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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
分かたれた袂、振り返る恋慕
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最期の問答

教会は、もうただの木屑の集まりと化していた。

月に向かい、未だ咆哮を上げるカリラは、既に満身創痍の呈をかもしている。

家屋を容易に薙ぎ払った猛々しい右腕を落とされ、体中に痛々しい切り傷を負っている。それだけララ達の猛攻がそれだけ苛烈を極めたのだろう。それでも、未だその咆哮からは強い戦意を感じ取れる。


カリラの足元に広がる木っ端の端々では、カリラにやられたであろうデイティクラウドの連中が、無残な肉塊となり転がっている。

唯一、まだカリラと相対し、肩で息をしているララを除けば、デイティクラウドは全滅と見えた。


「ララ!」


「……セシリア」


セシリアがララの元まで走り寄る。ララは目立った外傷はないが、魔力で紅く、紅蓮と輝いていた彼女の魔剣は、既に光は失われており、彼女の魔力が底を尽きていることが分かる。

俺の元に楓がやってくる。彼女も、幾つか切り傷を負っているようだが、全て掠った程度の傷のようだ。


「存外時間をかけてしまいました。集も無事で何よりです」


「……スクルドは?」


「あの槍兵のことですか? ――殺しましたよ。流石に他と違い強敵でしたが、や

はり相性が良かったらしく、危なげなく殺せました」


「……そうか」


スクルドの強みとしてスピードとガンランスによるオールレンジ攻撃の他に、高い対魔力があった。魔法使いにとって、それはかなりの脅威となるが、生憎楓は己の剣術だけを極めた女だ。そう意味では、確かに相性は良かったのだろう。

俺はスクルドとの記憶を思い返そう――と考えてやめた。余計な感傷は隙を生む。今は目の前のことに専念すべきだ。


「こっちの損害は?」


「全員生きています……が、見ての通り、カリラが最も酷い状態ですね。私も槍兵一人で精いっぱいでしたし、アレンとアリサで何人かは相手取ってくれていましたが、それでも残りほとんどがカリラに殺到しましたから……」


しかし、と楓は続ける。


「そのお陰で、相手の残党は満身創痍の大剣使いと、セシリア・ヴァン・ファンタゴズマだけです。後は全員で大剣使いを集中して狙い、それを庇おうとファンタゴズマが奮闘するところを狙えばいいだけです」


「……そうだな」


「……集、よもやお前、ここに来てまさか手心を加えようと思っているわけではないですよね」


「……」


「集!」


その言葉には答えず、俺はセシリア達の所へ歩み寄る。楓たちの所には、アレンとアリサが合流し、何事かと事を静観する。

歩いてきた俺を見て、ララは怒れる瞳をこちらへ向け、セシリアはぎゅっと下唇を噛んだ。


「……この戦い、俺たち『黒龍』の勝ちだ。セシリア、今度は俺からの最終勧告だ。ララをこちらへ渡せ。そうすればお前だけは殺さずに終えることも出来る」


その言葉に、ララが今まで見たことも無いような形相で、こちらへ食って掛かって来た。


「シュウッ! 私たちを裏切ってユーリを殺しただけじゃ飽き足らず、スク兄たちまで全部殺して、果てはセシリアの気持ちまで弄ぶのッ!? いい、セシリアはアンタのことが……!」


「ララ、やめて」


ぴしゃり、とセシリアが言い、ララは続いた言葉を飲み込む。代わりにこちらへもう一度鋭い視線をやった。


「私とユーリが何したって言うの! 私たちはただ、人々を守ろうと、これまで、必死に剣を振るってきただけなのに…!」


「その人々って言うのは、お前が認める民のことだろう? お前はそれを護る為に、将来必ずその他の人々を殺す」


「何でそんなことが言い切れるの!?」


「現に、未来のお前らに俺が会ったからだ。異世界侵攻してきたお前らは、俺の世界でゴブリンや獣人を使役し、俺の街を、人を、友を、“殺虫”と言ってゴミのように殺した。お前だってそこにいるセシリアや、ユーリが無残に殺された場面を見れば、許せないと思うだろう?」


「そんなの私は知らないわ! それは、私たちじゃない!」


「……」


ララの言いたいことも分かる。実際、今のララ達には分からないことだ。将来、自分が犯す罪を訴えられ、罰せられるなど、許容できる人間の方が少ない。

だが、どうしようもないだのだ。あの日の夢は今になっても時々見る。俺は桐生に任されたのだ。相棒として。なのに何故それを無下に出来ると言うのか。


「……俺は皆を救うよう任された。そのためにも、ララ。お前だけはここで殺す」


「ッ……」


ララが口を噤む。

するとそこで、今まで黙っていたセシリアが口を開いた。


「――ララを殺すことは本当に、その街を救うことに繋がるの?」


「……なに?」


俺は眉を顰める。セシリアは続ける。


「ララとユーリを殺すことが、本当にシュウの友達を救うことになるの?」


「……いいや、未来を変えることは出来るだろうが、直接的な解決にはならないだろうな」


その点については自覚している。

所詮ララもユーリも歯車に過ぎない。彼女たちを殺したところで、役回りが変わり、別の奴が桐生達を殺すだけだ。


「だが、それでも俺は許せないんだ。俺たちを虫けら同然に殺そうとしたララ達が、無意味と分かっていてもそこだけは譲れないんだよ。ララを殺した後、さっき言った通り、俺はいずれこの世界を征服する。ただ、それには出来るだけ無関係な人達は巻き込まないつもりだ。その中にはセシリア、勿論お前だって入ってる。だから――」


「矛盾しているわ」


言葉を遮り、セシリアははっきりとそう告げた。


区切れることろがなく、中途半端なところで区切ってしまいました。

皆さんとしては、同じ話題を延々と繰り返して、マンネリしてくるところだと思います。ただ、次回でこの話題、そして闘いに終止符が打たれます。どうか、それまで付き合っていただきたいです。

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