突然の死
私のことを知っている方は既に気付いているかと思われますが、「Assassin」の設定をそのまま持ってきています。
目標は完結。かなり長くなるかもしれませんが、不定期で地道に更新してきたいと思っています。宜しくお願いします。
八月のある日。
思考を苛む程の頭痛が襲い掛かる。視界は揺らぎ、全身が熱を持っていた。室温は三十度を超していたが、汗をかくことすらなく、むしろ身震いするような寒さを覚えた。
一人暮らしで、身動きすら取れない状況は致命的だ。俺は死を覚悟しながら、地獄のような痛みと熱さと寒さに耐え続けた。
意識が飛び、その度に数十分ほど時間が進む。しかし意識のある間は、一秒一秒が一分にも一時間にも思えるほど長い。寝ようにも寝られず、意識を保とうにも保てない。そんな状態が、ずっと続いていた。
「浩二ッ!」
どれくらい経っただろう。突如ドアが大きな音を立てて開き、聞き慣れた声が聞こえてきた。
幼馴染で、今住んでいるアパートの隣人でもある、桜木芽衣だ。
「待って、今救急車を呼ぶから……!」
そう叫び、持っていたスマートフォンの画面を素早く操作する。
そこで俺の意識は途切れる。
次に目覚めた時は、病室のような場所だった。
「……目覚めたか。確認だけさせてもらうよ。君の名前、フルネームで答えてもらえるかい?」
思考がゆっくりと動き始め、数秒経過してようやくその言葉を理解する。
「吉樹、浩二です」
「吉樹浩二君。意識の方は問題ないみたいだね」
白衣を着た、医者らしき男は気難しい顔をして話を続ける。
「時間もないから、落ち着いて聞いてくれ。単刀直入に言うと、君はもうすぐ死ぬ。残念ながら現代の医学では手の施しようがないんだ。今は熱も下がって落ち着いているが、もうじき全身が張り裂けるような痛みが襲ってくる。その前に、安楽死をお勧めしたいんだが、どうかね?」
俺には事情があって親族がいない。仲のいい人間も、芽衣を含めても数人程度だ。
後悔、未練と言ったものは最初から持ち合わせていない。死にたいと思ったことも一度もなかったが、どちらにせよ死ぬのであれば、楽に死にたかった。
「お願いします」
白い病室の壁。室内に漂う消毒薬の匂い。自分がこの世界で見る、最期の光景。
誰にも悲しまれることなく、嬉しがられるようなこともなく、ただ世界から忽然と消え去った、一人の大学生。
名前は吉樹浩二。年齢は十九。性別は男。
最期に何を思ったのかは、彼も知ることは無い。
◆◇◆◇◆
「冷凍槽へ送る。個体識別コードは、37564」
《コード:37564》《認識》《登録完了》
《コード:37564の記憶領域の改竄、及び[Heavell]への情報転送開始》
《ゲート解放開始》《転送終了まで、残り40秒》
死体となった浩二が置かれているベッドが、床に敷かれていたレールの上を動き始める。重々しい音を立てて部屋の奥に現れた穴の中に、まるで吸い込まれるようにして運ばれていく。
そして姿が見えなくなると、その穴は再び重々しい音を立てて閉ざされる。
浩二が運ばれた病院の地下で、先ほどの医者らしき男は笑みを浮かべた。