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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
二つの貌を持つ男
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投げられる賽

更新遅くなりました!

空に光り輝く太陽のようなそれがギラギラと燃え、学園に通う生徒達も半袖に衣替わりを始めた。

デイティクラウドに入隊し、いくつかの任務をこなし、やっとここにも馴染み始めたこの頃。デイティクラウドのメンバー全員招集という珍しい指令を受けて俺はデイティクラウドの教室に来ていた。


「…」


三十人近くの人が所狭しと集まっているというのに、教室は重苦しい沈黙が支配していた。

誰もが口を閉ざし、神妙な表情で壇上に上がる一人の女性を見つめている。

その女性――ユーリ・アイギスは教室に揃った生徒をぐるりと見回したあと、やがて淡々とした口調で言った。


「今日皆さんを呼んだのは他でもありません。皆さんも既に知っていると思いますが、昨晩何者かにより工場地区の家屋一つが全焼し、その中から――隊員であるサムス・シリアンの遺体が発見されました」


『…』


ユーリの報告に驚きの声をあげる者はいない。既にこの情報は既知の事実として部隊内どころか学園内でも広がっている。いくら勇者などの育成機関であるこの学園でも、在籍中に死亡するようなことは少ないからだ。同じ学園に通う生徒が殺され、まだ犯人が捕まっていないという事態に対し、生徒達は勇者の卵とはいえまだ子供。少なからず不安を抱える者も多いようだ。


だがここにいる奴らを見てみろ。俺は辺りをそっと見回す。

教室でユーリの話を静かに聞くこいつらの眼に恐怖や不安、更には悲しみすらもない。

あるのはただ、同胞を殺した者への怒りと、その気持ちさえもうまく手綱を握ってリードする圧倒的な精神力。少年少女といえど、それはまさしく戦士のそれだった。

しかし彼らは気づかない。その仇敵が、自分たちの傍にいるということに。


(手強いな)


俺は彼らを評価する。仲間を殺されたということで、もっと感情的になるかと思っていたが、予想以上に彼らは冷静だ。むしろ士気が高くなり、火に油を注いだ感じさえしてくる。


『十代の若さでこの胆力。学園のエリートが集う部隊ってのは伊達じゃねえな』


カリラの呟きを無言で肯定する。壇上ではユーリは話を続ける。


「サムスのいた部屋には他にも麻薬密売人と思われる死体がいくつか発見されており、サムスは麻薬取引の口封じを兼ねて殺されたと考えています」


それは違う、俺はユーリの言葉を内心否定する。

あの密売人の死体は俺と楓で殺したものだが、それは取引などの結果ではなく、単純に仕事のためだ。麻薬の流通で働けなくなる労働者が増えたことを嘆いた雇い主が、腐敗した治安維持局ではいくら頼んでも動いてくれないと、『黒龍』に麻薬の販売元を叩くよう依頼してきたからだ。そしてその掃除の場面をサムスに発見され、運悪く顔を隠していなかった俺を見てしまった彼は、消えてもらうしかなかったというのが現実の筋書きだ。まあ彼らには知りようもないことではあるが。


「これはデイティクラウド、ひいてはウィンデルの治安を守るための大事な任務です。我々の同胞が殺され、私たちが犯人を捕まえられないようものなら、他の犯罪者たちからも蔑ろにされ、更に犯罪を増やすのを助長することにもなりかねません。――そこで今回、ここ一帯で勢力を伸ばす犯罪者組織の一斉解体に乗り出します!」


『…!』


ユーリのこの言葉には教室の生徒達も驚いたようだ。ざわざわと波紋が広がるように教室にざわめきが起こる。

それを止めるのは壇上近くの上座に座るセシリアだ。


「――みんな。驚くのは分かるけど、最後までユーリの話を聞いて。これは今まで一番の大作戦になる大事な話だから」


公の場でよく使う理路整然としたハキハキした声ではなく、近しい友人に使う時のような温かみのある口調でセシリアは周りを宥める。俺たちの不安を和らげるためか。

その効果は抜群で、教室は再び静寂が支配する。かっちこっちと壁時計の秒針が嫌に大きく教室に響く。


「この作戦は以前から計画されており、今回を機に行うのが一番妥当であると判断し行うことに決めました。かなり危険な任務であり、我々からも少なくない犠牲者が出ると思われるため、今回は特例として任務を辞退することを許可します。今ここで任務を棄権するという者は教室を出て行ってもらって構いません」


ユーリが言葉を切るとまた静寂。ふと視線を感じそちらを向くと、セシリアと同じ方の席に座るスクルドと目が合う。


(逃げるなら今だぞ)


スクルドの眼はそう言っているような気がした。俺はその挑発的な視線に睨み返す。

確かにここまで来れば嫌な予感はする。そしてリスクを少しでも減らすなら俺が辞退するべきではないかということも。しかし、結局俺はそこを動かなかった。


『…いいのか?』


(デイティクラウドの動向は常に把握しておきたい。それに、ここでびびって退いてたら世界征服なんて夢のまた夢だ)


『はっ、違いねえ』


最初と同じく周りを見まわし、誰も退出する意思がないということを確認するとユーリはしゃべり始めた。


「――では作戦について説明します。今回の作戦目標は、犯罪組織の有力勢力の一掃、及びその頭目の処分です」


処分、という言葉に教室に緊迫した空気が流れる。その言葉の意味するところを理解し、今までの任務との違いを改めて感じたのだろう。

ユーリはなおも続ける。


「今回対象となる勢力は二つ。半年ほど前から頭角を現し、その構成員の多さと徹底した情報統制で尻尾を掴ませず勢力を広げる『シャドウアイ』。頭目は未だ謎の多い《嗤う影法師(ラフ・シャドウ)》。ランクはA+」


そして、とユーリはやはりというか、その言葉を口にした。


「もう一つの対象は――『黒龍』。この一ヶ月少々で『シャドウアイ』を除くほとんどの組織を壊滅させた武闘派組織です。構成員は確認されている限り少数ですがBランクの《剣鬼》がいたりと底知れない組織です」


「なにより――」


ユーリの言葉に続けた人物に、一斉に周りは視線を向ける。

その人物――セシリアは立ち上がり壇上に上がると、目元を鋭く細めて言った。


「頭目と見られる《黒龍(アンカラゴン)》は以前にも報告に上がった難敵。AAランクの彼に対抗できるのは学園でも優秀な者が集まるこの中でもほんの一握りでしょう。だからこそ、そんな人物が未だ野放しになっていることはこれ以上看過できない状況なのです」


「…」


そこでセシリアと目が合う。彼女は力強く頷いた。


「どうか皆さん、誇り高き学園の生徒として、この街を守りましょう!」


『おおっ!』


力強い返事。俺もちゃんと声を出せていただろうか。突然圧迫するような閉塞感を感じ、教室から今すぐ飛び出したい気持ちに駆られる。

では詳細は放課後、ユーリがそう締めくくり、周りが席を立ち始めたとき、俺はすぐさまデイティクラウドの教室を後にする。

教室の方とは逆方向のトイレに入った所で、やっと一息吐く。誰もいない忘れ去られたようなこの空間が塞がれていた胸のつかえを少し良くする。


『慌ててこんな所に来て、一体どうしたんだよ主様?』


「…いや、あの部屋には敵しかいないってのを今更ながらに痛感してな」


『なんだよ、ブルっちまったのか?』


「誰が――」


俺は拳を握る。目の前の鏡に映る俺は拳をこちらに突き出している。


「上等だ。デイティクラウドを俺たちの下に置くことが出来ればウィンデルは事実上俺たちが支配できるようなモンだ。ユーリの言葉じゃねえが、今回を機にそれを実行に移すのもいいだろうな」


『皆殺しにするのか?』


「それじゃただの破壊と同じだ。流れは…ッ」


足音が近づいてきた。こんなのを聞かれて俺の正体がばれた暁には恥ずかしすぎて楓たちに顔向けできたもんじゃない。俺は何食わぬ顔でドアを開け、トイレを後にする。


(放課後にデイティクラウドの作戦を聞いて、それを基に楓たちと対策を練るか)


そんなことを考えながら、俺は力強く、歩を進めた。


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