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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
二つの貌を持つ男
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嵐の前

「――というわけだ」


一通りの説明が終わると、楓が早速口を開いた。


「聞く限り、その作戦は『シャドウアイ』に気を取られているばかりに私たち『黒龍』がデイティクラウドを各個撃破する絶好の機会ではありませんか。迷う事もありません。打って出ましょう」


「お前ならそういうと思ったよ…」


坂本の予想通りの答えに苦笑する。すると、対面に座っていたアレンがあの、と挙手する。


「なんだ」


「今まで固まって行動していた奴らが四人編成で散り散りになるって流石に都合よすぎやしませんか?同時攻撃するためには仕方ないとはいえ、あまりにもリスクが高い気がします」


「つまり罠の可能性があるって言いたいのか?」


アレンが頷く。それを聞いて俺はふむと顎に手をやる。


「確かにその可能性は捨てきれませんが、その点については彼らも危険が伴うと言及する形で触れていたでしょう。そんなことで尻込みするようではいつまでも目的成就は出来ません!」


「…確かに、今回は楓の言う通りだな」


楓の主張に、今回は賛同する。


「確かに罠という可能性はある。だが、その俺個人としてはその可能性は低いと踏んでる。リスクとリターンを考えたら、今回は見返りの方がデカいな」


「兄貴がそう言うなら俺からは特にもう何も言いません。やりましょう」


つまりアレンは俺の判断を信じるということだ。


「それなら可能性は低いけど、私の方でもお店の方でそれとなく学園の生徒から引き出せる情報を引き出しておくね」


シーナも同意を含んだ発言をして、ここにいるメンバー全員の同意は取れた形になった。


「さっき話した通り作戦は三日後。勿論そのときは俺もデイティクラウドとして作戦への参加を余儀なくされるだろう。班の編成は明日発表されるから、俺がどのようにして動くかも明日決めるが、止むを得ない場合には――俺以外の班員は始末することにする」


最後の方は、その言葉の重さを自分自身にも言い聞かせるように含ませて言う。

覚悟が伝わったのか。俺以外の連中も表情を引き締める。

よし、とそれを確認した俺は勢いよく立ち上がった。


「それじゃあ楓とアレンは外に出るぞ。明後日に向けて少し稽古付けてやる」


「はいっす!」


「上からな物言いは気に喰わないですがまあいいでしょう」


そうして楓とアレンを引き連れ玄関に出る。


「ごはんの準備しておくから、あまり遅くならないうちに帰ってきてね」


「ああ」


「いってきますシーナ。留守は任せましたよ」


「うまい晩飯期待してるぜ!」


シーナに手を振られ、俺たちはアジトを後にする。

こんな生活も、もう長くは続かないかもしれない。

そんな予感を、誰もが感じながら、決して口には出さずにいた。






翌日の学園は、放課後までの体感時間が異常なまでに長かった。

それだけそわそわしてるということだろうか。焦りは正常な判断を妨げ、隙を生む。

一応平静は保っているが完全には律しきれていないようだ。今はまだいいが、明日にはこのような心の機微は捨てねばならない。俺は改めて心を引き締めた。

そして待ちに待った放課後。俺たちは再びデイティクラウド作戦室に来ていた。


「それではこれから明日の『シャドウアイ』掃討作戦の班編成を発表します。一班、班長ララ・ブリッツ、班員ウルージ・バックマン、クルーゼ・ザーシュ――」


ユーリが手元の紙に目を落としながらそれぞれ名前を読み上げていく。


「四班、班長レーゼ・ルルシュ、班員イアン・タイガー、トビー・サブナック――」


なかなか名前は呼ばれない。またも焦れるように大きく脈打ち始める鼓動を抑え、ひたすら自分の名前が呼ばれるのを待つ。

そして遂にユーリの口からその名前が呼ばれた。


「最後です。八班、班長シュウ・タチバナ」


「――ッ!」


周りからおおっと声が上がる。驚いたのは俺も同じだ。まさかBランクの生徒である俺が班長を任されるとは…。

そんな俺の驚愕をよそに、ユーリは淡々と俺の班員を名乗っていく。


「班員アン・サハリン、レイジ・タズマ、アリサ・リーン、以上です。班員はそれぞれの班長の元へ移動し、ミーティングを行ってください」


やがて俺の班員が集まる。俺の班は四人中二人が女性という珍しい班だった。


「…揃ったな。それじゃあ右の奴から軽く自己紹介してくれ」


俺がそういうと反応はそれぞれ。

一番右にいた真面目そうな女性がびしっと敬礼する。


「アン・サハリンです!歳は十七。所属はBクラス一組、クラスは剣士です!よろしくお願いします!」


ハキハキとした口調、短く切りそろえられたボブカット。いかにも真面目そうな少女だ。


次に喋りはじめたのは真ん中にいた少年。露骨に眉をひそめてこちらを見る不信感を隠そうともしない少年だ。


「…レイジ・タズマ。十八歳。Aクラス。魔法戦士だ…」

身長があまり高くないため年下かと思っていたら、どうやらタメであったらしい。

同輩とはいえ、最近入隊し、しかもBクラスである俺の下に就くというのは確かに良い気はしないだろう。

もしかしたらこのレイジは俺の指示を聞かないことがあるかもしれないな、そんなことを考えて、俺は最後の班員に目を向ける。


その娘は戦士というよりはどこかの令嬢、と言われた方がしっくりくるような大人しそうな印象で、無機質な瞳は俺を観察するようにじっとこちらを見ていた。


「…アリサ・リーンです。十七歳。Aクラス、魔法使いです」


そこまでいうとアリサはこてんと首をかしげた。首元で切り揃えられた髪が彼女の頬にかかる。


「…あなたは?」


「…俺か?自分で言うのもなんだが、既にけっこうデイティクラウドでは有名だと思うんだが」


そう返すと正面から小さな舌打ち。音の出所であるレイジはこちらとは目を合わせようとしない。かなり嫌われているようだ。


「…(じぃ~)」


そしてアリサはアリサでそれらを意に返さず相変わらず俺だけを見ている。最初の印象であった大人しい娘、に変わった娘、というレッテルが俺の頭の中でアリサに付け加わる。


「…シュウ・タチバナだ。十八歳。Bクラス二組。一応魔法戦士だ。よろしく頼む」


「はい、よろしくお願いします!」

「…けっ」

「じぃ~」


「…」


てんでばらばらすぎる反応を寄越す彼らを、俺は冷静に観察する。

その後俺たちが襲撃する拠点座標や簡単な情報をユーリから説明され、軽く役割やフォーメーションを確認したところでその日は解散になった。

帰り際にララが声を掛けてくる。


「シュウ君も遂に班長になったねー。Bクラス、それも二組から班長が出るなんて初めてのことだよ~。どう、班長から見た八班の感想は?」


「…なかなか大変かもしれないな」


「あー…やっぱり最初はそうだよね~。でも大丈夫、シュウ君ならきっとすぐにいい班長になれるよ!」


「…ああ、ありがとう。あと、セシリアの奴、まだあんな調子だけど大丈夫か?」


俺はセシリアを顎でしゃくる。

セシリアは表面上は普通に見えるが、時折どこかぼーっとしたような表情をする。

育ちの良い彼女が公式の場でそのような状態は少なくとも俺は見たことがなかった。


「…やっぱりシュウ君にもわかっちゃうか。多分セシリアは今回の作戦で出る犠牲や被害を自分で背負いすぎてるんだよ。これだけ大規模な作戦が起きれば味方の被害も決して低くないからね。だから最近はどうすれば少しでも味方の被害を小さくできるかって参謀班と毎晩徹夜で相談しているみたい。あれじゃあ決戦の前に体を壊しちゃうよ」


「なるほどな…」


俺はユーリと話すセシリアを見る。確かに彼女の顔には隠し切れないほどの疲労の色が濃く残っている。ララの話は本当なのだろう。


(…あわよくばいけるかもしれないな)


「な~に~シュウ君。やっぱりセシリアが心配?なんなら声かけてあげなよ~。きっとセシリア喜ぶぞ~?」


俺がずっとセシリアを見ていたので何を勘違いしたのか、ララはそう言ってくる。

俺はかぶりを振った。


「今俺が行ってもセシリアの邪魔になるだけだ。お前の方で無理はするな言っておいてくれ」


「ちぇっ、な~んだ。まあ、分かったよ」


俺はかぶりを振るとセシリアから背を向け、教室を後にする。

するとしばらくしたところでカリラが声を掛けてきた。


『…本当にいいんだな?』


(ああ、あの様子ならそれも考える。これくらいも背負えない女ならどのみち俺の足枷にしかならん)


『…分かった。なら俺も、それ相応の準備をしておこう』


セシリアの先ほどの様子。かなり疲弊しているのは確かだ。そこで考えたのが、今ならば俺でも倒せるかもしれないということだ。

仲間想いなのは結構だが、それが災いして自滅するよう器ならば当初の俺たちの仲間にしようとしていた作戦は変更だ。どのみち俺はデイティクラウドの生徒を手に掛けた。仲間を奪われた彼女が素直にこちらの仲間になるとは考えにくい。

ならばいっそ。ここらでララやユーリ達とまとめて処分し、俺がデイティクラウドを乗っ取るための準備を進めるのも悪くないかもしれない。


(試してやるよセシリア・ファンタゴズマ。お前の器ってやつを…)


外は曇天に加え、強風ががたがたと乱暴に窓を揺らす。

嵐が来るかもしれないな、俺は一人ごちた。


御意見御感想お待ちしておりまーす。

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