表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ワンライ自選集

メモリー:    

作者: yokosa

【第3回フリーワンライ】

お題:切り取り線


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

 巨大なモールのワンフロアを占拠するブティックへと女が入って来た。

 若い女だ。ショートヘアの金髪を快活に揺らし、前後に突き出した胸と尻を見せつけるように歩く。

 煌びやかなアクセサリーの棚を通り過ぎ、ふくよかに漂うコロンの香りを掻き分け、ゴージャスな洋服にも目もくれない。

 彼女が一目散に目指す先には、華やかなブティックに似つかわしくない一角があった。

 目もくらむような純白のコーナーは、ブティックというよりも、むしろ――無機質な病院のようであった。

 病院様のそこには大小無数のショウケースが陳列され、そこには……

 鼻、

 耳、

 首、

 胸、

 腰、

 腕、

 足、

 手、

 指、

 そして顔。

 無数の人体のパーツが整然と並べられていた。


 遙かな未来――

 技術文明の進んだ人類は、自らの身体をパーツ化することに成功していた。それら人体のパーツは半機械化され、外部に補助が必要であるとはいえ、パーツ単体で新陳代謝を行って「生きる」ことが出来た。

 身体の一部を好きなように付け替えることが出来る。

 それによって起こったのは身体のファッション化であった。

 その日の気分で口紅を変えるように――血色良く見えるようにチークを散らすように――快活な印象にするために髪を結い上げるように――華やかさを演出するために胸元にブローチを付けるように――異性を引き寄せるために胸元を開け、スカートの裾を上げるように。

 鼻を、耳を、首を、胸を、腰を、腕を、脚を、手を、指を、それらを自在に付け替えるようになった。

 その時代の人類の身体は、あたかも見えない切り取り線で仕切られているようだった。勿論、切り取り線で繋がれた部位は付け替えたパーツだ。

 そうしてファッション化した人体のパーツは、ファッションショップであるブティックの領分である。だから香水や服などと一緒に、人体のパーツが棚を飾っているのだ。

 尚、人体パーツは基本的に下取りが行われる。三本目の脚を生やしたり、手首を四つぶら下げるような酔狂はあまりいないからだ。


 女は上機嫌だった。

 前々から気になっていた手首をようやく交換出来るのだ。他のパーツはほっそりとしているのに、自前の手首から先は妙にぷっくりとしているのだ。これではアンバランスで、ちっとも決まらない。

 実に清々する。

 手首のコーナーへ一直線――だが、ふと目に止まるものがあった。

 生首だけがずらりと並ぶショウケース。

 その中の一つに目が吸い寄せられる。

 完璧だ。つるりとした禿頭を除けば、まさに理想の顔だった。

 生首の横に置かれた鏡に自分の顔が映る。

 今まで顔に不満を感じたことはなかった。しかし、自分の顔に比べて、この顔の素敵さと言ったらどうだろう!

 絶対に手に入れたい。手に入れなければならない。

 しかし、顔のパーツに興味がなかっただけに、これの相場がよくわからないのが不安と言えば不安だ。

 幸いというか予想外というか、拍子抜けするくらい顔の値段は手頃な価格だった。手首のためにと思って多めに持ってきた所持金だが、それでギリギリ賄える。

(……あれ?)

 最早眼前の顔以外目に入らなくなっていた彼女だが、隣の顔の値札と見比べてみて、奇妙に感じた。

 隣の顔は、目の前のものと比べて異常に高かった。周りを見てみると、隣のものは法外に高いようだが、それでも他の顔も目当ての顔よりは随分高かった。

 一通り見て回って、ようやく違いがわかった。目当ての顔だけ、無数の細かいスペック表の一部が空欄となっていた。

「ブランク……?

 ま、いいや。よくわからないし。

 すいませーん! あの、この顔と取り替えたいんですけど」


 手術には一時間もかからなかった。

 切り取り線に沿って紙を切るように、人体も自由自在に取り外せるのだ。

 目覚めると、強烈な違和感が彼女を襲った。

(え?)

 彼女は――と言うより、かつて彼女の身体の頭だった彼女は、頭だけとなってショウケースのよく見える台座の上に鎮座ましましてる自分を発見した。

 首から下がない。

 すっかり血の気が失せて、蒼白となった彼女はショウケースの前にいる女に気付いた。台の上からかろうじて見える床に、女が座り込んでいる。

 その顔には見覚えがあった。自分が買った新しい顔だ。そしてその顔が、自分の身体の上に乗っている。

 女は美しい顔に似つかわしくない茫洋とした表情で、周囲をきょろきょろ見回している。女は誰も頼りにならないことを悟ると、顔をくしゃくしゃに歪めて、

『おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!』

 涙と鼻水と涎を垂れ流して大泣きし始めた。

 わけがわからなくなった彼女は、やがて不安感に駆られるままに、目の前の女と同じように泣きじゃくり始めた。


 二人とも、まるで生まれたての赤ん坊のように泣きじゃくった。



『メモリー:    (ブランク)』・了

 結局三回目のワンライにもリアルタイムで参加しなかったわけですが、ふいっと思いついたので書いてみる。

 今回はぴったり一時間だった。最初は二時間かかって、前回は一時間半。順調に三十分ずつ減ってるな。この調子だと次は三十分で書き上げて、その次はゼロ分か。

 執筆時間がなんとかなっても、問題はネタ出しなんだよなぁ。お題発表から都合良く三十分で閃くものかしら。

 第四回のワンライは明日っつか今日開催だけど、果たして参加出来るだろうか(無理かもな)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ