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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
二つの貌を持つ男
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八班始動

今回は久しぶりにあいつが登場します。覚えてるかなあ。

「始まったか…!」


張り込んでいた建物の突如、巨大な火柱が発生、天井を易々と貫き夜空に舞い上がった。

レイジとアンは視線を交わし、頷くと、潜んでいた物陰から飛び出し、入り口まで疾走する。


「――なっ、なんだてめえら!」


建物から上がった火柱に集中していた守衛の二人がこちらを向くが遅い。

レイジはすらりと抜いた剣ですれ違いざまに守衛の一人を斬り捨てる。

アンの方を見れば向こうも彼女の体躯に合わない巨大な両手剣で守衛を両断していた。

そのままレイジとアンは入り口を開ける。たちまち室内からぶわっと熱気が頬を撫でる。レイジはここからが勝負だと気を引き締めた。


「デイティクラウドだ! 貴様らを拘束する、全員動くな!!」


レイジが出来るだけドスの利いた声で大声を上げる。

中にいたいかにもガラの悪そうな連中はその勢いにひるむが、正面入り口にレイジとアンの二人しかいない事を知ると、すぐに調子を取り戻す。


「へっ! いつも金魚の糞みてえに群れてる奴らが今日はやけに少ないじゃねえか! クソ生意気な皇女様は今日はお休みか!?」


「ッ! 貴様ぁ!」


「ま、待て! …くそっ!」


セシリアを侮蔑するその言葉に彼女を敬愛するアンは激昂。レイジの静止を無視して大群に挑む。真面目なアンの仲間想いの性格が完全に裏目に出た。仕方なくレイジはアンのバックアップに回る。


「デイティクラウドとはいえチビ一人だ! 数に物いわせてぶっ殺せ!」


「舐めるなぁあああ!!」


雑な連携とすら言えない一斉攻撃で挑みかかる男たちを、アンは振りかぶった大剣で一掃する。吹き飛ばされた男たちは壁にめり込み、やがて力無く崩れ落ちる。

アン・サハリンの持ち味は、その小さい体躯に見合わない圧倒的な膂力。セシリアやシュウほどではないにせよ、魔術強化無しで大の大人数人を吹き飛ばすほどのパワーは、さながら小さな台風のようだ。

アンが雄たけびを上げ、剣風を生む都度血肉が舞い、絶叫や悲鳴が建物に木霊する。

そんな中、アンの死角からじりじりと間合いを図る者の存在を、レイジは『鷹の(イーグルアイ)』で強化された視野に捉え、見逃さない。


「『フレイム(ブレード)』!」


「ぐぉ!」


レイジはアンの死角となる所から攻撃を仕掛けようとする者を迎撃。とりあえずはアンのバックアップに回ることに徹する。

幸い、敵のほとんどはアンに為す術なく斬り伏せられ、残りの僅かもレイジの手に余るような者はいない。ここまで攻め入っても相手の動きに変わりがないことを見ると、どうやらここに『嗤う(ラフ・シャドウ)』はいないようだ。

ここは外れらしい、レイジがそう判断した直後、他とは一線を画す素早い動きでアンの死角となるポジションに回り込む影が一つ。


「――ッ! 『フレイム(ブレード)』!」


「――『英姿刀浪(えいしとうろう)』」


レイジが放った高速に飛翔する炎の斬撃は、次の瞬間、その全てが綺麗に受け流されていた。高温度の炎が形作る刃は、壁に深い傷跡を残すと、燃え尽きるかのように霧散する。


「なっ…アン!! 退れ! 側面から一人来るぞ!」


「…ッ!?」


レイジの攻撃を凌いだその敵は、一直線にアンへと迫る。アンはそれを戦士持ち前の驚異的な反射速度でガード。しかし、意を突く角度からの突然の攻撃に踏ん張りが利かず、壁際まで吹き飛ばされる。


「くっ…!」


踵をすり減らし、なんとか転倒だけは防いだアンに、それを追撃しようと姿勢を屈める。レイジはここにきて、やっと敵の姿をしっかり目視し、そして瞠目した。


「――ッ!」


レイジは即時に疾走。横合いからそれに向かって剣を振り下ろす。

甲高い金属音。二人はギリギリと剣を交えながら、互いを至近距離でにらみ合う。


「――トム・アーカイブス…ッ! これは、どういう真似だ?」


レイジの問いにその男――トムは、学園で見るのと同じ、自分以外の全てを見下すかのような瞳でレイジを射抜く。


「ふん…田舎者の貴族が……調子に乗るなよ!」


「――ぐっ!?」


力任せに弾き飛ばされ数メートルの距離を離される。


「…貴様ッ、こんなことをしてどうなるか分かっているのか!?」


「ああ、充分に分かってるねえ。私が今ここで、お前らを殺し、シャドウアイが

この街を蹂躙するってことをだなあ!」


「やらせません!」


「!」


そこに、突如アンが横合いから仕掛ける。大きく振りかぶって放たれた一撃は文字通り暴風を生み、ズンと骨身に染みるような重い衝撃波がアレンの体に届いた。

しかしその全てを粉砕するかの如く一撃は、トムには届かない。


「――『英姿刀浪(えいしとうろう)』」


「嘘…ッ!? ッ…ぐっ!」


アンが剣を振り下ろす刹那、トムは高速で回転したかと思うと、アンの一撃を自身の細剣で綺麗に受け流し、返す刀でアンを切り裂いたのだ。

スキル。戦士として一定の技量を超えた者のみが扱える技術による奥義。それは剣術や槍術にとどまらず、拳闘士の奥義にも通用する。

学園でも扱える者はセシリアをはじめ、《疾風迅雷》のスクルドや、《紅蓮の闘鬼》のララなどほんの一握り。それを二組不動のトップとはいえ、たかがBクラスのこの男が使えるとは…。


「…ぐっ…」


「ッ! アン!」


聞こえてきた少女のうめき声で我に返る。

アンは右肩口からばっさりと袈裟斬りにされていたが、傷は見た目ほど深くないのか、幸い出血は目に見えて多くは無かった。

だがちんたらとは出来ない。レイジは素早く魔力を込めると、前方に魔法を発生させる。


「『電撃(サンダー)』!」


「はっ!」


真っ直ぐ伸びる雷撃は空を切る。だがこれでアンとトムの距離は離せた。その間にもレイジは次の行動に移っている。


「そこだっ! 『重力(グラヴィティ)』!」


「…チッ! 小技を…」


『鷹の(イーグルアイ)』の視界にトムを捉えたレイジは、一定の範囲の重力を操作する中級魔法をトムの移動した位置にちょうど重なるように発動。途端にトムの動きが目に見えて遅くなる。


「『炎熱帯同えんかたいどう』…!」


レイジは赤熱化の魔法を自身の剣の刀身へ向ける。特殊な素材によって作られたレイジの魔剣は、圧倒的熱量を保ちながらも、刀身を溶かすことなくその色を赤銅色へと変える。

レイジは変化したその魔剣を振りかぶると、その場から勢いよく振り下ろした。


「『炎熱伝導波えんねつでんどうは』ぁあああ!」


「――!!」


灼熱の暴風がトムを襲う。彼の体は瞬く間に爆風に呑まれ、見えなくなった。

普通に撃てば室内にいる者全てが火炙りになるレベルの技だが、レイジは残った魔力を総動員して爆発をトムの周り一ヶ所に留める。

やがて嵐が止み視界が晴れると、黒く焦げた床の上には、何も残っていなかった。




――そう、彼が持っていた業物の魔剣さえ。




「――ッ!?」


「周りの被害を抑えようとしたのがお前の敗因だ」


振り向けばそこには片手を炭化させたトム・アーカイブスの姿。残った手には既に引き絞られた彼の得物が見えた。


「くぅ!」


息も絶え絶えの中、その一撃を受けられたのは自分でも驚きだった。しかし勿論足の踏ん張りは利かず、向こうの壁まで吹き飛ばされる。壁にぶつかった拍子にビキリと体から異音がした。


「私の腕一つを奪ったんだ。楽には殺さんぞ…!」


霞む視界の向こうで、トムは幽鬼の如くゆらりと立っている。レイジは、自分の死を確信した。


「…お前、どこかで見た顔だな」


「…あ?」


そんな時だ。そのような会話が聞こえ、レイジは頭を声の主――建物の非常口の方へとやった。

そこにはレイジが認めないと決めた男、シュウ・タチバナがいた。

シュウを見た途端、トムの声に今まで以上のはっきりとした怒気が含まれる。


「シュウ・タチバナ…! 貴様…、何故こんなところにぃいいいい!!」


「…そんなことはお互いどうでもいいだろ」


シュウはいつにも増して低い声でそういうと、ゆっくりと徒手空拳の構えを取った。

その姿に、レイジは違和感を覚える。あの構え、つい最近どこかで見た覚えが…。


「部下の落とし前はきっちり付けさせてもらう。覚悟はいいな――三下?」


「ッ!ッ…この、平民風情がぁあああああ!!」


怒りが最高潮に達したトムはその瞬間疾駆。シュウもそれに合わせて床を蹴る。

シュウはいつもの杖でも、入隊試験の折に使用した大剣も持たず、ただ拳を握る。


「馬鹿がッ! 『鉄の籠手(アイアンガンドレッド)』程度で防げると思ったか! 腕を落としてその驕りを悔やむんだな!」


トムは高らかに嗤う。そして、拳と剣が錯綜する――


「『英姿刀浪』――」




錯綜する、はずだった。




「…え?」


気づけば、トムは床に転がっていた。その手は細剣を未だ強く握っているが、最早その躰からは生命力を感じない。ただの肉塊となり果てていた。

床に伏しているアンも、その予想外の展開に閉口する中、唯一その声が、彼らの耳朶に届いた。



「『嵐衣無縫(テンペストヴェール)』――」



その魔法名、そして今あの男の体を纏う嵐の衣。その答えは唐突にレイジの頭に突きつけられる。


「――まさか、アンタだったのか?」


その決定的な問いに、その男――立花集はゆっくりとそちらを振り向いた。

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