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FANTAGOZMA―空が割れた日―  作者: 無道
バリアハールの剣鬼
19/64

異世界に来た意味

俺がふっとんだ音で周りの店からなんだなんだと人が集まってくる。俺と坂本がこの世界では珍しい黒髪なのも理由の一つだろう。俺は目の前の少女をぎろっと睨む。


坂本楓。隣町にある有名女子校、蓬莱学園の生徒。お嬢様学校であることから何かとトラブルに巻き込まれやすい学園の生徒を、裏で守っていると言われている人物だ。直接やりあったことはないが、顔は何度か合わせたことがある。その凛とした態度は、まるで一本の刀を連想させ、そのイメージにそぐわない気概を持ち合わせているのだと思っていた。


(それが、どうして…)

俺は奥歯を噛む。


「坂本、どうして俺の邪魔をする!奴らは人さらいだぞ!」

「…」


坂本はじっとこちらを見据えたまま黙っている。その無表情からは、彼女が何を考えているのか読み取ることは出来ない。


「くそっ!」


とりあえず今はシーナを救うことが最優先。そう考えた俺は、坂本から目を外して走り行く人さらいを見た。あの程度の距離ならまだ追いつける。俺が足を踏み出そうとしたときだった。坂本が目の前に躍り出る。彼女の引き絞られた手の先には、腰にある刀――。


「…ッ!」


間一髪。抜かれた坂本の刀を、こちらも抜いた剣で防ぐ。がきいぃん、と金属同士がぶつかり甲高い音が鳴り、そのままつばぜり合いになる。周囲の見物人からおおっと声が上がる。


「お前…本気か?」


「私は冗談半分に刀など抜きません。それより、自分の剣を見た方がいいのではないですか?」


「…!お前のそれ、ポン刀か!」


彼女の得物は俺の無骨な直剣と比べてしなやかに反り、鋭い。坂本が持っているのは典型的な日本刀だ。見れば彼女の刀は俺の剣の半ばまで刀身が食い込んできている。凄まじい切れ味だ。このままでは剣が保たない。慌てて一旦距離を開ける。しかし相手もそれは読んでいたのか、素早い踏み込みから追撃の一太刀を放つ。


「ッ!」


俺の剣ではこの一刀をまともに受ければ防ぐことは出来ない。だからといって、衝撃を受け流したりできるほどの剣技も俺にはない。だからこそ俺は別の部分で対抗する。


(『補強(リインフォース)』)


補強の魔術を受けて、剣が淡く光る。次の瞬間、剣と刀が再び激突。先ほどとは違う箇所にまた刀が食い込むが、それはわずか数ミリで止まる。補強の魔術が効いたのだ。


「!」


坂本の顔に、わずかな動揺が走る。それは本当に一瞬の事だったが、俺はそれを見逃さない。


とん、と前足で彼女の足を払い。バランスを崩す坂本に肩から体当たりを入れる。


「ぐっ…」


坂本はうめき声をあげたが、すぐに俺から体を離し、距離を開ける。坂本の後ろを見れば遠のいて見えなくなろうとする人さらいの背中――。


「邪魔だ!」


俺は坂本へ向けて地面を蹴り上げる。すると地面が砕け、大量の粉塵が二人を舞う。身体能力が上がってからはこんなことも出来るようになっていた。この間に坂本の横を通過しようとした時、粉塵の中でまたも剣閃がきらめく。


「!?この砂埃の中で見えてるのかよ!」

「見えてはいません。あなたの足音で大体の場所を把握しているだけです」


まるでこちらが見えているかのように正確に繰り出される連撃。それをなんとか防いでいるが、こちらは相手が全く見えないうえに補強した剣で受けるのは流石に限界だ。粉塵を巻き上げたのが完全に裏目に出た。一度、攻撃を防いだ衝撃を利用して大きくバックステップする。


砂埃が収まり視界も晴れるが、既に人さらいの姿は跡形もなく消えていた。心を怒りと焦燥感が占める中、俺は目の前の少女に怒鳴る。


「坂本!お前、何故人さらいに加担する!あんな腐った性根を持つ連中の仲間になるようなお前じゃないだろ!」


制服についた砂を払いながら坂本は答える。


「当たり前です。本来であれば、あんな下衆な連中の護衛なするわけがありません。しかし今は護衛の仕事の最中。仕事の中に私情は入れません」


お互いに日本語で応酬するため、周りの見物人には俺たちが何を喋っているのか分からないのだろう。首を傾げ、あるいは巻き込まれてはごめんだと早々に踵を返して去っていく。


「仕事だと?お前、この街で仕事をしているのか?そもそもお前が何故この世界にいる」

「――バリアハールの剣鬼。用心棒から人斬りまで、何でもやる便利屋をするようになってからはそのように呼ばれています。そして二つ目の質問の答えですが、それはお前と同じような理由だと思いますよ?」

「…」


確かに、この世界にいる理由など一つしかない。そんなもの、俺と同じく魔法で転移したに違いない。それでも解せないことは多々ある。訊きたいことは山ほどあったが、今はシーナを救出するのが優先だ。


「答えろ坂本。シーナをどこへやった」

「…伊達の黒龍。お前とは直接話したことはありませんでしたが、ここまで気概のない男だったとは失望しました」

「なに?」


坂本が軽蔑したような目をこちらに向ける。


「お前はあの日の出来事を忘れたわけではありませんよね?なぜあんなことをしでかした異世界人の女をそうも助けようとするのです?」


「…あいつの家族に命を救われた。それに、異世界にいる人すべてがあの出来事に関係しているわけではないかもしれない」


「…世迷言を。そんなことは関係ありません。この世界にいる者すべてが私の復讐の対象です!お前も思い出しなさい!あの日、この世界から来た奴らに私たちがどんな仕打ちをされたのか!」


ここまで冷静だった坂本が初めて声を荒げる。その言葉からにじみ出る殺意に俺の心は揺さぶられる。俺はこの世界に来るとき何を誓った?死にゆく桐生に俺は何を頼まれた?


『そうだよ、やっと気づいたか。お前はあの家族にたぶらかされてたんだよ』


『いくら優しくても所詮は異世界人だ。地球の人間とは違う。お前はあの日殺されていった奴らの死に様を忘れたのか?』


その心の声に反応するように、脳裏に蘇るあの日の記憶。


希望を抱いた矢先、獣人に喰われた神崎さん。


屋上で選べるはずのない二択を迫られ、苦悩するのを獣人に嘲られながら死んでいった人たち。


グラウンドで亜人共に殺された人たち。


魔法使いと戦士に蟲のように殺された佐藤と桐生。


『そうだ思い出せ。お前は復讐するためにこの世界に来た』


『それが今はどうした。たった三ヶ月足らずでお前にはもうあの家族っていう楔が出来ちまった。そんな調子で本当に復讐を遂げられるのか?』


どんどんと口数が増えていく心の声。それは、俺の気持ちの変化の表れに違いなかった。


「そうだ…。俺は、復讐するためにこの世界に…」


「…そうでしょう。伊達の白狼とお前が仲間想いの男というのは有名な話でした。そんなお前に私も一目置いていた。だからこそ、あれだけの力を持っていながら異世界の者に執着するお前を見たときは失望した。…今からでも遅くはありません。私と共に本来の目的を果たしましょう!」


坂本が刀を鞘に納めると、こちらに歩み寄って手を差し出す。俺はその手をまじまじと見つめる。頭の中を様々な出来事がぐるぐると回っていた。


キリが悪い所で切ってしまいました…すみません

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