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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
二つの貌を持つ男
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違和感

沈みゆく夕陽が立ち並ぶ建物を朱色に染める。

アジトである部屋にも夕陽が窓から差し込むが、室内に居る俺たちの顔はどれも険しい。


「じゃ…じゃあ、遂に本格的に始めるってことですか?せ、世界征服を…」


アレンの語尾は心なしか震えていた。


「…これが始まればもう後戻りはできない。元々は楓と俺の二人で企てた計画だ。シーナとアレンは降りるならまだ間に合うぞ」


「何言ってるんすか!ここまで来て降りるなんて兄貴の舎弟じゃないっすよ!」


「そうだよお兄ちゃん、今更そんなこと聞かないで。私はどこまでもついていくよ」


二人は力強い返事を返してくる。二人の眼は既に決意を固めた者の眼だった。


「…わかった。お前らの命、俺が預かる。…勝手に死んだら承知しねえからな」


「うす!」「うん!」


『…心配しなくても、主様の仲間なら、ちゃんとここにいるじゃねえか』


カリラがぼそっとつぶやくが、聞こえないふりをする。チームの頭が弱気になっていたなんてのを下に知られるのは不安を煽りかねないし、何より恰好がつかない。ただ、確かに昼に感じた閉塞感は消えていた。


「では、集。全員の気持ちの確認も取れたところで、早速今日あったデイティクラウドの具体的な作戦内容を教えてください」


するとここで、隅で壁にもたれていた楓が重々しく口を開いた。

俺がこの話を始めてからというもの、楓からは纏わりつくような鋭いプレッシャーが放たれている。バリアハールで初めて会った時、俺以上にファンタゴズマを憎んでいた楓だ、遂に世界征服に本格的に動き出すと聞いて、気持ちが逸るのだろう。


「…楓、焦るな。気持ちは分かるが焦ったところで判断力が鈍るだけだ」


「私は至って冷静です。焦ってなどいません」


「そんなに闘気を孕ませておいてそれは無いだろう」


「…」


楓はむすっとした表情を作ると、彼女から放たれていたプレッシャーが消え、室内の気温が幾らか上がったように感じる。アレンとシーナが露骨にほっと胸をなでおろす。


「…これでいいですか?」


「ああ。――じゃあ話すか。今日の会議の内容を」


そうして俺は、放課後に行われたデイティクラウドの会議について話し始めた。






昼の衝撃的な作戦発表から数時間後の放課後。デイティクラウドの教室には、再び多くの生徒が集まっていた。

壇上でユーリが指示棒を振る。


「――まず、私たちが狙うのは『シャドウアイ』です。現在、調査班の調べで特に大きな彼らの根城となっている箇所を八ヶ所発見しました。そのうちのどれかに、今まで尻尾を掴ませなかったリーダーである《嗤う影法師(ラフ・シャドウ)》がいる可能性は非常に高く、三日後の夜、この八ヶ所に同時攻撃を仕掛けます」


教室がざわめく。当然だ。拠点八ヶ所の同時攻撃など戦力が分散するなどの観点から、今まで行ったことなどない異例の作戦だ。


「現在、デイティクラウドには三十三名の生徒が在籍しています。これを一班四人編成に分け、フリーランスとしてセシリア部隊長を置きます」


「待ってください!」


話の途中で立ち上がったのは一人の男子生徒だ。


「私も調査班でしたが、敵の拠点を見つけたとはいっても人数、武装、敵のレベルなどは一切分からないのですよ!?それを四人でなんていくら何でも無茶すぎます!」


「それぞれの班にはAクラス生徒の中でも上位の生徒を置きます。それに、一つでも拠点を落とし損ねれば、ゴキブリ並みのしぶとさを持つ彼らが今後また戦力を整えて復活する可能性もあります。ここで主戦力を根絶やしにするしかないのです」


「ならばせめて!治安維持局本部から人員を少しでも派遣してもらうべきです!」


その生徒の主張にセシリアは首を振った。


「…今、ここまで『シャドウアイ』が勢力を拡大させたのは治安維持局の汚職に原因があるとされています。おそらく裏で賄賂、取引をして一部の人達が利益欲しさにこちらの作戦を流したのでしょう。そんな維持局の本部にこの計画を説明して人員派遣を要請すれば、たちまちこの作戦は相手に気づかれてしまいます」


「そういうことです。分かりましたか」


「…はい」


男子生徒は項垂れ、座る。あの生徒の気持ちも分かる。相手の戦力も分からない所にたった四人での襲撃。しかも、もしかしたらそこにランクA+の強敵がいるかもしれないのだ。いくら己の腕に自信があるデイティクラウドのメンバーでも所詮はまだ十代そこらの若造。不安も大きいのだろう。


(だが、こういう時こそあいつの存在はデカいだろ)


俺は壇上付近でこちらとは向かい合って座っているセシリアを見る。

高いリーダーシップやカリスマ性を持つ彼女は本人もそれを自覚している。

今のような周りが不安を抱いている状況でも、彼女が頼もしい一言を発するだけで士気は大きく上がるだろう。


(…ん?)


しかし、いくら待ってもセシリアが口を開くことは無かった。堅く口を閉ざし、何かを黙考しているかのように微動だにしない。俺と同じことを考えていたのだろうか、ユーリもセシリアを尻目に見ていたが、彼女は終始その視線に気づくことはなかった。

僅かな沈黙が生まれたことに、他の生徒達が訝しむ。ユーリは仕切り直すようにコホンと咳ばらいをすると、話を続けた。


「班編成については現在、参謀班で審議していますが、もう一つ、この作戦にあたって、留意してほしい点があります。『黒龍』についてです」


「…」


黒龍、という単語が耳に入り、即座に意識をセシリアからユーリに切り替える。この話によって、俺たちのこれからが決まるのだ。一言一句逃さずに聞かなければ。


「今回の作戦では『黒龍』は直接のターゲットではありません。残念ながら未だ彼らのアジトやシマが分からない状態であることに起因していますが、今回の作戦では、『黒龍』が絡んでくる可能性は低いと私たち参謀班は考えています」


ほお。

俺は背もたれに体を少し預け、ユーリの言葉に耳を傾ける。


「理由としては、『シャドウアイ』と彼らが敵対関係にあり、同じく敵対関係である私たちデイティクラウドと潰し合う現状況では手を出してこないだろうと考えられます。勿論、断定はできませんので有事の際の合図なども考えてあります。ただ、ひとまず今回の作戦での標的はあくまで『シャドウアイ』ですので、無暗な戦闘は避けてください。――ここまでで質問はありませんか?」


誰もが口を真一文字に結び、一言も発しない。


「――特に無いようですので今日の会議は以上です。班編成は明日発表します。全員今日は解散とします。いいですね、部隊長?」


「…」


「部隊長?」


そこでセシリアははっと我に返ったようにうなずく。


「え、ええ、それで構いません。全員、体調を万全にしておいてください」


セシリアの歯切れの悪い言葉で、生徒達が重そうに腰を上げ始める。いつもの彼女らしからぬ振舞いに、生徒の士気はイマイチ低い。


(どうしたんだあいつ)


俺は一瞬不思議に思ったがすぐに今はそれどころではないと思い出す。

早く帰ってこのことを皆に知らせなければ。

俺は足早に教室を後にした。


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