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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
バリアハールの剣鬼
25/64

正体

すみません。あまりに長くなったので、一切らせてもらいました…。

「シーナ!」


俺はがくがくと震えるシーナを思い切り抱きしめた。ぎゅう、と強く、しかし優しく抱く。


「お、お兄ちゃん…。今、お父さんが、お兄ちゃんを…」

「…大丈夫だ。あんなのじゃ俺は死なない。落ち着け。ゆっくり、息を吸え」

「…」


シーナは頷き、ゆっくりと深呼吸を始める。ちらりと肩越しにアセムさんを見るが、何を考えているのか、手を出してくる気配はない。いつも見せてくれた、あの温和な微笑みを浮かべている。


(一体、どうして…)


「お兄ちゃん、もう大丈夫」


胸の中から声がして、はっと我に返る。下を見ればこちらを見返す瞳。そこには震えて心が壊れそうになっていたシーナはいない。

シーナは力強く言った。


「一度だけ、お父さんと話をさせて。お父さんの真意を、知りたいの」


俺の手をぎゅっと握るシーナ。「私に、お兄ちゃんの勇気を貸して」


「…分かった。ただこれだけは忘れるな。俺は何があってもお前を護る。その為に邪魔になる障害にあの人がなるとしたらそのときは…」


「…うん。分かった」


シーナは毅然と立ち上がった。そしてくるりとアセムさんの方を向く。

シーナが大きく息を吸う。繋いでいた手にきゅっと力がこもる。




「――さあ、お父さん!!今のはどういうことか、ちゃんと説明して!!今のがわ

ざとじゃなかったっていうなら、今日の晩御飯抜きで許してあげるよ!!」




そう、いつもの調子で会場中に木霊するような大声で叫んだ。しかし今日はより一層声がでかい。隣の俺はそのせいで耳がおかしくなりそうになる。

少し離れた場所で座っている坂本も耳を押さえている。


「~~ッ!なんなのですかそこの女は!さっきまで震えていたと思ったら、今度はいきなり大声を出すなんて!」


「もう!私はお父さんと話すとこなの!お姉さんは黙ってて!」


「なっ…」


坂本がまさかの反論にたじろぐ。このシーナの返しには俺も驚いた。まさかあんなに人見知りのシーナが、見た目からしてもう威圧感たっぷりな坂本に怒鳴り返すなんて…。


「わはは。少し見ない間に見違えたのおシーナ。一ヶ月前とは比べられもせん。それも、やはりシュウのおかげじゃ。お前さんには感謝せんとのお」


「ッ!話を逸らさないでお父さんっ!私は、なんでこんなことをするのかって聞いてるの!そんなことを言うならなんでお兄ちゃんを攻撃したの!」


「なんだ、そんなことか。簡単じゃよ。――その男がオークションをめちゃくちゃにしおったからじゃ」


『ッ!』


後半のアセムさんの声に、俺や坂本までが身構えてしまった。それほどまでに、敵意に満ちた低い声。今までのアセムさんからは想像も出来ない声だ。

シーナも今のは初めて聞いたのだろう。顔を引きつらせるも、懸命に言葉をつなぐ。


「そ、んな…。だっ、て、おに、いちゃんは、私の為に、必死に、」


「それが邪魔じゃと言うのじゃよ」


「ッ!」


「シーナよ。いい加減目を覚ましたらどうじゃ?現実を見よ。この状況で、お前の義父がなぜこんなことをするかなど一つしかあるまい」


「…嘘」


「攫われたとき、いくら何でもおかしいと思わなかったか?お前さんがシュウから離れたほんの僅かな間に狙いすませたかのような犯行。あの時点ではシュウが

一流の戦士だということはわしら以外知らん。普通ならもっと手っ取り早く強引に奪うなり諦めるなりするじゃろうよ」


「嘘よ…」シーナの声は既に細々と拙い。


「それによく考えてみよ。シーナ、お前さんはわしについて一緒に過ごした五年間しか知らぬ。わしの歳を覚えておるか?今年で六十三になるのじゃぞ?お前さんがわしの五年間を知っていても、残りの五十八年を知らないわけじゃ。それでなぜわしという人間が分かる?」


「もう…やめて…」


「いい加減認めよ。五年前、お前さんの父になったアセム・ルーキと言う男は、その時から――」


「やめて!!」




「そこまでだ」





「!」


俺の全速力の突きは、アセムさんの目の前で何かに阻まれて止まる。しかし、その拳の触れたところから、徐々にその何かに亀裂が走っていく。


「む!『流動(フロウ)』!」


それが完全に壊れる直前で、アセムさんの体は何かに引っ張られたかのように後退する。おそらく魔法の初歩的な移動魔法だ。拳はむなしく空を切る。


「おいおいいきなりなんじゃシュウ。今わしはシーナと話を――」


「聞こえていたはずですよ。俺は何があってもシーナを護ると。――いくらあなたでも、シーナの心を殺すことは赦さない」


シーナは既に蹲り、必死に嗚咽を殺そうとしているがあまり意味はない。これ以上聞かせるのは今のシーナには酷だった。


「…ほう。それじゃあやはりお前さんはわしの正体に気づいておるのじゃな」


「ええ。こうして出会わなければ気づくことは無かったでしょうが、さっきのあなたの発言で今までの事がつながった」


俺はシーナにはあまり聞こえないよう声を小さくする。


「…その言い分だと、わしはどこかで何か口を滑らせたかの?」


「引っかかったのは昨日の夜、シーナが攫われたことをアセムさんに話した時です。俺はそのとき、シーナが攫われたことしか話さなかったはずなのに、あなたは俺が坂本から訊いて知ったオークションが行われる日にちと時間帯を知っていた。普段俗世から離れた生活をしているあなたがそれを知っているのは少し変だった。まあ、そのときは俺もシーナの奪還に必死で、それを考える余裕もなかったわけですが」


「なんじゃ、それさえ言わなければ、もっとお前さんが驚いた顔を見れたのか」


失敗したのお、とアセムさんは自分のおでこを軽くぺしりとたたく。こういういたずらっこのような感じは相変わらず変わっていなかった。


「…と、するとお前さんはわしの正体には気づいたようじゃな。よし、当ててみよ。当たればわしの口から今シーナに伝えるようなことはせん」


その言葉に、俺は遂にその事実を口に出した。




「あなたは、自ら子供を育て、それを商品として売る――奴隷商人だ」





アセムさんが獰猛に笑った。


「ふん。正解じゃ。――それじゃあ褒美じゃ。受け取るがよい!」


アセムさんは持っていた杖を一振りする。するとそこには炎で形作られた無数の刃が出現する。それらは一斉に俺に向かって疾走を開始した。


次こそオークション決着したいですね(断定できない

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