ごちそうさま
今回はけっこう筆が(パソコンですけど)乗りました。
さっきの部屋の暖炉が使われていたのでおかしいとは思っていたが、外を見るとうっすらと雪が積もっていた。
「あの、アセムさん。今の季節は冬なのですか?」
「わはは。荒れ地にいたんじゃ今の季節も分からなかったじゃろ?そう、今は冬じゃよ。さ、お前さんはこれの皮を剥いてくれ。できるかな?」
渡されたのは淡赤色の野菜のようなもの。…というか、まんまじゃがいもだ…。
「できますけど…、アセムさん。これは何という名前なのですか?」
「なんじゃ。それの名前すら知らんのか。それはじゃがいもじゃよ」
まんまだった。なんだ、意外に地球との共通点は多いのか?
その後、アセムさんが作った料理はなんとシチューで、それにもとても驚いた。アセムさんのシチューは水分が少なめのどろりとしたシチューで、味が濃く付け合わせのパン(ここまで来ると流石に驚かなかった)がとてもはかどった。
全て綺麗に平らげたところでふう、と息を吐く。こっちにきてから初めてのまともな食事に全身が幸福感に満ち足りる。
「ご馳走様でした」
「なんじゃ。お前さん、食べ始める時もいただきますやら言っておったが、それは何かの呪文なのか?」
言われてみて、確かにアセムさんとシーナは何も言わずに食べ始めていたことに気づく。
「いえ…、俺の故郷の風習なのですが、食べ始める時に、その食事で犠牲になった命に対しての深い感謝を込めていただきます、そして食べ終わったときにいただいた命、そして料理を作ってくれた人、つまり今はアセムさんに向けての感謝の意を込めてご馳走様、と言う習慣があるんですよ」
「ほお…!」
アセムさんは感心したように相槌をうった。
「それは素晴らしい習慣じゃ!わしも長い事生きてきたが、そのような習慣がある民族は聞いたことがない。シュウの民族はかなり礼儀正しいようじゃな」
「あ、ありがとうございます…」
俺としては当たり前のことをしただけなのだが…。だが、日本人を褒められるのは俺としても素直にうれしい。
すると俺の斜め前に座っていたシーナが「すえをたがあせむいしゅうびじゃんねがー?」と、俺にはやはり分からない言葉で何かをアセムさんに問う。
「ああ、はいはい。アセムとシュウさんだけで何を話しておるんじゃーと聞いておる」
「シーナがそんなおじいちゃん言葉だったらびっくりですけどね…」
再びアセムとシーナであちらの言語で言葉をかわすとシーナは目をキラキラと輝かせ、空になった皿に向けて言った。
「ごいそうさまでした!」
「――!!」
咄嗟に言葉が出てこなかった。アセムはうんうんとうなずく。
「シュウの話をそのまま聞かせてやったら、とても素晴らしい習慣だ。私たちも
今日から始めようと言いよったわ。本当に、こういう所はこの娘の誇れるとこじゃわい」
まあ少し間違っておるがな、とアセムさんは苦笑すると、当たり前のよう皿へ向けてご馳走様、と呟いた。
言葉が出なかった。
正直に言うと、俺は彼らをまだ完全には信用していなかった。いくら優しそうに見えても、結局は彼らもこの世界の住人――異世界人なのだ。俺たちとは根本的に違う生き物なのだ、と。しかしそれは間違っていた。
(この人達も俺と同じ、人間なんだ…)
「シーナ。アセムさん。いただきますも、ご馳走様も、言う時は手を合わせるんですよ」
「ほっほう。なるほどの。分かったかシーナ?」
「せいるつかいな!」
「ははは。わかっとる。そう怒るでない。今のはな、…」
勿論復讐は必ず成し遂げる。あんなことを起こそうとする奴ら、全員まとめて殺す。
その気持ちに変わりはないが、同時に新たな思いも生まれていた。
(信用しよう。この人達は)
部屋にパンと乾いた音が鳴る。
『ごちそうさまでした!』
感想などもどんどん募集しています。皆さんのコメント、お待ちしております!