定まる決意
(ここで坂本の手を取れば復讐を遂げるのには大きく近づくが、おそらくシーナを救うことは出来ない。逆にこの誘いを断れば、坂本とは敵同士になる確率が高く、シーナを奪還するのも骨が折れることになるだろう)
どちらを取るにせよ、シーナを助けることは厳しい。それならばいっそ諦めて、坂本と復讐のみを目指した方が良いように思える。
「…立花、どうしたのです。迷うことなど何もないはずです。先ほどの女とて所詮は異世界人。私たちの復讐の対象の一人なのですから気にすることはありません」
手を取らない俺に疑問を持ったのか、坂本が言う。
その言葉に、俺はひっかかりを覚える。
(そうなのか?俺はシーナやアセムさんにも復讐するのか?)
異世界人だから。それだけの理由で、あの平和な家庭を壊すのか。この世界に来て死にそうになっていたところを救い、言葉も通じない俺を歓迎してくれたあの家族を。
「…違う」
「…?」
俺の呟きに坂本が眉根を寄せる。俺は顔を上げはっきりと言う。
「…ずっと迷っていた。この世界に復讐しようという想いと、命を救ってくれたアセムさんのような関係ない人を殺したくないという想い。どちらかを取ればもう片方を失う。その二択を今まで見ないふりをして先延ばしにしていた。だが、今アンタとのやり取りでようやく決心が着いたよ」
「そ、それではようやく復讐を遂げるだけに専念すると決めたのですね!」
坂本が勢いづいたようにそう言うが、俺は首をふる。
「違う。そもそも二択だと決めつけていたのがいけなかったんだ。街を護る。桐生と約束したこれを果たす。けど、中学の時、同じように桐生と死ぬまで破らないと約束したことがあった」
「…それは?」
「自分の正義を貫け。不器用で、下手くそな生き方でもそれだけは護り通そうと誓った。俺はこれを危うく破るところだった。俺は自分の正義を貫く。だから今の二択も、俺の正義に則って両方貫く」
「なっ…馬鹿な!それは矛盾している!その二つ両方を選択することは出来ないとさっきお前自身が言ったばかりではないですか!」
激昂する坂本。そんな彼女に、俺はまず一呼吸を置く。次に言う言葉の重さを自覚するよう。そして、それを貫き通すことを自分自身に誓うように、断固たる決意を持って告げた。
「――ファンタゴズマを征服する。この世界を手中に収めて、十年後の地球侵略なんて言う馬鹿げた計画を潰す。それが今後のこの世界での俺の為すべきことだ。坂本楓。その為にはお前の力も必要だ。俺に力を貸せ」
「…!」
そう、どこまでも尊大に告げた。坂本は驚いたように目を見開くが、すぐに激しくまくし立ててくる。
「…いろいろ言いたいことはありますが、なぜ私に力を貸せと命令口調で偉そうなのですか!斬りますよ!」
「十年以内に俺はこの世界の王になるんだぞ。今からでも上に立つ者としての態度を身に着けようかなと」
「まだお前の臣下になったつもりはありません!」
「これからなってくれるのか?」
「なりません!そもそも、この世界の王になるなど本気ですか!?何もかもを壊せばいい復讐とは違うのですよ!何か方法でもあるのですか」
「アンタ人の話聞いてたのか?今王になるって決めたんだから具体的な案なんてあるわけないだろ。これから考えていくんだよ」
「…ッ!そんなことでこれから十年以内に世界征服なんてできると本気で思っているのですか!!」
「――白狼と約束したからな。必ず、果たす。その為にも坂本、もう一度言う。力を貸せ。――俺を信じろ」
「…」
坂本は押し黙る。その双眼は値踏みするように俺の瞳をのぞき込む。俺は覚悟を示すように、精いっぱいその眼を見つめ返す。
先に目を離したのは坂本の方だった。
「…分かりました。お前の覚悟は充分に伝わりました」
「それじゃあ…」
「ただし、お前の覚悟は認めますが、力無き意思など、何の価値もありません。お前がこの世界を征服するというのなら力を見せなさい」
そう言って坂本はスカートのポケットから一枚の地図らしきものを取り出した。その中の四角の一つが、赤く丸で囲まれている。
「この街の地図です。赤く丸で囲まれているのが、あの女が売られるオークションが行われる建物の位置です」
「オークション?」
「さらった人を競りにかける、非公式のイベントです。このオークションにはこの辺りの盟主も客として多く来るので、この街の保安隊も実質黙認しています」
「…胸糞悪い催しだ」
催しの内容を想像して、激しい嫌悪感を覚える。ましてそんな中に売り物としてシーナがいるとなると見過ごせるわけがない。
「オークションが行われるのが明日の夜。それまでにここに来て、あの女を救出してみせなさい。無論そのときは私含め三十人以上の衛兵や用心棒がお前を殺そうとするでしょう。しかし、近い未来にお前が本当に世界を征服すると言うならば、これくらいの逆境、跳ね返して見せなさい」
坂本が鋭い眼光でこちらを睨む。要は俺が従うに値する器かどうか確かめるということか。
俺はその視線を正面から受け止め、啖呵を切る。
「上等だ。俺がお前の上に立つ人間にふさわしいかどうか、その眼でじっくり見定めるんだな」
「その威勢、せいぜい蛮勇にはしないでください。お前も私と同じ日本人。できれば死んでほしくはありません。無理だと思ったならば、諦めてこれからはひっそりと暮らすのもいいでしょう。…まあ、その眼は万が一にもそんなことはないと語っていますが」
そこで坂本は初めてふっと柔らかくほほ笑む。冷たい印象だけだった彼女のそのような表情を見ると、彼女が少し前まで俺と変わらない高校生だったという事を思い出す。
坂本は踵を返して去っていく。俺もそれに合わせて来た道を戻り始める。期限は明日の夜。それまでにやっておきたい事を考えると、あまり時間は無かった。
今回はタイトルに影響が出るような内容でしたが…タイトルはこのままで大丈夫なのかなーと我ながら少し思いました笑




