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序幕:夜に啼く。
帳の下りた住宅街。
点々と物寂しく灯りを落とす外灯はチカチカと瞬いて、光りを求める羽虫を惑わす。
惑うのは何も虫だけではない。私の気持ちもグラグラと傾いでいた。道行く先に佇む灯りは妙に暖かに見え、まるで私を優しく包み込む救いの手のようだ。
いっそ此処で泣き叫んでしまおか。
今なら外とは言え人目はないじゃないか。小さな子供のように外聞も恥じらいもなく地べたに手足をばたつかせて駄々を捏ねるように泣いてしまえばどんなに楽だろう。どんなに胸がすっとするだろう。
けど、私はそうはしない。
否、出来ないんだ。
どうやって声を出して泣けばいいのか私は分からない。
涙は流れるのに、声が喉につっかえてるみたいで気持ち悪い。
叫ぶってどんなんだ。どうやって声を出していただろう。息の仕方すら忘れたように変な嗚咽しか漏れ出さない。
それでも泣いて裸足で夜道を歩く私に、彼はこう言ったのだ。
「……不様だね」
――と。