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白雪姫

「こりない人ですね、日向様」


目の前の男は呆れを全面に押しだしながら、日向に喋りかけてくる。


「俺だって来たくて来たわけじゃない。今回は運が悪かったんだよ。

まぁ、前回も運が悪かったんだけど」

「とかなんとか言いながら、本当は来たかったんじゃないですか?」

「殴るぞ」







ここは白雪姫の物語の中。

周りを森で囲まれた家に今、日向達はいる。

何故このような事になったのか。



順を追って説明しよう。





日向が見つけた、

塵取りに引っ掛かっていた光る物。それは『鍵』だった。

赤い石が付いた金色の鍵で、いかにも女の子が喜びそうな綺麗な鍵。




その鍵は、綺麗な外観とはうらはらに、人を物語の世界へと引きずり込む、

本性は悪魔のような鍵だったのだ。



「悪魔だなんて失礼な」

「俺にとっちゃ悪魔なんだよ」

「ロマンチックドリームの鍵ですよ」

「どこがだ」



とにかく。


その鍵に触れてしまった日向は前回と同じく、

ここ、

物語の世界の中へと来てしまったわけなのだが。




「ちょっと疑問なんだけど」

「なんですか?」

「前の記憶はなくなった筈なのに、なんでまた思い出す事ができたんだ?」


日向は前回、『シンデレラ』の物語でこの世界にお世話になった事がある。

だが、元の世界へと戻された時、記憶は消されたはずだったのだ。


実際、またここに来るまで日向の頭の中にはそんな記憶、少しも覚えていなかったのだから。



「記憶の現元は、私の上司にすでに渡してしまっていたので無かったのですが、コピーをちゃんととってあったのですよ。

なので、それを日向様に植え付けました」



植え付けたって。


「いちいちまた最初から説明するのも面倒だったので。一石二鳥です」


いやいや、

二鳥にはなってないだろ。言葉の意味間違ってないか?




こんな話しをしているこの男、名前をぺローと言うのだが。


この男の仕事は『物語の管理人』。


担当している物語の、登場人物になりえる人を探しだし、連れて来て物語を進める。

物語が終わったら、連れて来た人の物語の中の記憶をもらい、元の世界へと帰す。

そしてまた新しい登場人物を探しにいく。

それの繰り返しが、この男の仕事となる。


ちなみにぺローがもらった記憶はその人の中から消えるので、記憶消去となり、この世界での出来事は完全に忘れてしまう、という事になる。



「これが一石二鳥ってやつだ。ぺローも仕事が完了して、連れてこられた奴の恥ずかしい記憶、思いだしたくない過去も、そいつの中から末梢される」


これがほんとの一石二鳥。


「恥ずかしい記憶って。そう思ってるのは日向様だけですよ。女の子達は気に入って、楽しそうにしてくれてますからね」


むしろ、記憶は残しておいてくれって女の子の方が多いんですから。



若干自慢気に言う物語の管理人、ぺローに日向は冷たい視線を送る。


「俺は男だ」

「知ってますよ」

「こんな女女した物語、気に入るわけないだろ」

「そうですね」



だから、今度は失敗しないように、女の子しか行かないような場所に鍵を置いておいたのに。



「日向様が見つけてしまわれるからですよ」

「………」




そうなのだ。


前回は地面に落ちていた金色の鍵だったが、今回は『女子トイレの中』。


正確には、『女子トイレに備え付けてある塵取り』に引っ掛かっていたのだが。




「普通、男は見つけられませんよ」

「………」

「もしかして盗撮とか、犯罪になるような事、してたんですか?」

「違うっ!」



解っているくせに、

ほんとに嫌味な奴。



日向は女子トイレで、犯罪行為をおこなっていたわけではない。

そんなこと、これから先も一生ないだろう。多分。いや、絶対。

日向はただ、同じクラスの月島に頼まれ、『黒いあれ』を退治していたのだ。女の子が苦手な『黒いあれ』を。


今思うと、

なんだって俺にそんな事頼んできたんだよ、

そのせいで俺は…、と月島に文句の一つでも言いたくなる。


戻ったら言ってやる。

絶対に言ってやる。





そんなこんなで。


日向は2回目となる女女しい物語を、進めなくてはいけない事と相成ったのだ。





「今回もシンデレラなのか?」


隣にいる嫌味な奴、

ぺローに聞く。

見たところ前回とは場所が違っていた。前回は『お城』だったのだが、今、日向がいるここはメルヘンチックな一軒家、だ。

人形やら置物やら小物やら、ファンシーな物がたくさん置いてある。

女の子の家、だろうか。



「いえ、今回は」



ばったーんっ!!



ぺローが言うよりも前に、勢いよく家の扉が開かれ、外から叫び声が聞こえる。


「たっだいまぁーー!」

「疲れたー」

「楽しかったねー、また行こうよぉー」

「わっ、足踏まないで」

「早く入ってぇ」

「ごめん」

「邪魔ぁ」

「早くー」


たくさんの小さい、色とりどりの三角頭巾を被った子供が騒ぎながら入ってくる。



その後ろから、

黒髪の、ふわりとしたエプロンドレスを着た美しい女性が微笑みを浮かべながら、入ってきた。


「慌てないで。ゆっくり歩きましょ。お留守番ありがとう。何もなかった?」



女性は日向に視線を向け、天使のような笑顔で問いかけた。


まさに女神。

天使って言ったけど、

やっぱ女神。



「……ぺロー」


女性をぽーっと見ながら、日向はぺローに話しかける。



「今回は『シンデレラ』ではなく、『白雪姫』ですよ。日向様」




白雪姫。



………ん?


お留守番ってなんだ?




「今回、日向様の役柄は

小人。

突然変異で、他の小人よりでかく成長した、

小人こびと改め、

変人へんびとです」


決して、

変人へんじんって呼ぶわけじゃないですからねー、とぺローは笑顔で言う。



「……ぺロー」

「なんですか?日向様」





ふざけんなっ!!






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