白雪姫2
ここは白雪姫、正確には白雪姫と小人達が住んでいる森の中にある小さな小さな、いやそれなりに大きな家の中である。
そしてここでの俺の役は、小人。
「へんびとーそこじゃまー」
「そこもじゃまぁ〜」
「ひまなら手伝ってよ、のぺっと立ってるだけじゃなくてさぁ」
「へんびとー、こっちこっち。見てみて〜ほこりがいっぱいー」
「しー姫が帰ってくる前に片付けないといけないんだから、皆ちゃんとやりなよー」
「そうだよ。へんびともちゃんと掃除してっ」
「………………」
ちなみに、
最後の『………』が俺こと日向紘の台紙である。
何故かへんび……いや、小人になってしまった俺は小人としての役を真っ当し、小人として白雪姫のお世話をし、小人として他の仲間達とわいわいがやがやし、小人として白雪姫を助けにくる王子を待ち、小人としての役回りを終え、小人としての………………
って、
「ふざけんなぁぁーーー!!」
突然叫んだ日向には一切構わず、他の小人達はせっせと忙しそうに動き廻っている。
「日向様も働いて下さいよ」
隣にいたこの物語の管理人、ぺローがため息をつきながらそう言うが日向は働く気など毛頭なかった。
「なんで俺が」
「なんでと言っちゃうんですか」
「言うだろ、普通に」
だって小人なんて。
なんだって俺がそんな役をしないといけないんだよ。前は王子役だったってのに。
「それは日向様が前回、王子役を嫌がられておられたからですよ。
なので今回、日向様が来られる、となった時に私もいろいろと考えたのです。日向様が来られる事により、前回同様わたわたしましたが、このわたわたは1度経験した身ですから。頭をフル回転し、わたわたに即座に対応させて頂きました。
王子役は前回嫌そうにされてましたので除外。となると、残された役の中で男が出来る役、となると小人しかいなかったのです。そんなに気に入りませんか?」
長々と説明してくれたぺローを睨み付けながら、日向は気に入らないね、と言う。
「気に入らないに決まってんだろ。そもそもここに来たのだって気に入らないんだからな」
ぺローはため息をつく。
「私が呼んだわけではないので、そこはどうしようもないですよー」
っていうやり取りは、もうやりたくないんですけど、とぺローはそれだけ言い残すと壁の中へと消えていった。
秘技、壁抜けだ。
一抜け、とも言う。
ぺローが消えた壁を見ながら、日向はぼやく。
「王子役も嫌だけど、小人役も同じぐらい嫌だ」
小人って言ったら、小さくて可愛らしくて帽子被ってて。んで、せこせこと働く蟻みたいな奴等。
子供がやるならいいと思う。だが、俺はそんなちっさな子供ではないっ!
それに………。
「ただいま」
「帰った〜よ〜〜」
「たっだいまぁー」
「そーじ、終わったー?」
ガチャリと扉が開く音がして、白雪姫とお供の小人達が帰ってくる。
黒髪の、ふわりとしたエプロンドレスを着た美しい女性。それが白雪姫だ。
「ただいま皆。お仕事任せちゃってごめんね?大丈夫だった?」
白雪姫が申し訳なさそうな顔で聞いてくるので、小人達は口々に大丈夫だよーと笑顔で答える。
「全然へっちゃらだよー、しー姫。こーいうのは僕らの仕事なんだから、心配は余計〜。まぁ、若干一人サボってた奴もいたけどねぇ〜」
そうねちっこそうに言った小人が日向をちらりと見る。
「な、なんだよ……俺だとでもいいたいのかよ」
「いやいや、まごうことなく君でしょ、へんびと。何にもしないで、ただただそこにぼっーと突っ立ってさ」
「そーだよ、へんびと」
「手伝わないなんて、サイテーだ」
「そーだそーだっ!」
「きりつを乱さないでっ」
「だから、へんびとだけ僕らと姿かたちが違うんだよ」
ボロクソに言ってくる小人達のあまりの暴言に怒ったのか、白雪姫が庇うようにして手を広げながら日向の前に立つ。
「皆っ!そんな事言っちゃだめ。皆と少し外見が違うからって仲間外れはよくないんだから。皆仲良く、ね?」
白雪姫は最後ににっこりと、女神のような笑顔で小人達にそう言い聞かせた。
その誰もがうっとりとするような笑顔に、小人達は毒気を抜かれ、しー姫がそう言うならと文句を言うのをやめ、散会していく。
天使っ!!!!
感動して、白雪姫の背中を涙ながらに見る日向。振り向いた白雪姫は日向の頭に手を伸ばした。
ぐしゃぐしゃ。
「え………」
「あなたも、皆のお手伝いはしないといけないわよ?」
そう言って頭を撫でた白雪姫は、日向から離れて行った。暫く呆然としていた日向は壁に凭れ、自身の頭にそっと手を伸ばした。白雪姫に撫でられた頭を。
…………。
「日向様」
「うわぁーーっっ!!?」
「そんなにびっくりしなくても」
突如壁から現れたぺローにびっくりした日向は、腰を抜かしてその場に座り込む。
「い、いきなり後ろから声かけられたら、誰でも驚くだろっ!!!」
「それはすみませんでした。次からは前に回ってから声をかけますよ」
ぽんっと座り込んだ日向の肩に両手を置いたぺローは、顔赤いですけど、そんなに驚いたんですか?と聞いてくる。
「ま、まぁなっ!そんな所だ、うん」
ぺローの手を払い、自分の腕で顔を隠す。こんな無様な顔、見られたくはないからだ。
そうですかーと言いながら立ち上がったぺローは日向に手を差しのべ、『捕まれ』の合図をしてきた。
日向はぺローの手に捕まりようやく立ち上がる。
「悪いな」
「いえ」
まぁ、でも………
日向から少し離れたぺローはにやりと日向を見てこう言った。
「日向様は、あーいう子供扱いしてくれるタイプが顔が赤くなっちゃうほど好みのタイプだったんですねー」
気付いてんじゃねーかっ!!!!