お疲れ様」

 聞こえるかどうかといった小さな声でお礼を言っておいた。


「……うーん、ここ、は……」

 頭を押さえながら、法界さんが起き上がった。

「おはよございます会長。ここは会を開いているいつもの教室で、今はもう夜の八時ですよ」

 廻ちゃんが介抱に向かう。

「紅茶、飲みます?」

 わたしも声をかける。

「……頭が痛い。それに、なんだか肌寒い」

「頭が痛いのは、どこかにぶつけたんでしょう」

 ほんとは、ヘブンちゃんの余計な一撃のせいなのだが。

「寒いのは、まあ、見ればわかると思いますが……」

 わたしが見ている方向に、法界さんも視線を向けた。

 壁がない。

「……えっとぉ、なんか凄いこと、忘れてるのかな?」

 口調はいつもの通りに戻ってて、神さまは消えたんだなあと、改めて実感する。

 そして、さっきまでの記憶は無いようだ。

「まー今日は遅いですし、明日にでもお話ししますね」

 正直、長々と話す気力は残ってない。今日は本当に疲れたのだ。

 廻ちゃんは法界さんの体を支え、紅茶を飲ませている。

「けど、今日の出来事で、一つ不満が残ったよね」

 ヘブンちゃんが口を開く。

「何かあるの?」

 わたしの言葉に、深くうなづく。

「愛香、わたしとまだしてないディープキスを、廻にしたでしょ! わたしもしたい!」

「えーっ。あれは、緊急事態だったし、仕方ないというか。なんか、あれだ。ノーカンだよノーカン」

「あんなに見せ付けられたのに、わたしにはないのかー。わたしにもしろー」

 ヘブンちゃんに肩をつかまれ前後に揺すられる。

 脳がシェイクされていく~。

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