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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
束の間の平穏
47/64

宴の夜

「それでは!!これよりシュウ・タチバナ君の入隊を祝して、歓迎会を行いたいと思います!!皆様お手元にグラスはお揃いでしょうか?ーーそれでは、乾杯!!」


『かんぱーい!!』


合唱と共に、それぞれのグラスを傾ける。

学校から歩いていける距離にある一軒の居酒屋で、現在俺のデイティクラウド入隊の歓迎会を行っていた。

この世界では18歳から成人扱いになるため、皆が今呑んでいるのもアルコール類だ。


俺も汗かいたジョッキに並々と入った黄金色の液体をごくごくと喉を鳴らして飲み干す。模擬戦の後の疲れた体に入るビールはやはりといっていいのか、美味い。昔仕事から帰ってきた親父が、毎日のように缶ビールで喉を鳴らす姿を見ていたが、なるほど、この美味さ確かに癖になりそうだ。


「かーっ!勝利の美酒ってやつか!うめえなオイ!」


「…ブラート。なんでお前までいる」


隣で中年のオヤジのような声を出す大男に俺はジト目を向ける。

しかしブラートはそんな視線を軽く受け流し、上機嫌に語る。


「なんでってそりゃお前、俺がお前を勝利へと導いた影の功労者だからだろうよ!裏のキャプテンって奴だな!」


「それはなんか色々違うし、だいたいお前はクレイモアを貸しただけだろ」


「ーーそのクレイモアを粉々にぶっ壊した挙句、修繕不可能で廃品にしたのはどこのどいつだよ?」


「…」


そこを突かれると痛い。


「お前の分は俺が出しておく。今日は好きなだけ呑んでけ」


「へへっ、最初から素直にそう言えばいいのよ。ーー姉ちゃん!生追加!」


「はぁいただいま!」


スクルドの山嵐をモロに受けたブラートのクレイモアは柄の部分がどこかも分からなくなるようなレベルで木っ端微塵になり、結果的に俺は彼の得物を壊してしまった事になる。

それでも試合が終わった後、ブラートは恨み言一つ言わず「見せてもらったぜ、お前の漢ってやつをよ」と一言、それだけ言って笑いかけてくれた。

あの懐の深さに報いるならばこれくらいの出費は痛くはない、そう思えるほどに、ブラートという男は漢だった。


「お待たせ致しました。生一つでーす!」


「お、待ってました!シュウ、お前もついでに注文しといたらどうだ?」


空になった俺のジョッキを見てブラートが言う。


「そうだな。じゃあ俺も生を一つーー!?」


そこで店員に顔を向けた俺は硬直した。

少し小柄な体型に栗色の髪のその店員は我が『黒龍』の妹分、シーナ・ルーキだった。


「はぁい、少々お待ちくださーい」


シーナは固まる俺ににこりと微笑むとそそくさと厨房の方へ消えていく。それを見たブラートが顎をさする。


「今の娘すげえ可愛いよな。学園の生徒かなあ?」


「さ、さあな…。学園で見たことは無いな…」


「…かなりタイプだし、ちょっとこの後でも声かけてみるか」


「…幾らお前でも、まだあいつは渡さねぇぞ。どうしても欲しいっていうなら…かかって来い」


「急にどうした!?スクルドと闘ったときくらい気迫篭ってんじゃねえか!」


俺がカウンターから立ち上がり構えると、ブラートはドン引きしたように仰け反る。…これくらいで諦めるような男に、うちの妹分は渡せねえな…。


「集、ここは皆が楽しむ酒場です。他人に迷惑をかける不用意な行為は慎みなさい」


「…楓、お前もか」


そして集に当たり前のように注意したのは、カウンターの逆サイドで静かに徳利を傾ける楓だった。珍しく髪を後ろで結い、その上で伊達眼鏡を付けている。


「…てか、ここ日本酒あんの?」


「いえ、持参しました」


「家で呑めよ!」


この店来た意味ないだろ!てかシーナもあいつ摘み出せよ!心の中でそう怒鳴る。


『今日の主様はテンション高えな…。酒入ってるからか?』


カリラが辟易とした感じでつぶやくが、俺はスルーする。楓に言いたい事があったからだ。ブラートに聞こえないひそひそ声で言葉を交わす。


「お前は自分がどういう状況か分かってるのか?一部にはお前の顔が割れてんだ。ばれたらどうするんだ?」


「抜かりありません。お前にはこの変装が分かりませんか?見破れるのはおそらくお前だけです」


「その格好変装のつもりだったのか!?軽くイメチェンしただけかと思ったぞ!」


「し、失礼な!確かに付け髭まで付ければ完璧だったでしょうが、これだけでも十分に変装出来ているはずです!実際、先ほどグラウンドで話したそこの男にはバレる事なくーー」


「あ、よく見ればアンタ、さっき校庭で話したシュウの知り合いの人じゃん」


「…」


俺と楓の間に突如訪れる静寂。周りで騒ぐ人達の声がやけに遠く聞こえる。

するとそれまで経過を見ていたらしいシーナが俺たちの所にやってきた。


「大丈夫だよお兄ちゃん。楓さんには『認識阻害』の魔術をかけておいたから。周りにあまり注意を払わない酒場で、しかも皆酔っ払ってるから、滅多な事では気付かれないと思うよ」


「…ッ。だが、その滅多な事が起こらないという保証も…」


「お兄ちゃん。学園の付き合いもあると思うけど、楓さんだってお兄ちゃんと一緒に過ごしたいって思ってるんだよ。最近のお兄ちゃんはただでさえ忙しいんだから、こういう機会でもないと一緒に過ごしてはくれないでしょ?それならこういう時くらい、いつもの分の埋め合わせをしてくれてもいいと思うな」


「…」


シーナの言葉に俺は黙り込む。確かに、最近の俺は目の前の事に集中して取り組むあまり、皆の事をあまり考えられていなかったかもしれない。俺の事を好いて付いてきてくれているのにそれでは確かに申し訳ない。


シーナの顔を見る。成長したな、と改めて実感する。そしてくるりと楓の方を見た。


「…楓、邪険にしてすまなかった。いつか一緒に飯でも行くって約束してたしな。今日は俺が払っておくから、お前もバレない程度で楽しんで行ってくれ」


「集…」


ハッとしたように俺を見る楓。それを暖かな目で見守るシーナ。いい仲間を持った、そう実感したときだ、それを眺める外野からの視線に気づいた。


「…じゃあ、俺は邪魔なようだしどっかで呑み直してくるわ…」


「ちょ…待てって!悪かった。のけ者扱いして悪かったから座れって!」


気落ちしたブラートの機嫌を直すのは存外難しく、彼がナイーブだという事がこの日わかった。





「どう、楽しんでるシュウ?」


それから数十分したあたりだろうか。俺の隣にセシリアが腰を下ろした。手には甘い匂いを放つオレンジ色の液体。ファジーネーブルか。


「…ああ。こんなに楽しい酒は久しぶりだ」


先ほどから何人かが交代交代で俺の隣に座ったが、皆気の良い連中ばかりだった。全員がスクルドのような格式張った奴らとばかり思っていたが、それはどうやら杞憂だったようだ。


「そういえばスクルドは…」


「呼んだか」


「…気配を殺して後ろに立つのはやめろ」


突然後ろから聞こえた声に、思わず身構えかけてしまった。スクルドはそんな俺を鼻で笑う。


「ふん。この程度の隠密も見破れないとは、やはりまだまだだなタチバナ」


「ああ?さっきグラウンドでのびてた奴がよく言うぜ。てめえは鶏かよ」


「…やるか?」


「上等だ」


「もう、やめなさいっ!」


殺伐とし始めた俺とスクルドの間にセシリアが割って入る。


「二人とも戦いが終わった時はもっと『お前やるな』『お前こそ』的な空気になってたじゃない!なんで時間が経ったら元に戻ってるのよ!」


「そりゃお前、俺たちがお互いに」


「お互いを嫌い合っているからですよ」


「息ぴったりじゃない!」


セシリアのツッコミも俺たちは意に介さない。こいつとは根本から合わない、いわば天敵。出会ってしまえば闘うしかないのだ。

しかし楓が先ほど言ったようにここは酒場。

ならばと俺はスクルドに提案する。


「おいスクルド。だが今はお互い消耗している。これ以上の消耗は明日からの仕事に支障をきたす。ーーそこで提案だ。幸いここは酒場。なら今回は飲み比べで勝負と行こうじゃねえか」


「…ふ、君にしてはなかなか良い提案だ。いいだろう。その勝負、受けて立つ」


「ちょ、二人とも!勝手に話を進めないで!今日はシュウの歓迎会なの、もっと楽しく呑みましょうよ!」


盛り上がってきたところにセシリアから横槍が入る。

いくら上司でも、漢の闘いに水を差すのはよろしくない。俺たちは同時に顔を向ける。


「セシリア様。邪魔をしないで頂きたい。これは男の勝負。幾ら貴女様でもこればかりは止められない」


「こいつの言うとおりだ。これは平等な真剣勝負。言うことを聞かせたいなら俺たちに勝ってからにしな」


「〜〜〜〜もうっ!どうしてそういう時だけ息が合うのよ!」


セシリアが悔しそうにしていると、そこに逆サイドから楓がやってきた。


「話は聞かせてもらいました。なんでも勝てば集に言うことを聞かせられるらしいですね。この勝負、私も混ぜていただきます」


そして驚きの参戦宣言。流石にこれには俺も首を振った。


「…お前はやめとけ」


「…そうやって、やはりお前は私だけ除け者にしようとするのですね」


「いや、そういうわけじゃあ…」


「ーー勝負は真剣にして平等。そう言ったのは私達じゃないか。いいだろう、彼女も迎え入れようじゃないか」


「ッ!お前…!」


そこで楓に意外なところから援護射撃が入る。スクルドは、両手に持った並々と注がれたジョッキの片方を、楓へと差し出す。


「男尊女卑の時代などとうに過ぎ去った考え方さ。それにタチバナ、一度吐いた言葉には責任を持つとは、お前が言った言葉だろう?」


「ぐっ…」


確かに俺は言うことを聞かせたいなら勝負に勝ってからにしろとは言ったが…。苦虫をすり潰したような表情でいると、思わぬ二人もやってくる。


「面白そうな事になってるね〜。それなら私達も混ぜてよ!」


「わ、私まで巻き込まないでください!私はただ兄さんの様子を見に来ただけで…」


「ーーッ!」


やってきたのはデイティクラウドに入った意義とも言える、復讐を遂げたい相手。ララとユーリだった。

ララは気さくに話しかけてくる。


「ちゃんと喋るのは初めてだね。私はララ・ブリッツで、こっちがスク兄の妹のユーリ・アイギス。これからよろしくね、シュウ君?」


「ユーリ・アイギスです。よろしくお願いします」


「…あ、ああ。よろしく」


間近で見ると、やはり彼女らにはあの日みた姿の面影がある。ユーリはあの時よりかなり身長も低く、発育途上と言う体型だが、8年後にはララと並ぶ身長にまで伸びるということだろう。


やってきた二人に、セシリアは慌てて問いかける。


「も、もしかして二人もやるの!?」


「うん!なんだか楽しそうだし!」


「…はぁ。どうやらララは是が非でも私も参加させるつもりなようなので、あまり得意ではありませんが一応参加だけは…」


「セシリアは参加しないの?」


その純粋なララの疑問に、セシリアはうぐっと息を詰まらせる。どうやら彼女も少し乗り気になってきていたらしい。目を逸らしながら、おずおずと言う。


「ま、まあ、皆が学生にはあるまじき要求をシュウにするかもしれないし、仕方ありません。仕方ないですが私も参加しましょう」


仕方ないを強調し、セシリアが参加を表明すると、周りがおおーっと沸く。ところでセシリアは何故理屈をごねるときは敬語を使うのか。


「ふん、シュウ!俺が勝ったらお前には新しいクレイモアを勝ってもらうからな!」


「…当たり前のようにお前も参戦するのな」


ブラートが俺を指差しそう言ってきたので俺は半眼を向ける。途中からあまりの存在の無さにこいつのことをすっかり忘れてたぞ。


そして当初はスクルドとの一騎打ちだったはずの飲み比べは結果的に、参加者は俺、スクルド、楓、ララ、ユーリ、セシリア、ブラートとかなりの人数になってしまった。そして勝った者にはシュウ・タチバナへの何でも命令権を一つ。どうしてこうなった。


だが決まってしまったものはしょうがない。俺は腹をくくると、キンキンに冷えたジョッキを片手に持った。審判として呼ばれたシーナは始めますよー、と声をあげる。


「シュウ、君だけには負けないぞ」


「だからって呑みすぎないでくださいよ兄さん」


「金貨二枚のクレイモアは俺の資金では手が届かん…。ここでなんとしても勝つ!」


「…」


「(この人、凄い美人…。学園では見たことない生徒だけれど、まさかシュウの彼女…。いやいや、なんでショックを受けてるの私!)」


「うーん、ワクワクしてきた!セシリアもそうでしょ…って、どうしてそんな深刻な顔してるの?」


「…ふぅ」


俺は呼吸を整え開始の合図を待つ。そのときぼそりとカリラが言った。


『…なんだよ主様。あんなこと考えてた割には思ってたより楽しんでるじゃねえか』


その言葉はどこかほっとしたような口調で、俺はそれがむず痒く、聞こえないふりをした。


シーナがそれでは、と手を振り上げる。


「勝負〜、はじめっ!」

御意見御感想お待ちしております。

飲み比べ、詳細を書こうかどうしようか…。

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