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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
二つの貌を持つ男
58/64

決断 上

長くなりそうだったので一度区切りました

「……! あれは!」


再び、三班の所から狼煙が上がった。空間移動が可能なユーリがこちらに来る事なく、狼煙で合図を出すという事実に少し訝しむが、その狼煙が赤いのを見て、その理由を悟る。


(空間転移が使う間もないほどの事態という事ね!?)


「全員、今の狼煙が見えましたね! ユーリが向かってもなお赤の狼煙を使うほどの事態ということです! これからここにる全員でユーリ達の元に向かいます!」


『はいっ!』


セシリアの指示に、ララ達は少しの淀みもなく返事する。いい仲間だ。今はこの物分かりの良さがありがたい。

二班の存在も一瞬脳裏をかすめるが、今はユーリ達の援護に向かうのが最優先と判断し、即座に頭の中から消す。

セシリアたちは屋根伝いに移動を開始した。






目的の場所――廃墟となった教会にはものの数分で着いた。流石にこのメンバーだと早い。

教会は不気味な闇夜にひっそりと佇み、郊外にあることでここだけ別世界かのような静謐さを漂わせている。そこに人の気配は無い。


「部隊長……」


「ええ……分かっています」


ユーリの班の班員の言葉にセシリアは頷く。気配は無くとも分かる。ここに、誰かが潜んでいるということを。


「デイティクラウドです! そこにいるのは分かっています! 大人しく姿を現しなさい!」


私の声は遠くまで響き、やがて空気に溶けるように消える。

しばらくすると、おもむろに教会の扉が開き、中から人が出てきた。


「――ッ!」


全員が瞬時に身構える。

出てきたのは仮面を付けた男。その姿には見覚えがある。


「《黒龍(アンカラゴン)》……」


「久しぶりだな」


黒龍は片手を挙げる。その仕草がいつも学園で会う一人の青年の仕草と重なり、すぐにそんなことを考えた自分に嫌悪感を抱く。目の前の男とシュウとを重ねるなんて酷いもいいとこだ。


「何故あなたがここに! 三班とユーリはどうしたの!」


「落ち着け。セシリア、今日はお前に話があった」


「……私に?」


突然予想外の返答をされ、セシリアは訝し気にその提案をした男を見る。


「部隊長! 奴は所詮頭のおかしいテロリストです! 奴の言葉に耳を貸してはいけません!」


スクルドが黒龍に向かって穂先を向ける。すると、黒龍は肩をすくめる仕草をした。


「――頭のおかしいは無いだろう、スクルド?」


「ッ!?」


黒龍から発せられたその声――先ほどの無機質で抑揚のない声音と打って変わり、聞きなれた青年のそれは――。

ぞわり、と背中に悪寒が走る。

見てはいけない物をうっかり見てしまったときのような、妙な危機感が胸に這い寄る。

黒龍はゆっくりとした手つきで仮面に手を添える。すると、たちまち仮面がボロボロと朽ちて塵と化す。

やがて仮面の下から現れた顔は――。


「なっ……!?」


「嘘……」


「なんであいつが……」


周りの班員たちが何事かつぶやく。しかしセシリアにその声は聞こえていなかった。

時が止まったかのように錯覚する。心臓の音がやけにうるさい。それ以外の音がこの世から無くなったみたいだ。

セシリアは見間違えるはずのない、その人の名を呼ぶ。








「……シュウ?」




目の前には先ほど別れ際、再会を約束した青年の顔があった。




素顔を見せた俺を見ての反応はまちまちだ。

全ての事情を察したらしいスクルドはキッとこちらを睨みつけ、ララは童顔で元々大きな瞳を更に大きく見開き、そしてセシリアは、ただ呆然とこちらを見ている。


「……シュウ?」


セシリアが呆けたように俺の名を呼ぶ。その時だった。


「シュウッ!」


スクルドが手に持っていたガンランスをこちらに向け、砲身から蒼白い閃光を纏った魔力弾を撃ち込んでくる。


「スクルド――!?」


「――フ」


俺は瞬時に『アイアン籠手(ガンドレッド)』を展開。迫りくる魔力弾を全て拳で弾き落とす。


「拳でスクルドの魔弾を!?」


「チッ――」


「何をしているのスクルド!? シュウは味方よ!」


「セシリア様こそ今更何を言っているのですか! この状況を見れば分かるでしょう!? シュウは、あの男は私たちの敵です! でなければユーリや三班はどうなったと言うんですか!?」


「――ッ!」


そのスクルドの諭すような言葉に、セシリアはびくりと肩を震わせる。

そのタイミングで、俺も言葉を紡ぐ。


「セシリア、まず俺は話をしたいだけだ。スクルドも、一旦武器を下ろしてくれ」


「裏切り者の分際でよくぬけぬけと――ッ!」


「スクルド、やめて! 武器を下ろしなさい。これは命令です!」


「――ッ! セシリア様!」


スクルドを制したセシリアはこちらを見る。しかし、その瞳には先ほどまでの動揺はなく、一人のチームの隊長として、彼女は俺を鋭く射抜く。


「――いいでしょう。話を聞きましょう。しかし、少しでもおかしな真似をすればその場で制圧しますのでよろしいですね、黒龍アンカラゴン?」


黒龍、という所の語尾を強めてそう言う。

どうやら、この短時間で彼女なりに心の整理を行ったらしい。


「……ああ、それでいい。外じゃなんだ。中で話そう。安心しろ、罠はない」


「……」


「スクルド、お前達も来い。お前らにも話したいことでもある」


「……セシリア様」


「……行きましょう。どのみち行かねば何もわかりません」


セシリア達は俺にいざなわれるようにして、教会へと足を踏み入れた。


御意見御感想お待ちしております。

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