prelude白雪姫
この話しは、
日向が『白雪姫』の物語に入る直前の、学校での話しです。
なので、「prelude」
その前に、って事ですね。
学校の名前とか、軽く適当に考えて出しました。
あと、他の絵本部部員とか。
「prelude」が終わったら、本格的に『白雪姫』の話しに入ります。
「ぐぅあー…眠い」
日向紘、
16歳。
只今絶賛部活動中。
「ちゃんとやろーよ、紘君」
「もーいいじゃん。
どうせまたやられるって」
イタズラ。
「そんなことないよ。今度は『綺麗に読んで下さい』って紙張っとくし」
笑顔でそう言う男に、
無駄だと思うけどねー、と日向は心の中で思う。
ここは日向の通う高校。
『第三北高校』
夏休みも終わり、新学期が始まっている。
だが、
まだ夏休み気分の浮かれ野郎がいるらしく、日向達絵本部が作った制作物、その名も『姫夢の明るい1日』が壊されるという被害を受けた。
「壊されるって言っても、少し落書きとかされただけじゃない」
日向と同じ絵本部部員、
坂木悠太が「そんな大袈裟なー」と笑いながら言う。
坂木悠太は日向と同じ1年の絵本部部員仲間。おっとり系のぽっちゃり系で、
モテるかモテないかで言えば、『モテない』方の人種だ。
そんな坂木を見ながら、日向は腕を組み「気に入らないんだよ」と言う。
「俺の描いた絵に落書きしやがったんだぞ。壊されたと言っても過言じゃない」
「一応僕や咲さんも書いたんだけど」
咲さん、とは。
同じ絵本部部員で、一つ上の先輩、山本咲先輩のことだ。
坂木と山本先輩は幼馴染みらしく、昔から仲良しらしい。
なので「咲さん」「悠君」呼び。
ちょっと羨ましい。
とか、決して思ってないぞ。
「まったく。俺の描いた絵を馬鹿にしやがって。
見つけたらただじゃおかねー。誰だか知んねーけど」
「ただじゃおかないって、何するの?」
「なんかだよ、なんか」
夏休みの制作物。
『姫夢の明るい1日』
ちなみに、当たり前だが絵本だ。
いわゆる飛び出る絵本的な物で、夏休みの部活中はずっとこれを作っていた。
絵本部として始めての大イベント、活動大作としてこの絵本は学校に展示される事となったのだが。
その絵本に落書きを発見したのは、つい1週間ほど前の事だ。
見つけたのは日向の担任の、金髪先生。偶然廊下を通りかかった時に見つけたらしく、日向に教えてくれたのだが。
活動大作、『姫夢の明るい1日』に力を入れていたのは、なにも日向だけではない。
坂木も山本先輩も日向と同じぐらい、
もしかしたらそれ以上の力をこの絵本に入れていたのだ。
いくら落書きが少しだけで、直すのにも時間がかからないからといって、
絶対に許してはいけない。
「ところで、山本先輩はまだなのか?」
授業が終わってから、もうすでに30分以上はたっている。学年が違うので、何か別の授業でもあるのかもしれないが。
「今日はトイレ掃除だから遅くなるって言ってたよ」
「そっか」
トイレ掃除か。
じゃあ遅くなるだろうな。
この学校がトイレ掃除にかける気合いは、実は半端ない。
隅から隅まで、
まさに、地面から天井まで綺麗に掃除をしないといけなく、
掃除が終わると、先生の最終チェックが入るという最後の難関つきだ。
なので、
トイレ掃除の担当になった生徒は、必ず部活に遅れる。
「できたー」
坂木が絵本修繕を終わらせたらしい。
「おつかれ」
「ありがとー」
「無駄な努力にならなきゃいいけどな」
「大丈夫だってば。
先生達も学校中に注意してくれたし、貼り紙もバッチリ貼ったから」
見ると、『姫夢の明るい1日』が置かれている机の端に、
『イタズラするべからず!綺麗に読んでね』
と、書かれた可愛いイラストつきの貼り紙が貼ってあった。
「貼り紙なんてものはな、女が使ってるダイエットの薬ぐらい効果がないもんなんだよ」
「それはあまりにも偏見すぎだよ」
「うるせー」
ぷいっとそっぽを向く日向に呆れながらも、坂木は苦笑する。
「じゃ、戻ろうか」
「あぁ。新しい絵本の続き、作らないといけないしな」
「話しは考えたの?」
「んー……。
まぁ、そこそこ」
絵はいいんだが、
問題はストーリーなんだよなぁ。
「はぁ」とため息をつきながら、坂木と教室に戻ろうとした日向だったが、
同じクラスの月島月菜が日向に声をかけてきたので、足を止めざるをえなかった。
「日向!ちょうど良かった」
「月島、どーかしたのか?血相変えて」
何かあったのか?
「あれよっ!あれが出たのよー!!」
あれ?
「あれって何だよ?」
「あれはあれよっ。いいからこっち来て!」
月島に引っ張られるようにして日向は走り出す。
「月島っ、ちょ…坂木っ、悪い。先行っといてくれっ」
「うん。わかったー」
のんびりと手を振る坂木を残して、
日向は月島に、ある場所へと連れて行かれるのであった。
「おい……何で俺が」
「いいから早くっ」
「いや、でも、ここは」
「私達がいいって言ってんだから大丈夫!だから早く……って、ギャーーァァ!!
飛んだ飛んだとんだぁぁー!」
「……………」
生徒が使うトイレのうちの一つ。
北校舎の一階、女子トイレ。
そこに「あれ」は現れた。
「綺麗にしてる、ってのに何で出るんだよ」
「し、知らない。外からでも入ってきたんじゃないの?」
ぐいぐいと日向の背中を押しながら、月島は手に持った『○キブリばすたー』を思いきり振る。
「それ、あるんなら俺じゃなくてもいいだろ」
「駄目よ!これは近付かないとかからないんだから。無理よ、近付くのは無理よ」
月島と同じトイレ掃除の他の女子達は、トイレには一切近付いてこず、遠巻きに日向と月島を見ている。
「がんばれ」
「男でしょ」
「早くしてよ」
「あんたしかいない」
「さっさとやれ」
などなど、
様々なエールを受けながら、日向は月島から「○キブリばすたー」をもらい、一人女子トイレへと浸入していくのだった。
なんで俺がこんなこと……。
日向は壁に張りついている「あれ」に近付く。
ブシューゥゥゥゥゥゥ。
黒い「あれ」は動かなくなった。
日向は任務を達成した。
「終わったぞー」
「捨てて」
「は?」
「捨ててっ!」
何で俺がそこまで。
トイレに備え付けてあるほうきと塵取りを取り出しながら、日向はぶちぶちと文句をいいつつも、
「あれ」を塵取りの中に入れ、トイレから出る。
そして、一人トイレの近くで見守っていた月島に塵取りを突きつける。
「ほい」
「ギャーー!!
馬鹿!こっちに持ってくんなっ」
「……あのなぁ」
「早く外っ、外に捨ててきて!」
はいはい。
解りましたよ。
日向は女子達にお礼も言われぬまま、外へと追いやられてしまったのであった。
「ったく」
日向は、黒い「あれ」を外にあるゴミ収集場に捨ててから一息つく。
何で女はあんなに煩いんだろう?
あんな物ぐらいでギャーギャーと騒いで。
疲れないのかねー。
疲れないんだろうなぁ。
「はぁ…」
日向を女子トイレへと無理矢理連れて行った、同じクラスの月島を思い出す。
月島だけは、日向が「あれ」を退治するのをトイレ近くで見守っていた。
連れて来た者の使命感なのか、それとも日向がちゃんと「あれ」を退治するのを見張るためなのか。
ぼけっとそんな事を考えていた日向が、さてそろそろ戻ろうかと思った時、
持っていた塵取りに何か光る物が引っ掛かっているのが見えた。
「なんだ?」
なんの気はなしに、
日向がそれに触った瞬間、
強い光が、
辺りを包みこみ、
日向はその場から消え失せた。
「prelude」終わりです。
こんな感じで、日向は物語の世界へと入って行きます。
そして、次から『白雪姫』が始まります。
うん。
多分。