拾う神
気づけば俺は伊達高校のグラウンドにいた。
昼下がりのこの時間、生徒たちが体育に勤しみ体を動かす。ピッ、と短いホイッスルが鳴る。
しかし瞬きした後には、そこは血の海と化していた。死体を弄ぶ異形の怪物達。こだまする絶叫。そしてすぐそばで横たわる佐藤と桐生だった肉塊。
「やめてくれ!!」
胸が張り裂けそうだった。実際には桐生達の死体がグラウンドにあるなんてことはない。
だが、分かっていても、心は、あのときの絶望を思い出し、押し潰されそうになっていた。
「何に怯えているのですか」
「ッ!?」
振り向けば屋上にいた二人の美女。二人の服にはびっしりと返り血が付いている。
「君もすぐあの人たちと同じになるよ。怖がらなくてもいいんだよ〜?」
「やめろ…くるな…」
剣士風の女がゆっくりと背中の大剣を抜く。
あとずさる俺に、彼女は逃さないとばかりに体勢を低くしーー。
「〜〜〜〜〜ッ!!」
気づけば天井が見えた。遅れて自分がベットに横たわっていることに気づく。
近くでパチリ、と音が聞こえる。体を起こすと、暖炉で炎がちろちろと燃えているのが目に入った。
「カムラシヌトネフオネ」
「!?」
声の方に慌てて顔を向ける。そこには、木の椅子に座り、刃物で果物の皮を器用に剥く老人がいた。
やや大柄な体に口元に豊かに生える髭は、昔見たアニメに出てくる、アルプスに住むおじいさんによく似ていた。
「ナフニノホヌケヨミチ。コヌコヘノノチイキシホネクノニ」
「…」
何を言っているのか分からない…。
ひとまず、自分の最後の記憶を思い出してみる。確か、飢えと渇きで意識も朦朧とし、かなり死にかけていたのは覚えている。
どうやらそのまま俺は力尽き、偶然通りかかったこの老人に助けられた。そう考えるのが妥当だろう。
「あの、危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
言葉は通じないだろうが、頭を下げ、感謝の意だけは伝わるように誠意を持って応じる。
果たしてその気持ちは伝わったのか、老人は何も言わずに、ただ、ベットの横に今しがた切ったりんごのような果物を置いてどこかへ立ち去る。
一瞬毒なども警戒するが、殺すなら他にいくらでも機会はあっただろうしその心配もないだろう。俺は一口サイズに切られたその果物を、パクリと口に入れる。
「…これ、ほんとにりんごだな…」
こちらの世界にもりんごはあるらしい。俺は慣れ親しんだ甘い果実に夢中になる。
無心でりんごを食べていると、ふと視線を感じて顔を上げた。
すると、ドアの隙間からこっそりとこちらを覗く、小さい目と視線が合う。
「〜〜ッ!」
俺を見ていた人影は、慌ててドアから離れていく。一体なんだったんだ?