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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
Welcome to FANTAGOZMA
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異世界の洗礼

お待たせしました!遂に異世界編です!

こっちの世界の月は赤い――。


俺が異世界にきて最初に知ったことはそれだった。

月明りのが照らす中、俺は広大な荒野を歩く。


異世界――ファンタゴズマにきてから丸一日経とうとしていた。その間、俺はわずかな睡眠時間を取るときを除いて、ひたすらこの荒野を抜けるべく、あてどなくさまよい歩いていた。


「くそ…」


思わず悪態をつく。

あの白い魔法使いの女、人に散々街を救えだの言っておきながら門を開く場所すらこっちのことを考えてくれていない。このままじゃ復讐どころか誰とも会うことなく餓死するぞ。


結局昨日から一日、制服のポケットに入れていたガム数個で空腹を紛らわせていたが、それもそろそろ限界に近かった。喉の渇きも、かなり切実なものになってきている。


俺は一旦立ち止まり周りを見渡す。何か町でも見えてくれば、と期待するが、見えるのは無限に続いているかとも思うばかりの荒野が広がるばかり。そもそもこの世界に人間の街はあるのだろうか。万が一入った街がオーガ達の街だったりしたら…。


「笑えないな…」


自分の想像したことの恐ろしさにため息をついて再び歩き始めようとした、そのとき。


視界の端で、なにかが動いた、気がした。


(…)


異世界にきてからここまで、最も警戒していたのは何者かによる攻撃だ。

俺は丸腰(竹刀も屋上において来ていた)でさらに単独。もしも追剥ぎなどがこの世界にもいるのならば明らかに俺はカモだろう。そのため、睡眠時間も必要最小限にとどめ、まずは安全な拠点を作成しようと考えていたのだが…。


止まりかけた足を再び動き出させる。決して追手に気づいたことを相手に悟らせないようにする。もし敵が本当にいるのなら下手に休むことも出来ない。あえて隙を見せて、襲い掛かってきたところを返り討ちにする。


正直、勝算など分からなかった。元の世界、俺の街では、腕っ節はかなり強い部類には入っていたとは思う。しかしそれも喧嘩での話だ。俺より強い奴なんて世界にはゴロゴロいるだろうし、相手が武器を持っていれば格下相手でも負けることだってある。


それでも、生き残るためにはこれが最善だと考えた。こんなところで俺は死ねない。そう、復讐を遂げるまでは。


考えた途端、昨日の光景がまざまざとよみがえってきて、慌てて脳内からその光景を振り払う。今は目の前の状況に集中しろ。


そしてそのまま歩いて数分後、遂に敵は仕掛けてきた。


「キシャアアアア!」


突然後ろから奇声。急いで振り向けば、荒れ地の地面によく似たような布をくるまいて、小型のゴブリンはこちらに走ってくる。手にはギラリと鈍く光る出刃包丁のような刃物。


(あの布みたいなので擬態してたのか…)


突撃してくるゴブリンはせいぜい80センチメートル程度。あの小柄さなら、一瞬あたりを見回した程度じゃ風景に溶け込んで気づかないだろう。


瞬く間にゴブリンは肉薄する。そしてカエルのような身軽さでピョンと跳びあがり、得物を振り下ろす。


(やはりあのゴブリンと同じか…)


それは昨日獣人から逃げてきたとき。廊下でとびかかってきたゴブリンも同じ攻撃方法だった。


俺はその一撃をひょいとかわすと、ゴブリンの横っ面に渾身のストレートを放った。


「シッ!」


骨を打つ衝撃が拳に伝わる。会心の一撃が入ったことを確信した瞬間、俺は目を剥いた。


殴られたゴブリンが、そのまま20メートルくらい吹っ飛んだのだ。


地面に何度もバウンドし、ゴロゴロ転がったそのゴブリンは、そのまま起き上がることはなかった。他に敵がいないことを確認してからそのゴブリンのもとへ向かうと、既にそれは息絶えていた。


見ればゴブリンの顔には俺の拳の形がくっきりと残っており、顔面も心なしか、骨格ごと歪んでしまっているように見える。


俺は自分の拳をまじまじと見つめる。いつもと変わった感じはなかったが、異世界に来たことで、俺の体にも何か特殊な能力でも備わったのだろうか。


やがて考えても仕方のないことだと割り切り、ゴブリンの装備を剥ぎ取ろうと向き直った所で手が止まる。


「そうか…、俺は殺しをしたんだな」


勿論こっちも必死だったわけだし、そもそも向こうから先に襲ってきたのだ。自業自得だとも思う。


ただ、今日、自分は他の生物をこの手で殺し、生き残った。その事実は忘れずにいよう。今までにも当たり前に存在していた事実ではあるが、異世界に来て今日、俺はその事実を改めて受け止めた。





それから二日後、俺は極度の疲労と空腹により遂に倒れた。


(このまま死ぬのか…。こんなところで死ぬわけにはいかない。みんなを、守らなくちゃ…)


そこまで考えたところで、遠くから何かがパカパカとやってくる音が聞こえた。

意識が朦朧とする中、ふいに何かに抱かれたような温かい感覚が体を包む。

その大きな安心感に、俺は張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れて、深い眠りの中に身を委ねた。

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