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シンデレラ4

「最低ですね」


ガラスの靴を持って、ぺローに、

「ガラスの靴、ゲットだぜっ!」と腕を振り上げたらそう言われた。

日向の悪行を見ていたらしい。


「仕方ないだろ?ああでもしないと、ダンスも踊ってくれなかったし、このガラスの靴だって置いてってくれなかったかもしれないんだぞ?」


目の前の台座に置いてあるガラスの靴を指差した。日向の戦利品だ。



「無理矢理じゃないですか。ロマンチックも何もない」

「無理矢理とか…お前に言われたくないし」


最初にシンデレラを、無理矢理お城に連れてきたのはどこのどいつだよ。


「それはもともと、あなたが」

「あーー!!はいはいっ。俺が悪いって言うんだろ?耳タコだ」


ぺローの言葉を遮り、日向は耳をふさぐ。責められるのも聞きあきた。


「……とにかく、後はシンデレラを捜しだして、結婚まで持ち込んで頂けたらハッピーエンドを迎える事ができます。もう少しなので頑張って下さいね」


ぺローに言われずとも解ってはいる。

が、そこが問題だった。


見つけるのは容易いだろう。顔も知っているし声も間近で聞いた。今度こそ、見たらすぐにシンデレラだとわかるだろう。


だが!


あの少女が日向と結婚してくれるか、となるとそこは難しいだろう。


いや、確実に『ない』。


「はぁー………」


日向は盛大なため息をつく。次会う時までに対策を練らないといけない。だが悠長に考えている暇を、日向は許されていなかった。


「では、行きますよ。日向様」

「は?」

「『は?』ではありません。シンデレラを捜しに行きますよ」


ついさっきパーティーが終わった所なのに、何言ってんだ?と言う目でぺローを見る日向に、ぺローは外を指差す。


先程まで満天の星がきらきらと瞬いていた夜の景色が一変、

外は太陽の光が眩しい、鳥がチュンチュンと鳴いている朝の景色へと早変わりしていた。


「…………」

「時間は割愛しました」


さすが物語の中の世界。

休む暇なし。









城から外に出て城下町。日向とぺローとあと数人のめし使い、そして護衛の兵士。

『王子様御一行』のお通りだ。


「ぺロー、俺思うんだけどさぁ……」

「何ですか?」

「自分で探した方が早い」


通算56人目。

ガラスの靴にぴったり合う女性はまだ見つからない。並ぶ行列も全然減らない。むしろ人がどんどん増えて、収拾がつかなくなってきている始末だ。


「ていうか、なんで小さい子供やらおばちゃんやらが混じってるんだ?」


行列に並ぶ人々を見ながら日向はぺローに尋ねる。


「皆、王子のお嫁さんになりたいんですよ。良かったですね、モテて」

「微妙なんだけど。それ」



町に『王子様御一行』が着いた時には、すでに町中は大騒ぎになっていた。

王子がガラスの靴にぴったり合う女性を妃にする、という伝令を城が情報屋に流したらしい。


『靴に合う女性の足求む!』


などという看板が町のあちこちに立てられ、それを見た女性達が色めきだち、我先にと町に着いたばかりの王子御一行に突撃してきたのだ。


あまりの人の多さに整理券など配っている暇もなく、町の入口近くで『ガラスの靴合わせ』が始まってしまったのだ。



「女って、こえー……」

「王子の妃になったら一気にお金持ち。楽、しほうだい、金、使いたいほうだい、ダラダラしほうだいですからねー。皆なりたがるに決まってるじゃないですか」


減る様子のない群衆を見ながら、笑顔という名の仮面をつけたぺローが隣で呟く。


「もうちょっと、オブラートに包めないのか?ロマンチックはどうした。金とか楽とか、即物的な。仮にも管理人だろ?シンデレラの物語の」

「管理人は管理人。物語の中の住人じゃないんです。上司に怒られ、仕事に追われるサラリーマンなんですよ。お金が欲しい今日この頃、なんですよ」


「………そーか」

「そうです。実は転職とかも考えてます」




そんな会話をしつつ、日向は、あの女、来てないんだろうなーと他人事の様に思っていた。




そんなわけで。





ぺローに「探してくるわ」とだけ言ってその場を離れた日向は、本物のシンデレラを捜しに町を散策するのであった。









町は『靴合わせ』のせいで、ほとんどもぬけの殻になっていた。

泥棒さん入りたい放題な現状に、いいのかこれでと思いつつ、日向はシンデレラの家を探した。



「あのー、この辺りにシンデレラって女の子、住んでませんか?」


ようやく見つけた、『靴合わせ』に興味なさそうな30代男性に日向は尋ねる。


「シンデレラ?シンデレラってお向かいに住んでるシンデレラちゃんの事か?」


多分、そのシンデレラちゃんの事だと。


「あの子はいい子だよなぁ。家の手伝いもちゃんとしてて。あれはいい嫁さんになるぜー」


うんうんと一人頷くおじさん。「俺の所に嫁に来てくれー」と叫んでいる。


「それであの、そのお宅はどこに?」

「ああ、この道を真っ直ぐ行って曲がり角で左に曲がった所の青い家の……」

おじさんがいい終わる前に、その曲がり角から一人の少女が出てきた。手には買い物かごをもっている。


「ナイスタイミング!シンデレラちゃぁーーん、お客さんだよーー」


おじさんが少女に叫ぶ。


少女はそれに気付き小走りで近寄ってくるが、日向に気付くと誰もがわかるような、嫌そうな顔をした。


「げっ」

「よう。何時間かぶり」

「この子、シンデレラちゃんに用があるみたいだよー。

もしかして、これ?」


おじさんは、にやにやしながら親指を立てる。


「違いますっ!なんで私がこんな盗人」

「盗人?」

「預かっただけだろー?人聞きの悪い」


ちゃんと返しにきたぞ。


「もういらないわよ!あんな物」

「それは困る」

「あんたが困ろうと、こっちは知ったこっちゃないわ。いらないったらいらない!」


意固地になるシンデレラに、日向はどうしたものかとため息をつく。


「何?何を返しにきたんだい?」


暫くその様子を見ていたおじさんが、日向に訊ねる。


「ガラスの靴です。シンデレラが魔女にもらっ」

「あぁぁーーー!!」


遮るようにしてシンデレラが叫ぶ。


「何だよ」

「やめてよね。一生の恥じだから」


おじさんに聞かれないように、シンデレラは日向にこそっと言う。


「私があんなビラビラな服着てお城のパーティーに行っただなんて、恥ずかしすぎる。馬鹿すぎる。アホすぎるー」


どんだけー。

ぺローの奴、よく連れて来れたな。こんな女。


「もしかしてガラスの靴って、朝から皆が騒いでる、あのガラスの靴のことかい?」


シンデレラがきょとん、とする。


「騒いでるって、何かあったの?そーいえば町がやけに静かだし。朝っぱらから姉様達も慌てて出掛けたけど」


朝は弱い方なのに。


そんなシンデレラに、おじさんはびっくりする。


「シンデレラちゃん、女の子なんだから、もうちょっとそういう事に敏感になった方がいいよ。おじさん、心配」

「だから何なんですか?お祭りでもやってるんですか?」


日向はそのままおじさんに説明を任せ、状況を観察する事にした。


「入口近くで、『靴合わせ』がやってるんだよ」

「靴合わせ?」

「お城の王子の后捜しなんだって。それに町中の人達がこぞって我先にと行ってるんだよ」


シンデレラは興味なさげに、「へー、そうなんだ」と言っている。


「その靴っていうのが、『ガラスの靴』なんだよ」

「へー……って、はぁ!?」


いい驚きぶりだ。

そろそろ会話に混じろうか。


「迎えに来たぞ、シンデレラ」


日向は笑顔を顔に張り付けて、シンデレラに手を伸ばす。

おじさんは、「やっぱりそうなんだねー」と嬉しそうだ。


「ちょ、ちょっと」

「捜していたのはお前だ、シンデレラ。俺の后になって欲しい」


ぱくぱくと口を開け閉めするシンデレラの腕を掴み、日向は自分に引き寄せ、抱きしめる。


「……!」

「好きだ。俺と一緒になってくれないか?」


おじさんが「おぉ!」と叫ぶ。

なんだその、いい所きたー!な顔は。



「……い」

「い?」

「いやだぁー!!!」


どかっと、

シンデレラの蹴りが急所に決まる。


「……!!!」


………。




「そんなもの、嫌に決まってんでしょ!だ、誰があんたなんかとっ」


真っ赤になって叫ぶシンデレラの言葉は日向の耳には入らない。


「シンデレラちゃん、今のはちょっと……」

「何っ、おじさんもこいつの味方なわけ!?」

「いや、味方というかなんというか……」


おじさんはうずくまっている日向に、憐れみの目を向ける。


「とにかく、私は嫌!死んでも嫌っ!こいつの嫁になるぐらいなら死ぬ!死ぬわ!死んでやる!おじさんは私に死んで欲しいの!?」


おじさんに突っ掛かっていくシンデレラに、

それを、あたふたして対応するおじさん。

そして、急所を蹴られうずくまっている日向。



収拾がつかなくなってきました。





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