剣士の魂
次回が相当長くなるので、今回は短めで一旦切りました。
勝負の放課後、決戦のグラウンドに向かう前に、俺はCクラス一組の教室に来ていた。無論Cクラスが恋しくなったとかそんな理由ではない。目的の男を見つけると俺は片手を上げて声を掛けた。
「ようブラート。まだお前が学校にいて助かったよ」
「誰かと思えばシュウか。なんだ、まだ一緒に帰るほどお前とは仲良くもねえだろ」
つっけんどんな物言いではあるが、ここまでハッキリ言われると逆にすがすがしく感じる。やはりこいつはとは反りが合いそうだと思いながらも、時間がないため率直に用件を言う。
「今からちょっとの間、お前が背負ってるそれを貸してくれ。礼は今度必ずする」
「あ?お前、これのこと言ってんのか?」
ブラートは視線を後ろに向け、彼の大柄な背中を隠さんばかりの長大な得物を指さす。
そう、俺が今回ブラートに頼むのは彼の大剣を貸してもらうことだ。正直な所、別にブラートの剣でなくても良かったが、いかんせんCクラスの知り合いの武器ではこれから始まる闘いでは心もとないため、唯一Bクラス(元だが)の友人であるこの男を訪ねてきたというわけだ。
しかし、自らの得物とは武器のレベルに関わらず自分の半身のような物。ちょっとやそっとでは貸してくれるどころか相手にもされない。ブラートも案の定警戒したように鋭い目を向けてくる。
「わかってるとは思うが、剣は剣士の魂だ。それを貸すってのは相手への信頼と相当の覚悟が無けりゃ出来ねえことだ。大体お前は魔法使いだし剣なんて使わねえだろ。一体何に使うつもりだ?」
「――Aクラスを倒す。そのためにはお前の魂が必要なんだよ」
俺の答えにブラートは瞠目する。それから気を疑うように俺の顔をじっと見つめる。
「…正気かお前?昨日の今日Bクラスに入ったばかりの奴がAクラスの奴倒すなんて相当の馬鹿でもなけりゃ考えねえよ。そういえばさっき教室でそんな話をすると聞いたがまさかそれお前だったのかよ。ちなみに、Aクラスの誰とやるんだ?」
「スクルドってやつだ」
次の瞬間、ブラートは素っ頓狂な声を上げる。
「かぁー!あの《疾風迅雷》のスクルド・アイギスかよ!Aクラスでもトップ層の奴じゃねえか!」
「…アイギス?あいつもアイギスと言うのか?」
ブラートの言葉にひっかかりを覚え、俺は正直に疑問を口にする。ブラートはああ、と頷く。
「多分お前が連想していることは正しいぜ。スクルド・アイギスは、同じくAランク上位層の妹、ユーリ・アイギスとは兄妹関係にある。まああれだけ強くても、妹の方が強いって言うのも皮肉な話だけどな」
「そうか…、あいつ、あの女の兄か…」
確かに、今思い返せば、髪の色や顔の輪郭といい、どことなく似ている気がする。しかしこれで、俺にとって負けられない理由がまた一つ出来た。直接の復讐の対象ではないとはいえ、ユーリを殺そうとするならばいずれ障害となりえるかもしれない。俺が超えるべき相手の一人というわけだ。
心に決意を宿し、強い瞳でブラートを見据える。
「吐いた言葉は死んでも貫き通すってのが漢の道理だ。そのうえで俺はスクルドに勝つ。もし負けたら俺の命でもなんでもくれてやるよ。――ブラート、お前のその眼よおく開けて、集って漢を見定めろ」
「…ふん、なかなか言うじゃねえか」
ブラートは俺からの視線を真っ向から見つめ返すと、やがて背中に背負っていた大剣を鞘ごと外して手に取ると、こちらに差し出した。改めてみるとその長大な剣の刀身は、下手をすればシーナの肩幅近くはあるのではないかというほど異様に太く、長さも一メートルは超えるであろう巨大さだ。
「ほらよ、なんの銘もないクレイモアだが、そこらで出回ってるやつとは切れ味も硬さも段違いで違うはずだ。魔法使いのお前が何に使うかは知らねえが俺の魂預けたんだ。無下に使ったらただじゃおかねえからな」
「…ああ、ありがとう」
俺はブラートからクレイモアを丁重に受け取ると、背中に背負う。ブラートは剣の切っ先が膝上くらいの所にきていたが、俺の上背では踵より少し上あたりのところまで来ていて、下手をすればひきずってしまいそうだ。
「見た目お前はけっこう体引き締まってるし、そこそこ力はあると思うがなんせ俺のクレイモアは二十キロはある代物だからなあ。普通の剣みたく振り回せるとは考えない方がいいぜ」
少し心配そうに忠告するブラートに、俺は曖昧な笑みだけを返した。彼は知らないから当然なのだが、それは日本から転移して来た集にとって、全く的外れな質問だったからだ。
次回は長くなりそうです。




