始点
不意に意識が覚醒する。目を開けると、そこには草原が広がっていた。
「あ、ようやく起きたんだね」
声が聞こえる方へ顔を向ける。すると、一人の少女が立っていた。
銀髪碧眼。顔は氷を連想するような整った顔だが、笑顔が太陽のように眩しい。とても印象的だ。
「ここは、どこなんだ?」
「そうだなー、君たちの言う、《あの世》ってところかな。正式名称は《Heavell》って言うんだけどね」
「ヘイブル……」
「まぁ、今まで君が生きてきた《つまらない世界》よりは面白いと思うよ」
つまらない世界。俺はそう思いながら、死んだはずだ。
「残念ながら君はもう死んでいる。けど、この世界でもう一度生きることが出来る権利を持っている」
もう一度生きる権利。その言葉が、何故か突き刺さる。
「君は、本当に死を望んでいたの?」
この時、俺は何を考えていたのだろう。膨大な時間が、僅か数秒で流れたような息苦しい感覚が、全身を支配する。
気付けば立ち上がって、案内人と名乗った少女の胸倉を掴んでいた。
「……やめてほしいな。僕は別に、君と敵対するつもりはないよ」
はっとして、手を放す。
「すまない」
「いいんだよ。今のは君が心の奥底に秘めていた感情だからね」
「感情?どういうことだ?」
「うーん……そうだ、試しにやってみようか。とりあえず目を瞑ってみて」
言われるがままに、俺は目を瞑る。
「それじゃあ、今から言うことをそのまま実行してみて。絶対目は開けちゃだめだよ」
「……分かった」
「まずは、光を想像してみて」
「随分と抽象的だな」
「いいんだよ。君が思う、光をそのまま想像してみて」
そう言われても、と思っていたが、とりあえずやってみることにした。
光。まずは空から降り注ぐ太陽の光を想像する。
「次は、その光の中に立っている人を想像してみて」
まるで見透かされたようなタイミングで言われたが、それを気にすることなく続ける。
自分と同い年くらいの少女の影が思い浮かぶ。光のせいで細かい特徴は捉えられない。だが何処かで見たような容姿だった。
「最後に、その人を殺してみて」
人を殺す。そんなことが
「出来ない、じゃないよ。やらなきゃいけない」
やらなければならない。誰かも分からないような少女を、いきなり殺さなければいけない。
そんな状況があってたまるか。
気づけば俺は、剣を握っていた。
無色透明の刀身を持つ、長剣だ。
少女の影はただ動くことなく、じっとこちらを見ているように思える。
「何で、殺さなきゃいけないんだ?」
ふと思ったことを、呟く。
その時、どこからともなく声が聞こえる。
『お前自身が、助かるためだ』
何処かで聞いたような、忌々しい声。
それは、俺の心を掻き乱すには十分すぎた。
「っああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァァアアアアアアアア!」
絶叫。同時に俺は、剣先をその少女の心臓に突き立てる。
刺した時の音と感触が、聞こえたような気がした。
◆◇◆◇◆
気付けば俺はその場で倒れていた。
起き上がろうとすると、右手に何か乗っかっているのが分かった。
「おはよう。そしておめでとう。君はこの世界で生きる権利を得た。手に持っている武器が、その証明だよ」
鞘に入った、一振りの長剣。
鞘から抜くと、その美しさに目を奪われる。
刀身の先端は透明で、柄の方に向かって次第に血のような赤色に染まっている。その中に、無数の黒点が散りばめられていた。
「さて、ここで長話も無用だから、僕が住んでいる家に招待するよ。日が沈むまでに戻らないと。急ごう」
長剣を鞘に収めた瞬間、案内人の少女に手を引っ張られる。
俺は仕方なく、少女の後を追うように走りだした。