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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
始動する黒龍
42/64

指針

「私は反対です!」


アジトへ戻ったあと、事の経緯を聞いた楓の第一声はその一言だった。

俺は腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかる。


「…まあそういうだろうとは思っていた」


「当然です!ただでさえAAランクという高ランクに認定されたことでお前が狙われる可能性が高まっているんですよ?そのうえで目下最大の危険因子となろうデイティクラウドの部隊に入るというのはリスクが高すぎます!」


街や国によってランク付けされた奴らには、それぞれレベルに応じた懸賞金が掛けられる。ランク付けされるということは、それだけ賞金稼ぎなどに狙われる確率も高くなるということだ。


「でも、その危険勢力の部隊に入り込めるっていうのは相当見返りも大きくないっすか?デイティクラウドのメンバーのレベルとか、いつ襲撃するのかとかもわかりますし」


そしてアレンが口にした言葉もまた事実だ。しかし楓はそれを即座に否定する。


「考えが甘いですよアレン。集がデイティクラウドに入るということは、集自身もその活動に参加せざるを得ないということ。下手をすれば、集が私たちと闘うという事態になる可能性もあるのですよ」


「あー…、なるほど…」


アレンは納得したようにうなずく。そこで今まで静観していたシーナが口を開く。


「それで、お兄ちゃんとしてはどうしようと思っているの?」


「…まだ考えているが、俺はこの話、乗ってもいいと思っている」


「集!?」


楓が驚いたようにこちらを見る。


「正気ですか!?どう考えてもリスクとリターンが見合っていません。考え直してください!」


「確かにさっきの話だけで言うならそうだが…、もう一つ、俺にとって大きな見返りがあるんだよ」


楓が眉を寄せる。訝し気に「それは?」と問うてきた。


「――親友の仇を取れることだ。デイティクラウド内に、俺の街を滅ぼした奴らのリーダー格がいやがった。あいつらだけは、何があっても殺す」


感情を込め過ぎたせいで、語尾が少し震える。抑えきれない憎悪の籠った言葉にアレンとシーナがぶるりと震える。

楓が言葉を選ぶように慎重に言う。


「…また復讐の道に堕ちるつもりですか?」


「そのつもりはねえよ。お前と再会してからは、本当の俺のやるべきことも見つかったしな。だが、今回ばかりは別だ。『ゲート』を開いた魔法使いの女とあの二人…、あいつらだけはこの手でケリをつけてやる」


胸の前で拳を握りしめる。楓は複雑そうに目線を下げる。事情だけは知っているシーナも暗い表情だ。その中で何も知らないアレンだけが話しづらそうにえーと、と切り出す。


「結局は、その兄貴は仇を取るためにデイティクラウドに入る、ってことですか?」


「ああ。その分お前らにも負担が増えるだろうが、許してくれるか?」


今回の件は完全に俺の私情に周りを巻き込む形になる。誰か一人でも猛反対するならば素直に引き下がろうと考えていたが、楓は仕方がないとばかりにふうと肩をすくめた。


「お前が頑固者なのは知っています。どうせこれを却下しても違う方法で復讐を果たすつもりでしょう。それならば、まだ比較的メリットもあるこの案に私は従いましょう」


「楓…、すまん」


俺は感謝の意を込めて頭を下げる。楓は照れたようにぷいとそっぽを向いた。


「お兄ちゃんと楓ちゃんが決めたことなら私はそれを手伝うだけだよ。とはいっても、私に出来ることなんて数えるくらいしかないけどね」


「俺も兄貴達が決めたことに異論はないっす!」


シーナとアレンもそれぞれ賛同してくれる。いい仲間を持った、俺はそれを実感すると共に、こいつらをむざむざ死なせないようにしないと、とより一層気持ちを引き締めた。


「ありがとう。それじゃあ明日、早速セシリアに掛け合ってみるよ」






「ならば前の約束通り、私と闘ってもらおうか」


翌日、セシリアに入隊を希望する旨を伝え、セシリアが喜んで二つ返事で了承しようとした瞬間、どこからかすくりと細身の男が現れそう言った。勿論相手は昨日の男、スクルドだ。やはり来たかと俺は心の中で舌打ちする。


「…スクルドさん。その話は昨日無かったことにすると私は言ったはずですが?」


「はい。しかしセシリア様。精鋭部隊であるデイティクラウドに入るならばやはりそれなりのレベルの実力が必要になります。いくらセシリア様の推薦とはいえ、昨日の今日Bランクに上がったばかりのひよっこでは、私たちも背中を預けることは出来ません。入るならばそれなりの力というのを見せていただかなければ…」


そう言ってスクルドはちらりとこちらを見る。その眼には明らかな敵意が宿っている。どうやら昨日床に組み伏せたことがまだ尾を引いているらしい。禁止していた体術も使ってしまったし、本当に余計なことをしたものだ。

それでもなお反論しようとするセシリアを俺は手で制す。


「わかった。模擬戦でもなんでもやってやるよ。その代わり、俺が勝ったらここに入るってことでいいんだよな?」


その言葉に、セシリアも含め近くで話を聞いていた生徒全員が慌てたように俺の顔を見る。

対峙するスクルドも片方の眉をぴくりと上げた。セシリアが珍しく慌てたように言う。


「勝つって本気なのシュウ!?あなたはスクルドを知らないの!?」


「まあAクラスの奴ってことくらいしか知らねえけど…、俺の手の届かないレベルではないだろ」


「…貴様、今の言葉、撤回するなら今だぞ」


唖然とする周りの中、話の中心であったスクルドだけが静かに言う。しかし、その言葉の端々には、隠しきれない怒気を孕んでいる。それはそうだろう。明らかに格下である俺にさほどレベルが変わらないと言われれば、プライドの高い貴族ならなおさら癪に障るだろう。


(だが、これくらいで躓くようじゃ、セシリアには届かない)


俺は横で狼狽えるセシリアを見る。案ずるようにこちらを見る彼女と、いつかは真正面から対峙することがあるかもしれないのだ。


「…吐いた言葉には責任を持つ。それが漢ってもんだろ?」


「…いいだろう。では今日の放課後、第三グラウンドへ来い。今の言葉、後悔させてやる」


そう言ってスクルドは俺の横を通り抜け廊下へと歩み去っていく。

それを確認した途端、セシリアはものすごい剣幕で詰め寄ってくる。


「ちょっと集!なんであんなこと言ったの!?本当ならあなたの前回の入れ替え戦の映像を見せて、後は私の言葉で無理やり納得させるつもりだったのに!」


「そんな計画だったのかよ…」


怒るセシリアを宥めると、セシリアは切り替えたようにこちらをきりっと見据える。


「まあ言ってしまったものはしょうがないわ。スクルドは強敵よ。普通に考えればBランクに入ったばかりのあなたじゃ勝ち目は無い相手だけど…。それだけ自信のある顔をしてるってことは、期待していいのね?」


俺の瞳を覗き込み、笑みを浮かべたセシリアに、俺はただ不敵な笑みを返した。


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