異世界での暮らし 3
序章を大幅加筆修正しました。よかったら見てください。
朝食をとったあと、昼までは再び薪割りをした。そこで一つ気が付いたことがある。それはこっちに来てからゴブリンを殴り飛ばしたときにも感じた、俺の異常なまでの身体能力の向上だ。
(やっぱりだ…全然疲れない)
地球にいた時も運動神経は悪くなかった。が、さすがに薪割りを3時間ほど休憩なしで続けることは出来なかっただろう。しかも今の俺は汗すら滲んで来ない。
お茶を持ってきてくれたシーナは驚いて、危うくお茶をこぼしかけた。
「うわわ!シュウさん。もしかして休まないでずっとやってたんですか!?」
切った薪を置く所には、既に薪が所狭しとと並んでいる。朝の時点ではもうほとんど薪が残っていなかったことを考えると確かに驚異的なスピードだ。
「今日1日はかかると思ってたのに…。シュウさんってすごい体力あったんですね!」
「あー…まあ、そうだね」
俺は曖昧に相槌を打つ。それを謙遜と捉えたのか、シーナから尊敬するような瞳を向けられる。さすがに照れるな…。
「とにかく。これくらいで薪は十分だと思うから、次は何をすればいいかアセムさんに聞いてきてくれないかな」
「あー、お父さんは昼まではこっちに来ないと思います。今は離れで仕事してますから」
「…アセムさんって、どんな仕事をしてるの?」
そう問うと、シーナは少し誇らしげに言った。「お父さんは薬師さんなんです」
太陽(あれが太陽なのかは分からないが)が真上を過ぎた頃、家にアセムさんは帰ってきた。
「ふー…。おいシーナ。昼ごはんにしよう」
「はい。もうできてるよ」
テーブルに次々と皿が並ぶ。これは…サンドイッチか。
三人で食卓を囲み、いただきますをしてからもしゃもしゃと食べ始める。アセムさんは少し疲れているようで昨日ほどの口数はない。
「あ、そういえばシュウさんが薪割り終わらせてくれたよ」
「?あの量を全て切るとなれば早くても夕方まではかかるじゃろう。この際じゃ、今ある分全部やってもらおう」
「違うの。その全部を、シュウさんはもう終わらせちゃったのよ」
「なんと!」
アセムさんは驚いてこちらを見る。少し気恥ずかしい。
この力の正体に、俺はある仮説を立てていた。月の引力は、地球の引力の約6分の1程度しかなく、人間はスーパーマンになれるという話は有名だ。今、俺はそのような状態なのではないだろうか。つまりファンタゴズマは地球より引力が低いということだ。
ただそう考えると、逆に重力がファンタゴズマより重いはずの地球で、何故あの戦士はあれほどまでに動けたのかという疑問も浮かぶが、なにせここは魔法がある世界だ。それも魔法を教えてもらう内に分かるだろう。
「…なかなかいい体つきとは思っておったがまさかそこまでとは…。かなり体を鍛えてきたようじゃのお」
アセムさんが感心したように頷く。俺の仮説が正しければ、鍛える云々は全く関係ないので、少し後ろめたい。
「いえ、そんな…。それでアセムさん。午後からは何をすればいいですか?」
「そうさなあ。まさかここまで早く終わるとは思わなんだし…。よし、4時まで休んでおれ。それまでにわしも今日の仕事を終わらせてーー約束通り魔法を教えてやるとしよう」
「ッ!ほんとですか!」
「嘘など言わんよ。ーーよし、そうと決まれば急いで仕事に戻るとしよう!」
アセムさんは残りのサンドイッチを口に放り込むと立ち上がる。それを見たシーナが嗜めるように言う。
「もう、お父さん!何か言うことは?」
「むごっ。…おお、そうだった。シーナ、ごちそうさま」
「はい、お粗末様」
シーナは満足気に笑う。(ちなみにお粗末様も朝教えた)そのあとは、シーナの手伝いなどをして時間が過ぎるのを待った。その間、俺があまりにも時計をチラチラと気にするものだからシーナも呆れるほどだった。
そして4時になり、俺の初めての魔法の修行は始まった。